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来れ! デザイナーの卵
海外大が日本で勧誘イベント

来れ! デザイナーの卵海外大が日本で勧誘イベント

 森英恵、高田賢三、三宅一生、山本耀司、川久保玲......。近年、日本人の世界的ファッションデザイナーが生まれにくくなったと嘆く声は少なくない。デザイナーの卵ら学生の留学熱は冷え込み、中国、韓国、インドなど他のアジア勢に押され気味。そんな中、日本人勧誘を狙う海外名門大学が相次ぎ日本で出前講座や説明会を開き始めた。若者の心に火はつくのか?

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出前授業で留学熱を喚起

今年4月に東京で開いた英CSMの授業

 本場ロンドンの授業を日本に届けます――。4月8~9日、繊維問屋街として知られる東京・日本橋横山町にデザイナーを志望する日本人の若者ら十数人が集まった。英名門セントラル・セント・マーチンズ美術大学(CSM)が日本で開催した"出前授業"の一コマだ。

 「アイデアを作品に仕上げるためどう肉付けし、相手にどう伝えるかを学んでもらうのが狙い」。講師を務めるデザイナーで自らも国内で学校を運営する山縣良和さんはそう話す。授業では英語も頻繁に飛び交い、受講料4万8000円でつかの間の留学気分を味わえる。

 CSMは「クリスチャン・ディオール」を手掛けたジョン・ガリアーノや「ジバンシー」を手掛けたアレキサンダー・マックイーンら多くの有名デザイナーを生み出したファッション教育の殿堂。山縣さんの母校でもある。世界中のデザイナー志望者にとっては憧れの場所だ。

英CSM校舎(ロンドン)

 そのCSMが日本で短期講座を始めたのは昨春のこと。「かつてアジアからの留学生は日本人が圧倒的に目立っていたが、最近は中国、韓国、インド人などが急増してきた。だから日本人の留学熱を再び喚起しようと試験的に短期講座の開催に踏み切った」。来日したジェレミー・ティル学長はこう話す。

 森英恵さんが1960年代にニューヨークで成功して以来、日本は継続的に世界的デザイナーを輩出してきた。だが最近はめっきり影が薄い。「海外での活躍に不可欠な語学力や表現力をみがくには留学が最適なのに、若者の海外志向が後退している」と山縣さんは危機感を抱く。

 日本人の留学生数はどう推移してきたのだろうか?

 興味深いデータがある。文部科学省が経済協力開発機構(OECD)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などの統計をもとに集計した「日本人の海外留学状況」によると、留学生数は2004年の8万2945人をピークに減少に転じ、14年は5万3197人と最盛期の6割強の水準にとどまった。ファッション分野の留学生数も、ほぼこれに準じた趨勢と見られる。

 留学熱が冷え込んだ理由については、(1)バブル崩壊後の就職氷河期で過熱した留学ブームが一服した(2)外国の教育機関の日本進出で海外留学する必要性が薄れた(3)企業内の社員留学制度が大幅に縮小した(4)若者が苦労をしてまでキャリアアップを目指す野心を持たなくなった――などの事情が挙げられる。

業界内からも「内向き」懸念

 さらにユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文さんは「インターネットの普及で国内にいながら海外情報を入手できるようになった環境変化も大きい」と指摘する。こうした若者の内向き志向が「日本人が海外で活躍するための環境づくりの足かせになりかねない」と懸念する声が業界内に広がっている。

米FIT校舎(ニューヨーク)
米FIT大学院の日本での説明会

 ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)など米名門校も日本人留学生の受け入れに積極的な姿勢を見せる。日本人卒業生400人強で構成する「日本FIT会」(尾原蓉子会長)は13年から幹部や教授らを日本に招き、大学院コースの概要や目標を紹介する説明会を毎年開催するようになった。

 日本人留学生が激減しているためだ。FITによると、最盛期の01年に216人もいた日本人留学生は11年までに28人に落ち込んだ。その後、やや盛り返したものの16年は37人。同年の国別ランキングだと最多が韓国で305人、次いで中国157人、インド68人などと続き、日本は第5位に甘んじている。

 ファーストリテイリング傘下のユニクロがFITのほかパーソンズ・ザ・ニュースクール・オブ・デザイン、スタンフォード大学の各大学院への留学奨学金を始めるなど民間企業も支援策を打ち出してはいるが、まだまだ規模は限られている。

 10年に約6万人だった日本人留学生を20年に12万人に倍増させたい――。日本政府はこんな目標を掲げる。それには官民の支援制度に加えて、個人の自己啓発意欲も欠かせない。

 「未来は予測するものではなく自分でつくり出すもの。社会を変えたという足跡を残すため、強い主体性と明確な目標を持って人生を歩んでほしい」。「日本FIT会」の尾原会長は若者にこう呼び掛けている。
(編集委員 小林明)[日本経済新聞夕刊2017年5月20日付、日経電子版から転載]

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