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[ liberal arts-大学生の常識 ]

米ポートランドの手法で町を活性化 
DIYや地元消費

米ポートランドの手法で町を活性化 DIYや地元消費

 アート産業を呼び込むことで、荒廃した町を活性化する取り組みが広がっている。クリエーターが手がけた個性的な空き家や、自分で室内を改装できるDIY、地元で開かれる露店などが人気だ。米国のポートランドが世界に先駆けて成功した手法で、日本でも手本にする動きが広がってきた。各地で勢いを増す「和製ポートランド」の現場をのぞいてみた。

あえて仕上げ加工しないアパート

 大阪市南部の北加賀屋に建つ白壁の古びたアパート。「以前は社宅だった」と言われて納得の集合住宅の玄関ドアを開けると、一風変わった光景が広がった。床は合板、壁は格子状の木組みがむきだし。あえて仕上げ加工をしていないのは、入居者にDIYを楽しんでもらうため。入居時に部材や工具など20万円分のDIYグッズ購入権も進呈し、徐々に入居者が増えた。

鉄工所の社宅を改装した「APartMENT」(大阪市)

 1971年築、白壁の四角い3階建て。全10戸のこの建物は「APartMENT」と名付けられ、2016年に再出発した。所有する千島土地は、明治時代から不動産業を営む。

 千島土地が街の土地の半分を保有する北加賀屋は、かつて造船で栄えていた。造船業が廃れるとともに人々が去り、古びた空き家が並ぶようになった。苦境に頭を抱えた同社が目を付けたのは、アート産業にかかわるクリエーター層。「ボロ家をうまく使ってくれて、発信力もある」(北村智子地域創生・社会貢献事業部部長)と期待した。

 狙いは当たった。09年から「周辺相場の3割安」「原状回復不要」を掲げ、まず所有する物件をクリエーター限定で貸し出した。部屋を個性的に改装してもらい、住人を巻き込んだアートイベントも開催。多いときには週末に5~6回開き、8000人を集客した。

畳の寝室と板の間の居間に改装された部屋に住む石黒みち世さん(大阪市)

 手応えを得ると、APartMENTでは借り手の職業を問わず、広く入居者を募ることにした。「アートの街っていうイメージで気になっていた」。このアパートに引っ越してきたアパレル勤務の石黒みち世さんはこう話し、個性的に改装された部屋での生活を楽しんでいる。

 DIYの初心者向けに「そのまま住んでもかっこいい」(住人でカメラマンのminさん、28)のもポイントだ。minさんは壁の格子をそのまま飾り棚として使う。「部屋の改装に興味はあるけど、仕事もある。改装が終わるまで住み始められないのも現実的じゃないし、ここはかゆいところに手が届く物件だった」と話す。

 千島土地は、隣接するもう1棟も5月から賃貸の募集を始めた。北村部長は「今後はクリエーターに加え、こだわりの強い一般消費者や店舗を街に呼び込んでいきたい」と話す。

壁の格子をそのままを棚として生かすminさん(大阪市)

 荒廃した街がクリエーターの移住をきっかけに活気づき、おしゃれな店や住民を呼び込む。こんな手法でブランド力を高める街が世界中で増えている。その筆頭は人口60万人の地方都市ながら「全米で最も住みたい街」といったアンケートで度々、首位となるポートランドだ。

 古い物を大事にしたり、DIYで自分だけの一点ものを作ったり。商業コンサルタントの松本大地氏は、こうしたポートランド流の消費は「金満消費への嫌悪感が広がったリーマン・ショック後、世界中で注目を集めるようになった」と解説する。

松戸駅周辺に「マッドシティ」

 千葉県松戸市もポートランド流の街づくりで活気づく。この街を引っ張るのは10年創業のベンチャー、まちづクリエイティブ(同市)だ。

 同社は松戸駅周辺の半径500メートルのエリアを「マッドシティ」と名付けた。ぼろぼろの空き家を「原状回復不要」の条件で借り、転貸する。こうした手法でクリエーターを呼び込み、ここ数年はクリエーター以外の住民も増えてきた。入居者は200人を突破。評判が広がり、16年は佐賀県武雄市、17年はJR東日本からもエリア活性化事業を受託した。

 この町に人が集まる理由は、部屋をDIYで改装できることに加え、地元志向の消費スタイルを促していることにもある。

地元の人気店や住人らの露店は1日に700人近くが集まる(千葉県松戸市)

 「この服、もう一回り大きいサイズで作ってもらえませんか?」「もちろんできますよ」――。5月の週末、マッドシティの中心部にある築100年の古民家の庭では、「おこめのいえ手創り市」が開かれていた。地元で人気の飲食店やクリエーター、お菓子作りの名人らが露店を広げる。

 住人のクリエーターらが3年前、こぢんまりと始めた隔月開催のマーケットは今、1日700人近くが集まる。半年前に都内から引っ越してきた会社員の山本真衣子さん(37)もここの常連。「せっかくお金を使うなら、自分が応援したい人の店で使いたい」。普段の買い物や飲食も極力、地元の個人店だという。

 ポートランド市開発局国際事業開発オフィサーの山崎満広氏は、「地元の個店志向はポートランドらしさの源泉」と話す。無名だが個性的な店を住人が発掘し、支援も兼ねて通うことで「地元発の人気店が多く育つ」。ポートランドの街には600ものキッチンカー(移動販売車)があふれ、その中から有名レストランが育つことも多い。

 同開発局は「和製ポートランド」を作る支援も始めた。同開発局が地元企業を日本に紹介し、まちづくりのノウハウを輸出する。例えば、和歌山県有田川町では、保育園跡をポートランドの建築事務所などが改装する。今秋には地元産品などを扱う商業施設として開業する予定だ。

 地方都市の人口減少の問題はなかなか解決の糸口が見えない。だが、こだわり消費と街づくりを結び付ける「ポートランド流消費」の取り組みが広がれば、一つの突破口になるかもしれない。
(企業報道部 高倉万紀子)[日経電子版2017年6月23日付]

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