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[ career-働き方 ]

地方の豪族企業(7)アンデルセン・パン生活文化研究所
(広島市)
――パン主役で生活豊かに、
食卓の花・ワイン提案

地方の豪族企業(7) アンデルセン・パン生活文化研究所(広島市)――パン主役で生活豊かに、食卓の花・ワイン提案

専門家育成、食べ方紹介

 焼きたてのパンが並ぶカウンター。香ばしい匂いに誘われてトングとトレーを取り、好きなパンを自由に選べる。パン売り場でよくみられる様子だ。これを広めたのがアンデルセン・パン生活文化研究所(広島市)。株式会社らしからぬ社名のとおり、林春樹社長(68)は「パンが主役の食生活を提案していく」と話している。

 林社長が言う「パンが主役の食生活」とは何か。その意味を探るため、アンデルセン・パン生活文化研究所の旗艦店「広島アンデルセン紙屋町」(広島市)を訪ねた。

 店舗に入ってまず目に入ったのは色とりどりの花だ。食卓に飾るものとして販売しているほか、専門デザイナーを配置してアレンジメントセミナーを毎月開いている。

 奥にはワイナリーもある。ソムリエが常駐してパンと相性の良いワインを提案する。2階にあるカフェでは、野菜やスープ、グリルなどを用意している。

 店全体を貫いているのが「パンをいかにおいしく、楽しく食べるか」という考え方。パンを主軸に据えた豊かな生活様式を提案してパンの需要を喚起するというのが広島アンデルセンの目的だ。

 アンデルセン・パン生活文化研究所はこうした店舗を東京・成城や自由が丘など高級住宅街に置いている。大都市にある主要な百貨店内にも出店しており、生活にゆとりを求めている人たちを主な顧客としている。

生地冷凍の技術

 所得の向上、価値観の多様化、欧米へのあこがれ――。米飯を主食としてきた日本で「パンが主役の食生活」という言葉が違和感なく受け入れられるようになった理由はいくつかある。そのなかにアンデルセン・パン生活文化研究所が開発した技術がある。パン生地を冷凍させる技術だ。

 ある童謡の影響で「パンの店では朝早くから働いている人が多い」との印象は強い。焼きたてのパンを提供するには、小麦粉を練ってパン生地をつくり、釜に入れられるようにする必要がある。そのため職人は早朝や深夜からパン生地をつくり始めることが多かった。

 こうした労働環境を変えようと、アンデルセン・パン生活文化研究所の創業者の故・高木俊介氏は1960年代に生地の冷凍技術の習得に着手した。製造担当者を米国に派遣して技術を学ばせ日本に持ち帰った。パン生地を保存できるようになればつくり置きが可能になり、深夜に働かなくても済むからだ。

 イースト酵母の使用量や発酵法など冷凍生地の製造方法に加え、生地の量産、日持ちさせるやり方など多くの課題があった。試行錯誤を重ね開発に着手してから約10年後の1972年、技術を確立し特許を取得した。

 アンデルセン・パン生活文化研究所がフランチャイズチェーン(FC)展開しているパン専門店「リトルマーメイド」では、冷凍パン生地が使われている。パン生地をつくる職人が店にいなくても、釜さえあれば焼きたてのパンをすぐに並べられる。こうした利点を生かし、加盟店の数を269店(2017年3月時点)に伸ばした。

 だが、高木氏はすぐに特許を開放し、冷凍パン生地の技術を誰でも使えるようにした。焼きたてのパンをどの店でも提供できるようになれば、パン全体の消費量は確実に増えると考えたのだ。

 実際、この技術が核となり、パン専門店だけでなく、コンビニエンスストアやスーパーなどでも焼きたてのパンが食べられるようになった。トングとトレーが広がったのもこのおかげだ。

若手が農作業

 パン市場の裾野を広げる役割を他社に任せる一方、アンデルセン・パン生活文化研究所は頂を高めることに力を注いでいる。

 広島アンデルセンのパン売り場では、カレーパンやあんドーナツなど日本人にとって定番のパンだけでなく、パンの本場の欧州で売られているようなパンもある。どれを選ぶか悩んでいるとカウンター越しに店員から声をかけられた。

 「このパンは酸味があり、しっとりとした食感が特徴です。そのままトーストして食べても十分ですし、冷凍保存もできますよ」

 声をかけてきた店員は「ブレッドマスター」と呼ばれるアンデルセンの社内資格を持つ。来店客に様々なパンの特徴や食べ方、料理との組み合わせなどを紹介する「パンの専門家」だ。

 この資格制度は05年に始めた。1年間の「入門コース」で世界各国のパンの素材や製法、歴史や文化、気候などを学んだ後、「育成コース」の2年間でより専門的な知識を身に付ける。

 合計3年間の研修の後、試験に合格した人がブレッドマスターとして認定される。現在、23人おり、専用の制服を着て全国の主要店舗に配置されている。

 広島県北広島町にある教育施設「芸北100年農場」では、パン素材の小麦や野菜、ハーブを育てる研修を毎年実施している。対象はグループ企業で働く30歳以下の若手社員らだ。

 土を耕して肥料を入れるなど畑を開墾するところから始める。1年4カ月間、農作業をしながらパン作りやテーブルサービスなどを学ぶ。「農作業を通じてパンの素材にどれだけの労力がかかっているのか知ることで、商品への思い入れも深まる」(林社長)

 アンデルセン・パン生活文化研究所の16年3月期のグループ全体の売上高は前の期比3%増の694億円だった。同社が今後、パンが主役の食生活を定着させる地域として有望とみているのが東南アジアだ。「人口増が著しく、今後パン市場の拡大が見込まれる」(林社長)

 16年秋にはインドネシアに現地企業と合弁で冷凍パン生地工場を設立した。イスラム教徒の人が宗教上のタブーを気にせずにパンを食べられるように、この工場はハラル認証を申請している。現在はインドネシア国内のコンビニ店に生地を販売している。将来はリトルマーメイドのようなパン専門店をFC展開することも視野に入れている。
(広島支局 佐藤亜美) [日経産業新聞2017年3月3日付]

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