日本経済新聞 関連サイト

OK
[ liberal arts-大学生の常識 ]

斎藤ウィリアムの緊急講義サイバーセキュリティーこそ
日本のチャンス

斎藤ウィリアム浩幸 authored by 斎藤ウィリアム浩幸インテカー社長
斎藤ウィリアムの緊急講義 サイバーセキュリティーこそ日本のチャンス

 国も、企業も、国境を越えてサイバー攻撃にさらされる時代になった。サイバーセキュリティーの重要度が増す一方で、日本企業の多くが、「苦手なもの」「支払わなければならない税金のようなもの」と捉えがちだ。経済産業省参与として日本のIT(情報技術)戦略を担う斎藤ウィリアム浩幸氏は、「前向きに取り組むべき日本のチャンスだ」と強く訴える。経営層の意識になにが足りないのか語る。

新幹線の強さは「速さ」だけじゃない

「日本には本来、セキュリティーのDNAともいうべき強い武器がある」と斎藤氏

 サイバーセキュリティーが世界的な課題になっていますが、残念ながら、日本企業の出遅れ感は否めません。特に、経営層の多くが、ITそのものに苦手意識を持っています。

 約10年前、世界の時価総額のトップ5を占めていたのは資源など重厚長大の産業でした。今、そのポジションはIT業種に代わっていますが、日本企業は、人工知能(AI)もクラウドも、追いつけていません。なぜか。ひとえに「怖い」「目に見えないから危ない」という苦手感があるからです。しかし、日本には本来、「セキュリティーのDNA」ともいうべき強い武器があります。

 1964年の東京五輪を振り返ると、外国人は日本の技術として新幹線を思い出します。新幹線は、単に速いから注目されたのではありません。最も評価されたのは、地震でもぴたっと止まれるブレーキの技術です。安心・安全、すなわちセキュリティーの技術力です。クルマも、ブレーキの性能がいいからこそ、日本車が今でも世界中で購入されています。進化にはブレーキが必要で、ITのブレーキがサイバーセキュリティーなのです。

犯人捜しより利便性を

 そのDNAはITの時代にうまく伝わっていません。目に見えないからです。モノの安心・安全は得意なのに、ITでそれを考えようとするときに、すぐに後ろ向きになってしまう。情報漏洩があれば、すぐに犯人捜しが始まり、謝罪会見が開かれます。それを防止するために、面倒くさいルールを作り、担当技術者やユーザーまでを萎縮させてしまうのです。

 私は、よく銀行から海外へ送金の手続きをします。事務手続きには最低1時間はかかる、と覚悟しているのです。日本のハンコ文化ほどナンセンスなものはないでしょう。3Dプリンターでハンコを偽造されてしまうリスクのほうが、今の時代は大きいのに、だれも変えようとしません。

 社内のパソコンを外に持ち出すのにさえ、厳重な手続きが必要で、複雑なパスワードを月に1回変更することを要求されます。もちろん、情報漏洩やウイルス感染などは企業にとって大きなリスクですが、そのために組織や人々を硬直化させてしまっては意味がありません。なるべく便利な方法で、それを実現しようとする意思こそが、イノベーションに必要なのに、後ろ向きにしか考えようとしないのです。便利で、簡単であることは、ITの発展に不可欠なのです。

日本を迎える「課題」というチャンス

 サイバーセキュリティーが大事だと私が主張するのは、セキュリティーソフトを売りたいからではありません。守るためではなく、攻めるために、サイバーセキュリティーは日本企業の力になると考えるからです。そのためにサイバー攻撃が頻発する危機の時代を好機ととらえる必要があります。

 かつて、2000年問題というものがありました。Y2Kや、ミレニアム・バグとも呼ばれましたが、1999年から2000年になるときにコンピューターが誤作動し、発電や鉄道、銀行などの社会インフラ機能がマヒするのではないかといわれた問題です。結局なにも起こらなかったため、日本では「あれは何だったんだ」と振り返る人が多いでしょう。米国では、あのときに専門委員会が設置され、巨額の資金を使って障害を回避したのです。実はそのときの知見は、あの9.11の同時多発テロに生かされています。大変な被害がありましたが、金融センターとしての機能は無事でした。

 日本は今、サイバー攻撃だけでなく、いくつもの課題を抱える課題先進国です。膨らむ国の借金、少子高齢化による社会福祉システムの破綻、どれをとっても、世界の国がいずれ克服しなければならなくなる課題を、まっさきに体験しようとしています。

 これはチャンスなのです。今、世界の最先端で何が起きているのか、そして日本の経営者が何をしなければならないのか。連載を通して伝えていきたいと思います。
[日経電子版2017年6月19日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>