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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ノーベル賞も女性の時代へ
今年は化学賞に注目

ノーベル賞も女性の時代へ今年は化学賞に注目

 毎年10月に発表される自然科学分野の祭典ノーベル賞で、今年は女性が受賞するかどうかに注目が集まっている。化学賞で「ゲノム編集」という遺伝子改変技術を開発した2人の女性研究者が有力な候補になっているからだ。受賞すれば自然科学系の女性受賞者は延べ20人に達し、一つの節目を迎える。ノーベル賞も女性時代の幕開けといえるかもしれない。

8年ぶりに女性2人の同時受賞の可能性

ノーベル化学賞の候補に挙がるダウドナ(右)、シャルパンティエの両博士(4月に日本国際賞)

 化学賞で候補に挙がるのは、フランスのエマニュエル・シャルパンティエ博士と米国のジェニファー・ダウドナ博士の2人。遺伝子を正確に切り貼りするゲノム編集の「クリスパー・キャス」という技術を開発した。科学技術での優れた業績を表彰する今年の「日本国際賞」は2人に贈られた。クリスパー・キャスを巡っては特許争いもあり、ノーベル賞も受賞するかは不確定な要素は残るものの、最有力候補であるのは間違いない。

 女性2人の同時受賞となれば、2009年に染色体の末端にあり細胞の寿命をつかさどる「テロメア」の機能解明で米大学の女性2人が受賞して以来、8年ぶりになる。

 今年で117回目を迎えるノーベル賞。自然科学系の女性受賞者は、延べ18人(マリー・キュリー博士は2度受賞)。男性を含めた受賞者数(590人)に占める割合は3%だが、21世紀に入ってから女性は7人で、受賞者(119人)に占める割合は6%と2倍に増えた。世界的な女性研究者の増加から、ノーベル賞をもらう優秀な研究者も増えている。

 女性科学者の活躍には国際的な科学雑誌も注目する。英科学誌ネイチャーのフィリップ・キャンベル編集長は「優秀な女性研究者は明らかに増えている」と強調。女性研究者が名前を連ねる論文の掲載も目立ってきたという。

まだ残る「科学者は男性だ」という偏見

 ただ、同編集長は「いまだに『科学者は男性だ』という偏見は根強い」と指摘する。このため同誌は論文を精査する査読者に占める女性の割合を増やしていると説明。12年には12%だった女性の割合を、17年には20%台半ばまで高めた。

 背景には論文の共著名に女性の名があると却下されやすいとの批判がある。同誌はこうした性差による恣意的な判断を防ぐため、論文著者の名前や所属を隠して査読するダブル・ブラインド・ピアレビュー(二重盲検査読)も導入した。ほかの科学雑誌も同様の仕組みを導入している。今後、国際的な科学雑誌に女性研究者の論文が増え、ノーベル賞の受賞を後押しするかもしれない。

京都大学の稲葉カヨ副学長

 日本でも女性研究者受賞への期待は高まる。5月下旬に大阪市で開かれた女性研究者のイベント。「国内女性研究者初 ノーベル賞受賞者育成を目指して」という副題が掲げられた。関西地域の大学や企業を中心に約10人の女性研究者が登壇し、「成功した研究者のロールモデルが必要だ」という意見が相次いだ。特にノーベル賞の注目度は大きい。日本人女性の受賞者が誕生すれば、理系に進む女性が一気に増えて存在感も高まりそうだ。

日本人女性にも有力候補

 日本人女性で最も受賞に近づいた研究者の一人といわれるのが、京都大学の稲葉カヨ副学長だ。体を守る免疫を担う樹状細胞の研究者で、米ロックフェラー大学に長く在籍した。

 優れた研究成果も上げ、国際的に活躍した女性研究者に贈られるロレアル―ユネスコ女性科学賞も受賞している。多くの共著論文を出した米ロックフェラー大学のラルフ・スタイマン博士が2011年の生理学・医学賞を射止めたため、同じテーマで1度に3人までの枠があるノーベル賞の受賞は逃したといわれるが、国際舞台で活躍した女性研究者の草分けともいえる。

 ロレアル賞は稲葉副学長を含めて過去5人の日本人女性が受賞。いずれも世界的な業績を上げている。

 日本人女性でノーベル賞の受賞者は将来登場するのだろうか。稲葉副学長は生物学や医学の分野では女性研究者は確実に増えているとしたうえで、「出産や子育てといった女性のライフイベントを支える支援が欠かせない」と指摘する。

 ノーベル賞の受賞につながる優れた研究は、30~40代の若い時代に取り組んだケースが多い。ところが女性は結婚から出産を経て子育てに追われ、研究の第一線から離れるケースが少なくない。いったん現場から離れた女性研究者は「下りのエスカレーターを駆け上るようだ」と漏らすという。科学技術の進歩に追いつけず取り残される恐怖感を味わうからだ。

単身赴任にならない配慮など女性研究者の支援も不可欠

女性研究者の活躍が目立つ(京都大学iPS細胞研究所)

 稲葉副学長によると、米国では優秀な女性研究者を獲得するために、単身赴任にならないよう夫の新たな勤務先や子供の保育など家族を含めた総合的な支援策が充実している。一方、日本では第一線で活躍するには、夫だけでなく両親など親族の支えがなければ続けられないのが現状だ。

 日本国内の女性に占める研究者の比率は15%と先進国でも最低レベル。マレーシアの50%、中国の40%に遠く及ばす、韓国の19%よりも後塵(じん)を拝する。将来的にノーベル賞の受賞者を育てていくためにも総合的な支援策が欠かせない。
(大阪経済部次長 竹下敦宣)[日経電子版2017年6月20日付]

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