日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

サステナブルな会社選び(4)調達から変える
伊藤忠商事の「三方よし」経営

authored by 「オルタナ」編集部
サステナブルな会社選び(4) 調達から変える伊藤忠商事の「三方よし」経営

 この連載では、ソーシャル・イノベーション・マガジン「オルタナ」編集部の記者が企業の規模や知名度を問わず、CSRの先進企業であり、社会的課題にも積極的に取り組む企業を紹介していきます。企業のCSRやサステナビリティ担当部署で働く若手社会人や社会起業家へインタビューし、「社会的課題を解決する働き方」を様々な角度からお伝えします。

 今回は、伊藤忠商事を紹介します。同社は多くの商材を取り扱う総合商社として、サプライヤーからの調達についても独自の基準を設けています。同社のサプライチェーン・マネジメント(原料調達から消費者に届くまでのプロセス)でのサステナブルな取り組みについて、サステナビリティ推進室で働く千原恵さんに聞きました。

原料生産地や流通過程が適切か調査

――まず、伊藤忠商事のサプライチェーン・マネジメントについて、どんな点がサステナブルなのか教えてください。

サステナビリティ推進室で働く千原恵さん、10人いる同室でCSR関連の業務歴は2番目に長い

 「伊藤忠商事サプライチェーンCSR行動指針」を定め、例えば原料の生産地や流通などの過程で児童労働や搾取労働、環境汚染などが行われていないかを調査しています。契約しているサプライヤーには行動指針を通達していますが、特に購買シェアが高いサプライヤーに関しては、営業担当者や現地法人の担当者が現場を訪れ、ヒアリングしています。その時には、*ISO26000の7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画)を必須項目として、状況を聞いています。

 2008年からはアンケート形式の調査も行っています。この調査では、7つの中核主題だけでなく、木材や食品、繊維など各部門に対応した設問も聞いています。2016年度には、国内外のグループ会社を含めて271社を調査しましたが、深刻な問題は見つかりませんでした。もし行動指針に違反するサプライヤーが見つかった場合は是正を求め、それでも改善されなかった場合は、契約を見直すことにしています。

ESG経営を重視し組織改変

――伊藤忠は今年4月、「CSR・地球環境室」を「サステナビリティ推進室」に名称を変えました。小林文彦専務CAO(Chief Administrative Officer)直属の組織になりましたが、サステナビリティを掲げた経緯は。

1992年から社会貢献活動として、ニューヨークからオーケストラを招いてコンサートを開いてきた

 CSRという言葉がカバーする範囲は環境、人権、腐敗防止、コーポレートガバナンスなど年々広がっています。企業の社会的責任を果たすとともに社会の持続可能性への取り組みを強化していくために、名称を変えて組織改編を行いました。その背景には特に近年、*ESG(環境、社会、ガバナンス)経営が求められるようになってきたことがあります。今後ステークホルダーとの関係性を強固なものにしていくためにもこの要素が欠かせません。

 伊藤忠商事では、サステナビリティを推進していく重要課題として、「環境への配慮」、「持続可能な資源の利用」、「人権の尊重・配慮」、「地域社会への貢献」、「労働環境の整備」を特定しています。サステナビリティ推進室では、これらの重要課題や*SDGs(持続可能な開発目標)などに対応するため、各事業担当者に啓発を行っています。

――どのように社員にサステナビリティの意識を浸透させていますか。

 「繊維」、「機械」、「金属」など全事業ごとに「サステナビリティアクションプラン」を定めています。各領域の部門ごとに対応する、「CSR課題(社会的課題)」、「重要課題」、「SDGsの目標」などを定めレビューしてもらう仕組みです。例えば、「機械」カンパニーの「プラント・船舶・航空機部門」では、2017年度の行動計画として「海水淡水化、上水、下水案件への取組によって水不足への対応や生活インフラ整備に貢献する」と定めました。

 対応するCSR課題(社会的課題)は「水資源の保全・開発、及び安全で衛生的な水の供給」、重要課題は「環境への配慮」、「持続可能な資源の利用」、「地域社会への貢献」、SDGsは「目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)」、「目標6(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)」「目標12(持続可能な消費と生産パターンを確保する)」としています。社員はこの表を見ながら、自分や自社の事業がどのように社会へ影響を及ぼすのか理解することができます。

 ほかにも年に数回、外部講師を招いて社内向けセミナーを開いています。事業を通して、サステナビリティを推進していくため、縁の下の力持ち的な役割が求められています。

20時以降、残業原則禁止。早朝出勤は朝食提供

――重要課題の一つである、「労働環境の整備」では、朝型勤務を推奨していますね。

午前8時までに出勤した社員には朝食を無料で提供している

 残業を20時以降は原則禁止、22時以降は禁止とし、夜型の残業体質を朝型にシフトさせています。インセンティブとして、朝8時までに出社した社員には会社から朝食を無料で提供しており、早朝出勤した社員には深夜勤務同様の割増し時間外手当を支給しています。今では、全社員の半数が朝8時までには出社しています。顧客対応や効率的な業務推進の観点から2013年10月に導入した制度ですが、導入3年後には一人当たりの残業時間が約15%減りました。

 時差がある海外との会議は、業務上必要な場合以外にも夜遅くから始まることが多くありましたが、原則勤務時間内に実施することで、育児や介護中の社員にとっても活躍しやすい環境になりました。

――将来、CSR・サステナビリティ関連の部署で働きたいと考えている大学生へのメッセージをください。

 昨今、ESGの概念が浸透して、企業の持続可能性を考える上でサステナビリティ活動の重要性はより増しています。営業部署で働く社員に、自分たちの業務がどう社会問題と関わりがあるのかを伝えることも重要な役割の一つです。どうしたら社内の意識を高め、企業価値向上に貢献できるのか。柔軟な考えを持ち、サステナビリティ意識の高い学生の皆さんと一緒に働けることを楽しみにしています。
(聞き手は「オルタナS」編集長・池田 真隆)

◆三方よしとサステナビリティ
伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛が事業の基盤として掲げていた近江商人の経営哲学「三方よし」。この精神は、同社のサステナビリティの考え方に大きく影響しています。「売り手よし」「買い手よし」に「世間よし」を加えた「三方よし」は、幕藩時代に近江商人がその出先で、地域経済に貢献し「世間よし」として経済活動を許されたことから生まれました。
マルチステークホルダーと関わりを持ち、社会の期待に応え、社会に必要とされる事業を行うことが、サステナビリティを推進していくために求められます。そのため同社では、「三方よし」を現代サステナビリティの源流としてとらえています。忠兵衛の座右の銘は、「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」です。この言葉にも、サステナビリティの精神があります。

【参考情報】
*「ISO26000」とは:スイス・ジュネーブにあるISO(国際標準化機構)が2010年10月に発行した国際規格。組織が社会的責任を果たすための方法について、7つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)と7つの中核主題を示している。

*ESGとは:「環境(Environmental)」、「社会(Social)」、「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った言葉。近年、CSRレポートで企業を評価する際に、財務情報だけでなく非財務情報の開示が求められている。その非財務情報が、ESG情報と呼ばれる。

*SDGsとは:Sustainable Development Goalsの頭文字を取った言葉で、「持続可能な開発目標」と日本語で訳される。国連が2015年9月に策定した行動計画で、2030年までに国際社会で解決すべき17の目標を定めている。17の目標とは、「貧困」「飢餓」「気候変動」「インクルーシブな社会の促進」など。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>