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清宮君、数学にも本気
早実は野球だけじゃない
早稲田実業学校の藁谷友紀校長に聞く

清宮君、数学にも本気 早実は野球だけじゃない早稲田実業学校の藁谷友紀校長に聞く

 早稲田大学系属の早稲田実業学校(東京・国分寺)。高校球界を代表するホームランバッター、清宮幸太郎内野手の活躍で全国的に早実の名前が鳴り響く。王貞治、荒木大輔、斎藤佑樹などスター選手を輩出してきたが、現在の早実は決して野球優先の高校ではない。小中高の一貫教育を実践し、ほぼ100%が早大に進学する首都圏屈指の難関校だ。「文武両道」の早実を訪ねた。

野球部、練習時間は短い

 「もうすぐダッシュが始まりますよ」。6月5日午後、早実の藁谷友紀校長(早大教授)はニヤッと笑ってこう話す。午後3時に授業が終わると、硬式野球部の選手が一斉にJR国分寺駅へ向けて駆け出すからだ。硬式野球部の練習は、校舎から1時間以上も離れた八王子市南大沢の「王貞治記念グラウンド」で行われる。選手たちは電車を乗り継いで、南大沢に急行。練習時間は4時半から7時までと限られている。

 藁谷校長は「甲子園の常連校でこんなに練習時間の短い高校なんてないでしょうね。土曜日は授業があるのでなかなか練習試合が組めず、試合数も少ない。ですから昨日、清宮君が打った100号ホームランはかなり価値が高いといわれているんですよ」と話す。4日の日曜日、清宮選手は、愛知県の小牧市民球場で行われた愛知県高野連主催の招待試合に出場し、強豪校の享栄高校を相手に史上2人目となる高校通算100号を放った。

早稲田への推薦、1200点満点で競う

 一般に甲子園常連校は午前中に授業を終え、午後は深夜まで野球漬けの毎日のようなイメージだが、早実は違う。学校の成績評価が厳しく、早大の各学部への推薦は高校1~3年生までの成績を各200点×3と3年時の2回の学力テスト、300点×2の合計1200点で、厳正に評価されて決まる。高得点の生徒は政治経済学部や先進理工学部など志望者の多い学部にも希望どおり進学できるが、成績が基準に達しなければ、留年することもある。もちろん野球のスター選手だからといって特別待遇はない。

早稲田実業学校の藁谷友紀校長

 「清宮君はもともと優秀。初等部出身で成績は問題ないと聞いています」と藁谷校長はいう。早実の村上裕二常任理事・事務部長は「硬式野球部の顧問の教員がグラウンドのクラブハウスで、生徒たちの勉強の面倒を見たりしています。清宮君は何事も納得するまでやる性格で、数学もこだわる、考え抜く。自分が理解したら、クラブハウスの黒板に書いてみんなに教えたりするそうです」。清宮選手は主将だが、クラスでは学級委員に相当する組長も務めている。野球部のメンバーにはグラウンドに向かう電車の中でノートを開く生徒もいるという。

 早実出身で早大野球部の加藤雅樹選手。東京六大学野球で首位打者にも輝いたが、「加藤君も成績優秀で、どの学部に行くか最後まで悩んでいた。学業と部活動の両立を考えて、カリキュラムの自由度の高い社会科学部を選択した」という。以前の早実はバンカラな体育会系のイメージだったが、随分と変わったようだ。

卒業生にテリー伊藤ら、個性豊か

 早実は1901年に大隈重信が創立したが、早大の付属校ではなく、別法人の系属校だ。かつては商業科もあり、「街の商店や自営業者の息子のほか、アジア出身で外国籍の生徒もいた。庶民的な学校だった」(早実OB)。タレントのテリー伊藤氏、音楽プロデューサーの小室哲哉氏、「ゾゾタウン」のスタートトゥデイ創業者の前沢友作氏など芸能や実業分野で活躍する個性的なOBも多い。「授業をさぼってバンドに明け暮れた」(前沢氏)など快活な青春時代を送った。荒木大輔氏の同級生だったメルセデス・ベンツ日本社長の上野金太郎氏は、「趣味のカートやバイトばかりやっていたが、野球部など体育会系の連中ともワイワイやっていたし、今もみんなと仲がいい」という。

早稲田実業の初等部

 四半世紀前まで、早大への進学率は6~7割だったが、徐々に上昇。「早大進学率は約97%。医学部や海外の大学に行く生徒以外は基本的に全員早大へ進学します」(村上事務部長)。ただ、推薦基準を満たせなかった生徒数名が留年する年もあるという。

 2001年の創立100周年を機に早実は国分寺に移転。02年に男女共学に移行するとともに、初等部が誕生して小中高の一貫制になった。初等部、中等部、高等部それぞれ1学年の定員は108名、225名、405名。私立の男女共学校としては、高校の一般入試の偏差値は都内でもトップクラスだ。

 ただ、高校入試にはスポーツ・文化分野合わせて50名の推薦枠がある。野球部以外にもテニス、サッカー、ラグビーなど全国クラスの生徒が集まる。珠算の達人なども推薦枠の対象となる。「成績基準を設け、小論文・面接の結果も重視して選抜している」という。

「文武」の隔てなく

男子校だった早稲田実業は、02年に男女共学になった

 全国の有名校には進学組とスポーツ選抜組を分けているケースもあるが、「うちは色分けしていない。『文武分道』ではなく、あくまで『文武両道』ですから」(藁谷校長)という。ただ、授業についていけない生徒がいることも事実。このため成績下位の生徒には補習授業などを実施、心理的なケアも行い、ノートの取り方などの初歩から指導している。基礎学力の向上は大きな課題だ。

 質実剛健が校風の早実。スマートフォンは持ち込み禁止で、服装の乱れ、茶パツはもちろん長髪にも厳しい。ただ「スマホをどう扱うのか、生徒たちに今考えてほしいと言っているところ」という。

 藁谷校長は早大教育学部の教授を兼任しており、平日に早実に来るのは週2回と限られている。夏になると、400人あまりの高校3年生の生徒一人ひとりと校長面談を実施する。進路相談が主な目的で、1人の持ち時間は4分。「成績を見ながら話を聞きますが、スポーツや文化面ですごい実績を上げている生徒は学業の成績も優秀だと改めて感じる」と話す。

 様変わりした早実。初等部、中等部からの男女の内進生、高校からの一般入試生にスポーツ・文化推薦枠の生徒、海外からの帰国子女枠もあれば、地元の国分寺市、小金井市の地域枠まである。様々な人材が集まる、かつての早実以上に多様性のある学校になった。「どの生徒も特別扱いしない。清宮君も普通に通ってくるし、みんなと同じ。男女共学になったといっても女子はすごく元気だし、質実剛健な校風は変わっていない」と藁谷校長。確かに午後3時を回ると、生徒たちは一斉に部活に繰り出す。男女を問わず、しっかりとした体格の生徒もおり、グラウンドや体育館から元気のいい声がとどろく。早実は今も昔も「マッチョな学校」だ。
(代慶達也)[日経電子版2017年6月17日付]

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