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家族企業の後継者、
塾やゼミで育てる時代に

家族企業の後継者、塾やゼミで育てる時代に

 同族企業の後継者らを対象に「学びの場」をつくる動きが大学や自治体で進んでいる。ポイントは一足先に事業を継いだ経営者からの気づき。似た境遇の先輩を通じて「ファミリーのビジネスを継ぐとはどういうことか」を知り、後継者としての決意や成長につなげる。

大学で「ガチンコ後継者ゼミ」

関西大学の「次世代の後継者のための経営学」で経営者の話を聞く学生たち

 「後継者というと、とかくボンボンと思われがちだが、実際はたいへん。継ぐならば、覚悟を持って臨まなければならない」。鉄道車両など重量物の輸送を手がけるアチハ(大阪市)の阿知波孝明社長の熱い声が静かな午後のキャンパスに響く。事業を引き継いだとき倒産寸前だった阿知波社長は、新分野にチャレンジしながら家業を立て直し、業績を伸ばしてきた。学生たちは真剣な表情で聞き、臆することなく質問を次々とぶつける――。関西大学の産学連携科目「次世代の後継者のための経営学」の一コマ。皆が本気で臨む教室には一体感があり、さながら「ファミリービジネスの白熱教室」だ。

 このプログラムは関西大学が中小企業支援機関、大阪産業創造館と連携して千里山キャンパスで開き、今年で4回目。4月から7月まで開講し、講義には実際に経営を引き継いだファミリービジネスの経営者6人が登場する。受講対象は家業のある2年生以上の学生。条件が通常のプログラムと違うこともあり、大学教員の紹介や先輩らの口コミで集まる学生が多い。毎年約20人が受講し、半分ほどは女子学生となっている。毎回リポートを提出し、修了後に2単位を取得する。

 コーディネーターの一人、大阪産業創造館の山野千枝チーフプロデューサーは、家業を生かしながら新事業にチャレンジする「ベンチャー型事業承継」の重要性を強調。プログラムにはこのタイプのファミリービジネスの社長がそろう。実践度の高い「ガチンコ後継者ゼミ」にするため、登場する経営者には「何となく継ぎたくなる話」でなく、乗り越えてきたトラブルなどを含めてそれまでの歩みや考えを具体的に語ってもらう。このため、経営者は本音ベースの「ここだけの話」が少なくない。一方学生に対して、山野チーフプロデューサーは講義中、ニックネームで呼びかける。リラックスして臨んでもらうのが狙いで、その効果もあり学生からは毎回さまざまな質問が飛び出す。

 阿知波社長はこの日、「聞いているのが後継者になる可能性のある学生である以上、継ぐために苦労があることをわかってほしい」と考え、あまり社外に話さない内容にまで踏み込んで講演。学生からは「社員に心を開いてもらうには、どうしたらいいのか」「たいへんなとき、どうしたら新たなチャレンジができるか」など、自分の将来に置き換えた質問が続出。阿知波社長は一つひとつに丁寧に回答した。

 受講者の一人で、同大学堺キャンパス人間健康学部から通う川端祐典さんはファミリーが厨房関連の卸業を営む。社長を務める父とは「照れくさく、家業について話ができていない」。それだけにこのプログラムを通じた経営者の生の声は刺激的で「話がとにかくリアル。実際に経験してきた経営者の言葉だけに価値がある」と話す。関西学院大学も大阪産業創造館と連携し、同様のプログラムを行っている。

地域では経営の志を学ぶ「塾」

 後継者として動き出した人を対象にした学びの場も増えている。

 6月の週末、「ひたち立志塾」では11期生の開塾式が開かれた。大勢のOBが見つめるなか、新たに加わった2人の塾生はともにファミリービジネスの後継者。この日出席できなかった人を含めると約60人いるOBも同族企業を継いだ人が大半を占める。

ひたち立志塾は後継者らが「経営の志」を学ぶのが狙いだ

 立志塾は公益財団法人日立地区産業支援センター、ひたちなか商工会議所が主催。茨城県日立市やひたちなか市の後継者や若手経営者らが主な対象で、地域の将来を担う人材の育成を図る。ユニークなのが塾の狙いを「経営の志」を学ぶ点におくこと。事務局によると、事業を引き継ぐうえで必要な知識や技術はさまざまな機会を通して比較的学びやすい。一方、経営者として会社を引っ張るマインドや志は、伝えるのが難しい面がある。特にファミリーによるビジネスでは、例えば社長が父で後継者が息子の場合にお互いにかっこつけようとする意識が働くことなどから、具体的に話しにくい面がある。

 立志塾に入った塾生は1年間かけてゼミナール形式で学んだ後、OBとして引き続き塾にとどまることができる。このため、塾には地元の先輩経営者がそろっている。OBは講師役を務めるほか、ゼミナールで塾OBの会社を訪問することも多い。塾のイベントは飲み会とセットが基本で、新たに入った後継者らは先輩経営者とオフィシャルなミーティングだけでなく、ゆったりした食事の席でも和やかに交流する。さまざまな業種のOBを通して、ファミリービジネスの後継者は「気づき」を得ていく。同世代の後継者間でも、業種のカベを超えて相談できる仲間のネットワークをつくる。

 今回塾に入った檜山工業(ひたちなか市)の檜山弘専務はファミリーの会社に入社後、長期の海外勤務を経て本社に戻った。「地元の経営者や後継者と交流するきっかけにしたい」と話す。飯島プレス(水戸市)の飯島弘一郎専務は大学入学で地元を離れた。卒業後、他社での修業を経て父の会社に入社。「社内にいることが多い分、横のつながりがない。それをなんとかしたい」と話す。

 塾頭を務める一橋大学名誉教授で明星大学の関満博教授は自治体や金融機関などとこうした後継者塾を全国約20カ所で手がける。塾によってやり方はさまざまだが、先輩経営者や同じ後継者と積極的に交流する点では共通するという。全国約1万社を自分の足で調査してきた関教授は「人はやはり人によってしか磨かれない面がある。塾を通じて、昼に志を語り夜に感動を共有しながら、後継者としての覚悟を固める」と話す。関教授のネットワークを生かし、後継者塾間の交流も進んでいる。

 少子高齢化によって中小企業では後継者がみつからないため廃業するケースが少なくない。それだけに後継者を育てる取り組みには今後も注目だ。
(コンテンツ編集部次長 中沢康彦)[日経電子版2017年7月12日付]

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