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[ career-働き方 ]

ワークスアプリ牧野CEOが語る海外新卒を獲得
年収1000万円超のグーグルと競う

ワークスアプリ牧野CEOが語る 海外新卒を獲得 年収1000万円超のグーグルと競う

 多くの日系企業が海外の優秀な人材獲得に苦戦するなか、アジア圏を中心に多くの大学新卒者の採用に成功してきたワークスアプリケーションズ。2016年度も中国やインドの有力大学を出た理系の学生たちが入社した。米シリコンバレーのIT企業幹部にはインド工科大学(IIT)出身が多い。アジアのエリート大学の学生がワークスアプリを選ぶ理由のひとつは、若いうちから能力を伸ばせる機会が多く、将来のキャリアアップの「踏み台」になり得ることだという。米グーグルやアマゾンとの人材獲得競争に挑む牧野正幸最高経営責任者(CEO)に聞いた。

海外のエリート学生、日系企業は無視

ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO

 2009年から、海外の大学を卒業した新卒学生を直接採用し始めました。今では中国、インドの出身者が、合わせて2500人くらい働いています。海外で採用を始めて、日本の企業が海外のトップクラスの学生から、除外されているのを痛感しました。

 大きな理由は報酬です。海外の人気企業は、「半年後には戦力になっている」前提で優秀な学生に高い報酬を提示します。一方、日本の場合は「数年かけてキャッチアップしてもらう」のが前提です。入社数年はルーティンワークの成果は出せても、大きな利益は生み出さないと考えられており、報酬は必然的に低くなります。また、近年はかなり減っていますが、専門性と関係ない工場研修や地方での営業所回りなどが長期にわたることも、マイナスと受け取られています。

最初の会社、早く能力を伸ばすところ

 高い費用と時間をかけ、大学や大学院で目いっぱい能力をあげてきた学生からすれば、「社会に出たら加速度をつけて難度の高い仕事をするつもりだったのに、なぜこんなところで『休憩』なのか」と不満なわけです。海外のエリートは、休むのは勝ち上がったときだと考えていて、入社したときには、キャリアの早期養成を求めるのです。

 ファーストキャリアの目的は日本と海外で大きく違います。外国人の場合、若いときに重要なのは、会社の格でも業種でもなく、報酬以上に自分の能力をどれだけ伸ばせるかです。「それを実現できるなら大企業より町工場のほうがいい」という人の割合が日本人よりも多い。彼らにとって入社はゴールではなく、トレーニングジムに通うようなものなのです。10年たってスキルが身に付いたとき、さらに10年同じ会社で働くかどうか、改めて判断するのです。

海外採用、実績が決め手

 アジア圏の学生を採用するには、実績が大きなポイントです。インドでは大学の就職課が非常に強いのです。インドには、米マサチューセッツ工科大(MIT)に並ぶ、最難関の理科系大学であるインド工科大(IIT)、国立工科大(NIT)はじめ、さまざまな大学があります。IITやNITのようなトップ30~50校の学生は、米グーグルやフェイスブックをはじめとする他社との競争が厳しいのですが、16年は50人ほど採用できました。

牧野氏は「海外の学生は、自分の能力をどれだけ伸ばせるかを考えて会社を選ぶ」と話す

 IITには、採用実績などの条件を満たした企業を「ドリームカンパニー」と呼び、他社より早く採用活動を始める権利を与える制度があります。ここでは給与や入社後の活躍ぶりも重要な指標です。日本の新卒の年俸なんて持っていっても絶対に採用できない。日本の企業がここに入れないのは、そもそも新卒の給与をそこまで上げられないからです。

 「海外の優秀な学生だけは初任給50万円にします」というのは、日本の人事制度上難しい。むしろ現地採用だからこそ「インドだったら初任給は5万円」という感覚ではないでしょうか。世間では、グーグルやフェイスブックは「新卒でも年収が1000万円を超える」といいますが、それはシリコンバレーで働くのが絶対条件で、しかも対象は数人です。残りは普通の報酬です。といっても非常に高いのは確かですが......。

 中国では、社員が大学で採用活動をしています。北京大では社員が教授として日本文化企業論を教えています。北京大や清華大、上海交通大といったトップ校は、教授の横のつながりもあるので、学生を紹介してもらうこともあります。

 インドでも中国でも、日系企業のブランド力は非常に高いと感じます。製品も会社もすばらしいと考える人が多いです。ただ「新卒で入るにはよくない」と思われているのです。

ベンチャーの企業風土が魅力に

 当社が海外で優秀な人材を採用できる理由は2つあります。企業風土と人事制度です。規模はそれなりに大きくなったけれど、当社には、まだ「ベンチャー」の要素があり、次から次へとイノベーションを起こすことを重視しています。「自分で考えろ」という文化です。社外の人には「外国人が多いけれど、外資系企業の日本法人のようではなく、シリコンバレーのベンチャーに似ている」といわれます。もともとそれを模して作った会社なのです。

 日系企業では「この人は能力をあるから、すぐ引き上げよう」という人材育成がなかなか難しい。組織の序列を崩すと、追い抜かされた人のモチベーションも下がってしまうでしょう。当社の場合は、順番待ちのようなことは抜きにして、高い報酬を提示します。実績を出せば、報酬もポジションもあがります。これが好まれたのでしょう。

 海外では当社も「ファイア(解雇する)」があります。ただ、日本で「ファイア」の仕組みはうまくいきません。失敗への恐怖が先に立ち、イノベーションが生まれにくくなるからです。その意味では、当社は海外の人事制度に日本の風土をかぶせている、というのが正しいかもしれません。

 海外での採用は、最初からうまくいったわけではありません。入社した人がやめないで残り、実績になったのが次の学生へのアピールになりました。「こんなに優秀な人たちがいいというなら、自分もいこう」という流れです。ただし、彼らが一生うちで勤めることはまずないでしょう。仕方ないですよね。高度経済成長の国では、自分で事業をするチャンスはいくらでもあるのだから。ただし、入社してから1年の離職率が海外では平均3割程度のなかで、当社は15%程度におさまっています。
(松本千恵)[日経電子版2017年6月4日付]

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