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資格で考えるキャリアプラン(4)グローバル化で注目の弁理士 
知的財産権のスペシャリスト

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
資格で考えるキャリアプラン(4) グローバル化で注目の弁理士 知的財産権のスペシャリスト

 グローバル化の進展によって、製造業を始めとする商品のマーケットは国境を越えてどんどん広がっています。それは売り手にとっては売り上げを伸ばし収益を上げていくためには望ましいことですが、その反面、自分の商品が適切に取り扱われているか、不当に高く、あるいは安く売られていないか、そして同様の商品が不当に販売されていないかを厳しくチェックする必要性が高まっています。そうした時代に欠かせないのが弁理士です。

 自国のマーケットの中であればある程度監視の目も行き届くでしょう。しかし、他国のマーケットとなると商取引の在り方など、その国々の独特の慣行もあり、自らにとって「適正」だと考えるような条件を押し付けることもなかなか難しい状況が出てきます。さらにはマーケットのある国の「国益」も関わってきます。自国の雇用を守るためには、「不公正」であるとは認識しながらも他国の製品に対して不利な環境をあえて放置することもあるでしょうし、もしそうしなければ当地の国民感情がそれを許さない場合もあります。

「公正な競争」不可欠

違法コピーDVDを販売するアジアの路面店(2015年)

 とはいうものの、グルーバル経済の中では、やはり「公正な競争」、「公正な取引環境」を守ることは絶対に必要です。そこで、今回特に取り上げるのは「知的財産権」の問題です。

 知的財産とは発明やデザイン、映画や小説など人間の創造的活動により生み出されたものを指します。知的財産権はそれらを保護するもので、大きくは産業財産権と著作権に分けられます。発明の特許権、デザインの意匠権、ロゴやブランドの商標権などは産業財産権にあたり、映画や小説、音楽などは著作権になります。

 他国での、いわゆる「コピー商品」の横行は日本でも大きく取り上げられ、問題となっています。よく日本の製品のコピー商品が他国で売られていることに強い批判の声が挙げられていますが、その一方で、欧米の高級ブランドのコピー商品を手に入れるためにアジア諸国などをショッピングで訪れる日本人観光客が多いのも事実であり、この問題を複雑化しています。

被害大きい産業財産権

 知的財産権保護においては、最近は特に著作権の方に脚光が浴びせられているように感じられますが、日本経済において依然として中心的な役割を果たしている製造業において被害が大きいのは、やはり特許権を筆頭とする産業財産権だと考えます。

 技術進歩が急速に進む中、メーカーや製薬会社などは膨大な研究開発費(R&D)を投じて新製品の開発に取り組んでいます。それが安易に模倣されるようなことがあれば、企業の存否に関わるような重大な危機にさらされることにもなりかねません。そこで、新製品の開発においては速やかに特許を取得し、開発の努力が一定期間保証されるような状況を獲得します。そこで活躍するのが弁理士です。

 弁理士とは、特許、実用新案、意匠、商標または国際出願に関して、特許庁に対する特許出願、登録出願の代理や経済産業大臣に対する異議申立の代理、特許庁がなした審決の取消を求める東京高等裁判所への出訴の訴訟代理、あるいはこれらに関する鑑定等の事務を行うことを業とする有資格者のことをいいます。

 弁理士の資格は、弁護士と、7年以上特許庁で審査官または審判官の職務に従事した者のほか、毎年1回行われる弁理士試験(国家試験)に合格した者に与えられます(『日本大百科事典より』。

 弁理士試験の難易度は高く、合格率は2014年度が6.9%、15年度が6.6%、16年度は7.0%となっています。しかし、先述のごとく、企業の生き残りのための特許の重要性は高く、その取得、またその権利防衛のために、優秀な弁理士の育成と確保は日本経済にとってとても重要な課題です。

 それに対応する特許庁の方は、膨大な特許の申請に対して、人員体制が不十分で迅速な対応ができていないという問題も指摘されています。

特許権、量から質へ

 近年における日本における特許出願件数は漸減傾向であり、16年の特許出願件数は318,381件ですが、出願年別に見た特許登録率(特許出願件数に対する特許登録件数の割合)は増加傾向にあります。企業の知的財産戦略は量から質への転換が進められていると分析されています。これは、特許庁の状況を十分に認識した上での企業行動だということも言えるでしょう。

 特許取得に関しては、かつてその行き過ぎが懸念されたことがありました。普遍的な権利と見なされるような領域にまで特許権が設定されてしまい、むしろ自由な活動を阻害する弊害があるという事態が過去に現出したのです。

 1984年、インドの数学者であるナレンドラ・カーマーカーが線形計画問題の解法を発見しました。このアルゴリズムの発見をカーマーカーとAT&Tが「発明」として米国や日本で特許として出願したのです。これを受理するかどうかが裁判で問われました。いわゆる「カーマーカー訴訟」です。これが特許として認められてしまえば、アルゴリズム、そしてひいては数学自体の研究が阻害されてしまうと、研究者は危機感をもったのでした。

 このように、行き過ぎた特許申請も問題になりますが、それを時代の状況の中でどのように判断していくかが重要となります。そしてその判断を下していくのは第一義的には特許庁になりますが、それを周辺から支え、場合によってはその判断を修正していく立場にあるのが弁理士なのです。

 弁理士を目指す人は急減しています(志願者は08年度が1万494人だったのに対し、16年度は4679人)。しかし、経済活動における弁理士の役割の重要性を理解し、資格取得にチャレンジする人が増えることを期待しています。

 そして、もちろん、著作権の保護もとても重要です。国内、国外を問わず、この問題はますます重要性を増しており、訴訟となる事例も増加しています。法学系の大学院においても知的財産権に関するスペシャリスト養成が急務となっています。これから法曹界を目指そうという方々にとっては一つの非常に魅力的な専門分野として認識されるべきです。

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