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liberal arts-大学生の常識

起業へのアイデアを生む 三つの発想法

榊原健太郎 authored by 榊原健太郎サムライインキュベート社長 
起業へのアイデアを生む 三つの発想法
撮影協力:柏の葉イノベーションラボ KOIL

 日本で起業を目指している方はどれぐらいいるのだろうか。

 ベンチャーエンタープライズセンターが発行している「ベンチャー白書2016」がベンチャー投資の国際比較をしている。それを見ると、米国・欧州・中国に比べて日本は金額も件数も圧倒的に少ないことがわかる。

 毎月、当社は資金調達を希望するシード段階(創業直後)の起業家を対象にしたプレゼンテーション大会を日本と当社の支社があるイスラエルで開いている。世界をよい方向に変えるような事業を一緒に成長させる「最初の一歩」となる取り組みだと思っている。

 日本では、毎月20社程度の応募があり、その中から10社程度がプレゼンに臨む。そこから出資や事業支援(インキュベーション)の対象になるのは2、3社といったところだ。一方、イスラエルは、人口800万人の小国だが、日本を上回る50社ほどの応募がある。

 どのような工夫をすれば日本で起業が増えていくのだろうか――。こうしたことを常日ごろ考えていくうちに、1つの仮説にたどり着いた。「アイデアの発想で苦労している人が多い」のが最大の理由ということだ。「アイデアを生み出す人の数を増やせば、おのずと起業家の数も増えてくる」との発想である。

 この仮説に基づき、10人限定の「起業アイデアの発想法」と銘打ったイベントを実施した。するとすぐに定員が埋まってしまうほどの大きな反響を得た。その後も定期的に行っているが、参加予約はいつもいっぱいだ。これだけ興味を持って足を運んでくれる人がいるということは、やはりニーズがあるのだろう。

 参加人数はあえて1回10人に絞り込んでいる。多くの人が集まるイベントでは、参加者が自分の意見を言えずに終わってしまうことが多い。イベントを見に来た人の視点から抜け出して参加者の立場にならないと、起業には至らない。

 私の起業アイデアの発想法は3つある。まず「5年後の世の中」がどうなるかを想像する。過去のトレンドを振り返りつつ、政治・経済・社会・技術の4つの視点でこれから世の中がどう変わっていくのかを思い描く。

 政治なら米国のトランプ政権誕生でこれから世の中がどうなるのか、経済なら仮想通貨やシェアリングエコノミーによって世の中がどう変わっていくのか、社会であれば働き方革命が叫ばれている中で人々の生活がどう変化していくのか、といった具合だ。

 そして、これらを想像した世界の中で、2つ目のことを考える。あらゆる国・業界・業種・老若男女と交流する。評論家になるのではなく、当事者の立場になって課題を見つける。その人の立場になりきり、そこでの問題を見つけられるかがポイントである。

 インキュベーターとして起業家支援に取り組んでいる私が最も意識をしているのが次の問いだ。その製品・サービスは誰を対象にしどのような課題を解決しようとしているのか――。この問いかけに、誰もが納得するようなプレゼンテーションを10秒でできたら、そのアイデアは成功する可能性が高いと思っている。

 3つ目は「なぜ?」を繰り返すことだ。当たり前になっている習慣や仕組みのなかで、漏れとなる部分はないのか、あるのならこれを「壊す!」つもりで考え抜く。「なぜ銀行は午後3時に窓口が閉まってしまうのか」といった疑問をできるだけ多く書き出し、これを突き詰めて考える。起業を目指している方は、これらの3つの発想法をオススメしたい。

 イスラエルの起業家たちは1日100個リストアップするぐらいの勢いで発想を繰り返している。日本でも同じようなことができれば、世界を変える起業家が生まれるかもしれない。
[日経産業新聞 2017年5月25日付、日経電子版から転載]

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