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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018「内定長者」たちの
ぜいたくで切実な悩み

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 「内定長者」たちのぜいたくで切実な悩み

 「たくさん内定をいただいたんですが、どの会社に決めればいいのか」。就活生と会うたびにこんな声を聞く。学生優位の「売り手市場」や企業の採用活動の早期化で複数社からラブコールを送られている「内定長者」は多い。悩みとは無縁に見えるが、そうでもなさそうだ。

「成長しすぎている会社も...」

 就活情報サイトを運営するアイデム(東京・新宿)の調査によると、6月15日時点で内々定をもつ学生の平均獲得社数は2.3社。企業の採用意欲が高い上、6月に解禁された大手企業の選考が一服して学生の持つ内々定数が膨らんでいる。

 6月下旬の都内某所。就活探偵団の呼びかけで会議室に集まってくれた内定長者たちはさまざまな「ぜいたくな」悩みを聞かせてくれた。

 慶応大4年のA君は、大手ベンチャーから内定をもらい、受諾している。大手コンサルティング会社2社と人材大手1社からも内定をもらったが断った。順調な就活だったが、「まだ良い会社があれば受けたい」と話す。内定した大手ベンチャーは、「やや成長しすぎている」というのだ。

イラスト=篠原真紀

 ここ10年ほどの間に彗星(すいせい)のように現れ、またたくまに誰もが名を知るサービスを確立した、いわゆる「メガベンチャー」だ。ただ、すでに市場シェアも高く、メディアなどでは今後の成長が課題とする記事も多い。A君は、そこがひっかかるようだ。

 それなら、フリマアプリのメルカリや、ライドシェアのウーバー・ジャパンなど、出来たてほやほやのベンチャーはどうか、と水を向けると、まだ安定性に欠けるのだという。「成熟しきっておらず、かつ発展途上でもない会社」というのが理想らしい。

 同じく慶応大4年のB君は、6月初旬に大手損保2社と楽天から内定を獲得。損保2社に絞り込んだが、15日まで悩んだ。結局、学生からの人気が高いほうを選択。理由は「優秀な学生が多いほうが自分が成長できるから」。B君は付属高校から大学に進学し、「挫折のない人生だった」と語る。

いつまでも悩まないで

 大手不動産賃貸に内定した亜細亜大4年のCさんは直前まで悩み、取材当日の朝「内定承諾書を郵送してきた」と話してくれた。彼女は4社から内定をもらっていた。

 「人事がとても親身に相談に乗ってくれる」「福利厚生が充実し、女性も働きやすい」――この2つの軸で比較しようとしたところ、甲乙つけがたくなったという。企業から提示された締め切りの2日前まで、内定承諾書を出すのか、辞退書を出すのか、悶々(もんもん)とした結果、「最後は直感で決めた」という。

 「いつまでも悩むのは正直、やめてほしい」。こう悲鳴をあげるのは、大手金融会社の採用担当のD氏だ。「『御社に入社します』といっていたのに、その後辞退されると本当に困る。他社の選考状況で評価が覆ることはないので、正直に教えてほしい」と訴える。

 ただ、「学生をせめるのは酷だし、仕方ない部分はあります」(D氏)というように、複数内定は、企業側の採用戦略の副産物でもある。

 6月1日の面接解禁後、早いところでは面接の1時間後に電話で翌日の面接に呼ぶ企業があった。おそくとも3~4日で内定が出る。そのため、優秀な学生なら1週間くらいでぞくぞくと内定を得る。D氏は「複数内定を得ることは分かるし、第1志望の結果が出るまで決められないのだろう」と理解を示すが、すでに他社選考も終わっており、手持ちの内定のなかで迷っている学生には「いつまでに返事をください」と期限を切るようにしている。

内定後に、こっそりOB訪問

 「自分がどれだけこの企業を志望しているのか、確かめたいんです」――。都内のある中堅私大のキャリアセンター(就職課)ではこんな学生の訪問が増えているという。彼らが求めてくるのはOB名簿。内定をもらったあとに、もう一度OB訪問をして、この会社に決めてよいか、確かめようというのだ。

 企業の人事部を通すと、迷っていることが企業側に知られてしまう。そこで同センターでは、大学のOB名簿を活用し、人事部とつながりの薄そうな相手を探して訪問するように勧めているのだ。

 OBに、訪問の意図を悟られてしまうと、客観的なアドバイスがうけにくくなる。「だから相手に感づかれないよう発言に気を配るようにも指導している」という念の入れようだ。

立教大学キャリアセンターでは「そもそも内定長者が生まれないよう指導している」という

 「そもそも内定長者が生まれないよう、日ごろから指導しています」と話すのは、立教大学キャリアセンターの市川珠美課長。同センターでは、学生全員に配布する「立教就職ガイド」のなかで「複数の企業から内定をもらったら、速やかに入社する企業を絞りましょう」と呼びかけている。

 それでも決められない学生には、「なぜその企業がいいと思ったのか」「会社に入って何をやりたいのか」など質問を投げかけて、初心に戻って考えられるようにするという。ただ「自分で決める、が基本」(市川課長)だ。どの企業がいいか大学が示すことはない。その会社の先々のことは誰にも分からない。

会社の今をみるか、将来をみるか

 就職支援を手掛けるアズライト(東京・新宿)の佐川稔社長に分析してもらったところ、「複数内定に悩む学生は2タイプある」という。現時点の会社の成長そのものか、入社した後に自分がどう成長できるか、だ。冒頭のAくんの場合、大手ベンチャーを選び、まだ悩み続けているのは、「入社後の成長」を見ているからだ。

 一方でCさんのように、「人事の人柄」「福利厚生」という、企業によって差が出づらくなるものを軸にした場合、甲乙つけがたくなり、決断が長引いてしまう傾向があるという。

 「人生の正解を心のどこかで探してしまうんです」と指摘するのは、採用コンサルタントの谷出正直さん。就活生との接点も多く、学生の悩みに寄り添う谷出さんは、「正解の人生がないことを知りながらも、どこかに安心安全な場所があるのではないかと『青い鳥』を探している」と就活生の心理を代弁する。

 東芝やシャープの経営危機は記憶に新しいが、大手企業も一寸先が読めない。「絶対安全」な企業はないことを知りつつ、どこかに「正解」があるのではないかと行ったり来たりしている学生は一定数いるという。

 取材をしていると、内定受諾は「覚悟」だという声を多く聞いた。学生の悩ましい気持ちは分かるが、「大切なのは入社してから自分の選択が正しかったと思える仕事をすること」(谷出さん)。就活のゴールは、人生のゴールではないのだ。
(桜井豪、松本千恵、夏目祐介)[日経電子版2017年6月29日付]

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