日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

目指せEVレース2連覇 
高専、実学が夢を鍛える

目指せEVレース2連覇 高専、実学が夢を鍛える

 全国に根を張る高等専門学校(高専)。その高い技術力を地域社会に役立てようとする「社会実装教育」が脚光を浴びている。学内に籠もらず、町に出て社会の声を聞く。吸収力、感度の高さが社会の成長へと昇華する。若い力、ゴールデンエイジのなせる技だ。若い力の奮闘の舞台を取材する。

学生フォーミュラ大会2連覇に向けてEVの開発に余念がない一関高専の学生たち(前列右がリーダーの中津川壮さん)

 「今年はガソリン部門を上回る実績をあげて、電気自動車(EV)部門で2連覇を目指します。皆様からの一層のご協力をお願いいたします」

 岩手県北上市で5月23日開かれた、いわて自動車・半導体関連産業集積促進協議会の合同総会。一関工業高専の中津川壮さん(20)がEVに関心の高い約200人の自動車・半導体業界の関係者を前に堂々とスピーチした。話し終えるとその足で東北新幹線に飛び乗り東京へ。横浜で始まる自動車業界の展示会に参加し、第一線のエンジニアたちと情報交換するためだ。

活躍に目細める

 地域のニーズと高専の持つ人材・技術の融合を目指す社会実装教育。「各地の高専が進めるこの取り組みの典型的な成功例ではないか」。戸谷一英副校長は中津川さんの活躍に目を細める。

 専門技術を習得する5年間の本科を今年卒業し、さらに高度な技術を学ぶ2年間の専攻科に進んだ中津川さんは地元産業界では「ちょっとした有名人」。国内外の学生が参加するレーシングカーの競技会、全日本学生フォーミュラ大会で昨年、一関高専など県内3校でつくる岩手連合学生フォーミュラチーム(SIFT)がEV部門で総合優勝したからだ。

 参戦2年目の快挙だった。優勝後、達増拓也岩手県知事は「岩手の学生が高い技術を持っていることを示した」と評価した。中津川さんは中心メンバーの一人で、今年はプロジェクトリーダーとしてチームを引っ張る。

 大会は学生が仮想ベンチャー企業として車を企画、設計・製作し総合力を競う。中津川さんたちは岩手県内を中心に自動車部品・半導体・合金加工会社などに資金や部品の提供などをお願いして回る。今年は30社以上のスポンサー獲得を目指している。

 その際、中津川さんはこう言って頭を下げるという。「チームのメンバーはEV開発を実践で経験して社会人となります。それこそが地域産業への恩返しです」

 そこまで言い切れるのは理由がある。全日本学生フォーミュラ大会の基本は自動車免許を取得できる大学生が対象だが、SIFTのメンバーの多くはまだ免許を持てない一関高専1~2年生が実動部隊として参画する。研究室で自動車の専門書を読みこなして図面を引き、ガレージでは工具を握り組み立てる。高専教育ならではの力がそこにある。EVの製作を通して人もつくるのだ。

 全日本学生フォーミュラ大会は安全のため車検を通すことが条件。大会には106チームが参加したが、回路の数値測定などが難しいEV部門は13チームにとどまった。

 大人たちの熱い視線が注がれるのは一関高専が独自技術を持つからだ。世界初の駆動方式「2モータートルク差増幅型TVD」は旋回中に外輪に多く駆動力を配分して旋回性能を飛躍的に高めるとして特許出願中。雪国特有の悪路でも安定走行できるといい、昨年の大会ではぬれた路面でも小回りの利く機動性が遺憾なく発揮された。

 TVDの開発は三菱自動車出身のエンジニア、沢瀬薫氏によるものだが同氏は今年、古巣の三菱自に復帰した。引き継いだ日産自動車出身の伊藤一也准教授は「納期厳守、予算制約など実業の世界の厳しさを学生に教えることができるのは民間の経験がある我々だ」と実学のメリットを語る。

「常識を覆す」

 東北は産学官連携による自動車関連産業の振興、集積に約10年前から取り組んできた。岩手県は文部科学省から12年に「地域イノベーション戦略推進地域」に指定され「次世代モビリティ開発拠点」として自動車関連技術の開発支援や技術者育成事業が始まる。一関高専の教授陣や学生の技能に白羽の矢が立った。

 さて、17年の全日本学生フォーミュラ大会まで100日余り。SIFTのメンバーのEV作りが急ピッチで進む。スポンサーのコンセプトカー開発のモディー(一関市)から自動車の前面のカウルの製作の支援を、溶接や治具製作のノウハウはイワフジ工業(奥州市)から、TVDに使う高精度部品の加工技術提供は千田精密工業(同)からなど、岩手を地盤とする企業との二人三脚だ。

 徐々にその姿を現しつつある大会参戦マシン(IF―17)。今年のコンセプトは「常識を覆すEV」。出力は前年の1.7倍、車体全体の設計を見直して機械部品全体で100キログラム近い軽量化に成功。TVDも新規設計してより大きなトルクをタイヤに伝える。

 「必ず勝ちます」。中津川さんはゴールデンエイジの可能性、潜在能力に自信を持っている。

検知システム IoT駆使

入江教授らは西原村の地面の動きを計測するセンサー開発に打ち込んでいる

 住民の不安を解消できないか――。熊本高専の入江博樹教授はNTTドコモや防災科学技術研究所(茨城県つくば市)などとあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用し、地面の動きを計測するシステムの開発に打ち込む。

 昨年の熊本地震で人口約7千人だった熊本県西原村は震度7を観測。村全体の半数近い約1400棟が全半壊した。村役場から近い杉林の斜面には、地震後にできた亀裂が走る。付近の住民らは地滑りを心配する。

 村が防災科研に相談。NTTドコモが連携し始めたが「ものづくりに詳しく地元に密着した組織の協力が必要だ」(NTTドコモIoTビジネス部の伊勢田良一氏)と熊本高専などが加わった。

 入江教授が担ったのは心臓部となるセンサーの製作。原価は数万円。学校の設備を使い、部品の調達から回路のはんだ付けまで引き受けた。

 センサーを取り付けたパイプ状のくいを斜面に5カ所打ち込んだ。センサーと無線通信を使い、地面の動きや傾きなどの大きな変化を通知する。

 現在は東京大学発ベンチャーも加わり、無線通信方式の改善を検討している。NTTドコモは西原村で技術を磨き、2020年をめどに低価格の地滑り予兆検知システムの実用化を目指す。

 プロジェクトでは熊本高専の学生の参加も見込む。震災を経験した学生が大半で真剣そのもの。既に約10人の学生が卒業研究などのテーマに決め、地面の変化を計測できるセンサーの設計・開発などに取り組む。入江教授も「社会実装を通じ実践できる技術者を育成したい」と力を込める。

バイオマス発電 新産業に

バンブーケミカル研究所代表の鶴羽特命教授は竹の粉末機を開発する

 「竹の里」と呼ばれる徳島県阿南市。竹を使った新産業創造へ阿南工業高専と地元で太陽光・風力発電設備を扱う藤崎電機がタッグを組んだ。

 目指すのは竹材によるバイオマス発電。竹を5~6センチ角に加工する機械を共同開発中だ。来年の発電所稼働に向け協議を続ける。同社創業者の藤崎稔氏は「阿南高専はもの作りに詳しい教授がそろい、良き相談相手だ」と全幅の信頼を寄せる。

 阿南高専が地元企業や自治体と進める共同研究の数は40。地元の日亜化学工業が製造する発光ダイオード(LED)を使った高糖度の果物の生産や、着水可能なドローン(小型無人機)を使ったノリ養殖の海の水質検査など研究分野は幅広い。

 拠点は構内にある地域連携・テクノセンターだ。地元企業などと情報交換しながら研究開発できる。同じ構内の施設には阿南高専発ベンチャーのバンブーケミカル研究所など4社が入居する。

 「あらゆるモノがネットにつながる『IoT』が普及するなど、これからは複合領域に対応できないといけない」(寺沢計二校長)。今夏には4年生を対象にインターンシップ(就業体験)の必修授業を開始。日亜化学などで1週間働き地域の課題を見つける。

 「高専の役割は地域貢献から地域創生に変わりつつある」(岩佐健司副校長)。高専が生まれた1960年代は地域の工場に優秀な人材を供給した。インダストリー4.0が進む現在はIoTなど先端技術を身に付けた高専生が地域に新産業を生み出す新しいサイクルが回り始めている。

 ▼社会実装教育 地域社会、企業などからニーズを発掘し、それを工学的な言葉に置き換えて機械やサービスを開発する教育方法。知識の詰め込みではなく、「何を作り出すか」「いかに問題を解決していくか」に力点を置き、新たな基幹産業につながるイノベーションの創出、人材育成を目指す。

 その分野は幅広い。高齢者、障害者などの生活支援、商店街の活性化、社会インフラの管理、ロボット、ソフト開発など多岐にわたる。取り組みは1年で終わらないこともあり、後輩たちに受け継がれ磨きを掛けていくケースもある。

(編集委員 田中陽、西部支社 高城裕太、阿曽村雄太)[日経産業新聞2017年5月25日付、日経電子版から転載]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>