日本経済新聞 関連サイト

OK
liberal arts-大学生の常識

小泉進次郎氏、
都議選後の政局で「渦中の人」に

小泉進次郎氏、都議選後の政局で「渦中の人」に

 自民党の小泉進次郎が政局の渦中に立つ日が近づいてきた。東京都議会選挙の大敗から政権立て直しを狙う首相の安倍晋三。次の一手は内閣改造・党役員人事だ。初入閣を含め、小泉を思い切って要職に抜てきするのか、しないのか。小泉本人はどう動くのか。発信力なら抜群の衆院当選3回、36歳。その去就が次期衆院選や2018年の党総裁選を見据えた安倍の政権運営を左右する重みを持ちかねない。

「大逆風」、横須賀で実感

 「自民党への逆風は否定しようがない。間違いない逆風だ。なぜかと言えば、自身がまいた種だ。謙虚になり、いつでもまた野党になりうる、という気持ちを忘れてはいけない。1強といわれる今が当たり前だとは決して思わない。いつまでも与党でありえるわけもない。いつまでも野党のままの野党もない」

 6月28日。都内の銀座4丁目交差点で街頭演説した小泉は、こう危機感をあらわにした。翌29日には「逆風は違っていた。大逆風だ」とまで訴えた。都議選終盤の3日間で12カ所の応援演説に駆け回る国政選挙並みの過密日程をこなした。選挙中に街頭に立ったのは最終日の1カ所だけだった安倍と対照的。党選挙対策関係者は「集客力は相変わらずすごい」とうなった。

 小泉は一足早く「大逆風」を実感していた。地元の横須賀市長選は6月18日告示。小泉・自民党は元市議の上地克明を推薦した。対立していた前市長の吉田雄人に、小泉・自民党は09年、13年と連敗していた。政治家が4代続く小泉家のお膝元。小泉自らも同市を中核とする衆院神奈川11区で3回続けて圧勝しながら、市長選で負け続ける「ねじれ」は泣きどころだった。

 告示翌日の19日朝。各紙朝刊は軒並み安倍の支持率急落を報じた。選挙戦のヤマ場で豊田真由子衆院議員の「暴言音声」も公開される追い打ち。街頭では「小泉さんも上地さんも好きだけど、自民党だから入れたくない。ごめんなさいね」とか「安倍政権を倒してくれ」などの声が目立って増えた。投開票日の25日も投票所の出口調査では勝敗が読めず、冷や汗をかいた。

 「09年の衆院初当選が1回目の初当選だとすると、この市長選の勝利は、僕にとっては2回目の初当選のような気持ちだ」

 25日夜、上地の当選が決まると、小泉は記者団に「初めて国政と一体で地元の街を動かせるわくわく感」をかみしめるようにこう語った。ただ、「三度目の正直」で壁を破った歓喜の裏で、選挙戦でこしらえた多方面への借りをこれから返さねばならない、との意識も頭をかすめた。流れは変えられなかったが、党本部の要請で都議選の応援にはせ参じたのもその表れだ。

 横須賀市長選で自民党は異例の「総力戦」を展開した。官房長官の菅義偉が公明党の支持母体、創価学会の会長である原田稔に協力を要請した、との情報が首相官邸から流れる。参院幹事長の吉田博美は業界団体を支持基盤に持つ比例代表選出の全議員に応援を指令。党事務総長で「陰の実力者」の元宿仁は選挙に精通する側近の元党職員を長期間、現地に張りつかせた。

内閣改造の大事なカード

 地元で3連敗なら、小泉の政治力に疑問符がつきかねなかった。党としても、不可欠な戦力でもある「プリンス」を傷つけず、順調に育てたい、との考慮が働いた面もある。ただ、それ以上に、官邸にも党執行部にもここで小泉をテコ入れし、しっかり恩を売っておけば、今後の政局の節目節目で自分の影響力を及ぼせるかもしれない、という思惑が各人各様に垣間見えた。

 安倍も例外ではない。市長選に先立ち、小泉が幼児教育を実質無償化する財源の確保策として旗を振る「こども保険」創設構想を「責任ある安定的な財源を検討しながら議論するのは良いことだ。検討を進めてほしい」と歓迎して見せた。6月9日に閣議決定した経済財政の指針「骨太の方針」に「新たな社会保険方式の活用」を選択肢として明記し、年内に結論を出すとまで約束した。

 政局が平時モードなら、衆院解散・総選挙は急がない構えが有力視された安倍。自民、公明、日本維新の会の3党で衆参両院で3分の2を超す現有の「改憲勢力」を保持したまま、18年の通常国会で宿願である憲法改正の発議を目指す道筋だ。18年12月の衆院任期満了近くで総選挙と改憲の国民投票を「同日投票」にすれば、どちらも負けにくい、との打算には一理ある。

 だが、都議選大敗で、国政選挙で4連勝した安倍の「常勝神話」は崩れた。小泉も含め、自民党への逆風が「果たして一過性で済むのか」と重く受け止める議員は少なくない。都議選大敗の衝撃で、早期の衆院選は避けたい気分も渦巻く。半面、この先も安倍政権の下り坂が続くようなら、18年の任期満了近くまで先延ばしするのはもっと危うい、との焦燥感も交錯する。

 「来るべき臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に自民党の改憲案を提出したい」

 安倍は6月24日の講演で、改憲案を秋の臨時国会に前倒しで提出する、と宣言した。民進党や共産党などが審議に応じる見込みはない。自民党内では、安倍が世論の風向きを測りつつ、改憲の是非を争点に年内に衆院解散・総選挙を敢行する布石を打ち始めた、との観測も流れた。18年まで衆院選を待って「追い込まれ選挙」にならないよう、選択肢を広げたとの解釈だ。

 自公維で3分の2を25議席上回る現有勢力を減らしても、自公で過半数を制して政権を維持し、自公維で3分の2を守れば、改憲にお墨つきを得たと説明はつく。改憲を争点にすれば、改憲派と護憲派が混在する民進党がガタつき、共産党との共闘を分断しやすいとの思惑もにじむ。衆院選を18年まで待つか、年内を探るか。それはひとえに「大逆風」は一過性とみるか、簡単に収まらないとみるかにかかる。

 一気に難しさを増した安倍の解散戦略。それ次第で、内閣改造・党役員人事の構想も変わりうる。最大のカギは選挙対策の司令塔となる幹事長人事だが、小泉の処遇も大事なカードだ。

「政治家は利用されて当然」

 安倍は1月に、小泉を入閣させるのはまだ早い、自らの党総裁3期目に考えたい、と周辺に漏らしたことがある。復興政務官や党農林部会長を経験した小泉。順当なら次は副大臣だ。同じ当選3回組は既に大半が副大臣に就いている。ただ、官邸内には反対論もあった。「小泉副大臣」が大活躍すれば、上司の閣僚がかすんでしまい、無用の波風が立つ、との心配からだ。

 そんな平時モードの議論も今は昔。安倍が年内の衆院選も頭に置くなら、ここで「こども保険」担当で小泉初入閣、などの世論対策を考えないとは言えない。ポスト安倍候補すら人材難の気配が漂う自民党内から、内閣改造の目玉を探そうとしても、他になかなか見当たらないからだ。ただ、小泉頼みに走れば、安倍がそこまで追い込まれている証左とも取られかねない。

 小泉から見ても、当選6回以上の初入閣待機組らを飛び越す抜てきを「人寄せパンダ」承知ですんなり受けるのか、思案のしどころだ。内閣の役職に就くなら、安倍を一蓮托生(いちれんたくしょう)で支え抜く役回りになる。18年の総裁選に向けて決起するなどの道は封じられる。といって、固辞するのも容易ではない。安倍が入閣を打診し、小泉が断った形になれば、安倍に大打撃だからだ。

 「政治家ってのはお互い利用し、利用されるのが当たり前だ。それが嫌なら辞めるしかない」

 小泉の父、純一郎は首相退任後、策謀渦巻く政治家同士の関係を巡って、こんな冷徹なセリフを吐いたことがある。再登板後で最大の岐路に立たされた安倍は小泉進次郎を利用しにかかるのか。小泉は利用されてみせるのか。そう見えて、実は小泉が安倍を利用するのか。「一若手議員の去就」では済まない次元になりつつある。=敬称略
(編集委員 清水真人)[日経電子版2017年7月4日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>