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[ liberal arts-大学生の常識 ]

資格で考えるキャリアプラン(3)合格率10%、需要高い通関士
ヒアリなどで検疫官にも注目

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
資格で考えるキャリアプラン(3) 合格率10%、需要高い通関士ヒアリなどで検疫官にも注目

 国際貿易を活発にしようとする動きが加速しています。日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)で大枠合意したほか、米国を除く11カ国で環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を目指す協議も始まりました。貿易に関する資格としては、企業で輸出入の手続きをする通関士や安全性に不安のある商品などの輸入を防ぐ検疫官が挙げられますが、具体的にはどんな仕事なのでしょうか。

国際貿易の進展背景

 国境を越えたモノの移動は、国際化の進展によってますます盛んになっています。日本の場合は、円高が進み、衣料品などを含めた製造業者が生産コストを抑えるために海外に生産拠点を移し、そこからの逆輸入が増えたことがその主因ですが、インターネットを通じて世界各地の情報が容易に手に入るようになり、これまで知られてこなかった海外の「素晴らしい」「面白い」製品が発掘され、それが通信販売ルートで購入されるようになったということも大きく影響しています。

 ただ、自由貿易体制に対する懸念が指摘されているのも事実です。海外から安い製品が大量に国内に流れ込むと、国内の生産者はたちまち窮地に陥ってしまうという声もあります。日本にとっては農業などがその代表的な例です。限られた面積でコストをかけ、高品質の農作物を生み出そうとしている日本の農業と、規模の経済性を活かしてより安い農作物を提供しようとしている他の国々を同等に扱っていいのかどうかは難しい問題です。一方、自動車など、国際競争力の極めて高い分野では、逆に輸出先で高い関税を掛けられてしまっては、価格競争力を失い、本来売れるはずのものが売れなくなってしまうという声が産業界では根強くあります。

今後も活発な国際貿易が続きそうだ(神戸港)

 トランプ米大統領は米国第一主義を掲げ、自国産業の保護に乗り出しています。その結果、日本をはじめとする外国からの輸入品に対する関税の引き上げにつながる可能性が高くなっています。7月4日から8日にかけてドイツで行われた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、米国のパリ協定からの離脱や、移民・難民問題、北朝鮮への対応と並んで、米国の「保護主義」への対抗が大きな論点となりました。

 G20に先立ってベルギーのブリュッセルで行われた日本とEUのEPAでは、日本の自動車やチーズなどの欧州産食品の扱いを巡って交渉が難航しましたが、大枠で合意したと発表されています。これはG20 での「保護主義への対抗」の主張を後押しする狙いがありました。TPPにおいては、米国が離脱表明したものの、その他の国々でどのような自由貿易体制を構築していくかが協議されています。保護主義台頭に対抗する自由貿易への国際的取り組みは活発に行われているといえます。

貿易に関する唯一の資格

 こうした、ダイナミックに変化しつつある貿易の現場の第一線で働くのが通関士です。通関士は貿易に関する唯一の国家資格です。通関士は輸出入業者の代理人として税関に対して輸出入の申告を行います。その際、輸入品に対しては納税額の算出も行います。試験の難度は高く、合格率は10%前後ですが、要点をきちんと押さえて効率的に学習すれば、短期での合格も不可能ではありません。

 ただし、通関士は税理士や公認会計士のように独立開業することはできません。通関士として勤務するには通関業者、もしくは通関部門を自社に持つメーカー等に勤務し税関による確認を受けることが必要となります。しかし、その需要は高く、たとえ他の業種に勤めていても、将来、転職を考える際には大きな武器となることでしょう。

 最近では、そのスペシャリストとしての位置づけと、働き方改革の中で、通関士に対して在宅での勤務が認められるようになりました。プロとして、かつより自由度の高い働き方を志向する人、特に女性にとっては非常に魅力的な仕事であると思います。

 今後は、スペシャリストとして、企業に属さなくてもフリーランスとして働き、自活できるようにしていくことが必要ではないかと考えています。そうすれば、通関士を目指そうとする人はますます増えるでしょうし、それによって通関士の質もさらに向上するとともに、通関士としての観点から、貿易の現状に対して、より望ましいあり方に関しての改革提案も提起されてくることが期待されます。

検疫官、「異物」侵入防ぐ

 また、厚生労働省の技官である検疫官の役割もより重要になっています。この資格については、看護師の免許を保有していなければならないなど、通関士と比べて厳しい受験制限が付いています。

安全性に不安のある食品などの輸入を防ぐ検疫官の仕事はますます重要になりそうだ(横浜市金沢区の横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター)

 近年は、貿易の深化によって、新たな問題も発生してきました。たとえば、今日、日本の港でのヒアリの発見が大きな話題となっています。貿易量の増大に伴い、それを担う船舶によって、望ましからざるものが輸入品に伴って国内に運び込まれてきています。最近におけるその代表的な例がヒアリなのです。

 ヒアリは南米原産のアリで、強い毒を持っています。神戸港などで発見されており、つい最近では東京港でのその存在が大量に確認されました。

 海外から「異物」が持ち込まれれば、日本の植生など、自然の在り方に大きな変化を強いることになりますし、今回の場合のように、直接的に生命の危険をもたらす場合もあります。過去においては、中国などアジアで流行した鳥インフルエンザの日本への侵入を防ぐために、懸命に水際対策が行われたことがあります。

 今後、発展途上国との貿易が増加していくことは確実であり、それに伴う病原菌や「厄介な」生物の付随的移動も増加することも予想される中、この分野におけるスペシャリストをもっと積極的に育成し、港湾や空港といった現場に投入していくことが喫緊の課題として望まれます。そのためには、現在の検疫をめぐるスペシャリストの定義、その専門的資格の付与、独立性についても早急に見直していかなければなりません。

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