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「生保レディー」、インドで歌う
生保各社がアジア開拓

「生保レディー」、インドで歌う生保各社がアジア開拓

 国内の主要生命保険会社が、日本流の売り方でアジアを攻略しようとしている。保険の中でも生保は地域の独自色が強い分野だが、意外に健闘しているようだ。

 「勝利あれ、運命を担いし方よ♪」。インド第二の都市ムンバイにあるリライアンス・ニッポンライフ・インシュアランスの営業拠点。毎朝9時すぎになると「生保レディー」が歌うインド国歌が聞こえてくる。

日本生命はインドで、生保レディーを通じた対面販売に力を入れている

 日本生命保険がリライアンスに出資したのは2011年。カースト制や男尊女卑の歴史があるインドでは、女性の就労率が3割以下でまだまだ働く女性は少ない。生保商品も、男性がバイク販売などの副業で売るのが大半だった。だが商品説明が不十分だったり、販売後のフォローがおろそかになったりすることも多く、「契約から1年後には半分くらい解約されていた」(国際業務部の市場浩司担当部長)という。

本業で保険を売る

 リライアンスのテコ入れに向け議論を重ねた結果、出てきたのが日本で長い実績を持つ生保レディーを使った営業だった。「きめ細かなアフターケアまで手掛けるには、副業ではなく本業にしてもらわないといけない。そのためには仕事に就いていない主婦の力を借りるのが良いという結論になった」(市場部長)

 当初は働き手が集まるか不安もあったが、7拠点で始めた生保レディーの評判は上々。訪問する家には専業主婦がいることが多いため「男性より警戒されにくく気軽に雑談に応じてもらえる」(市場部長)。雑談の中で主婦コミュニティーができ、保険契約だけでなく新たな生保レディーの採用にもつながるという"余録"まで生まれた。

 トップクラスの営業成績を収めたあるインド人女性は日本の営業店を視察に訪れた際に「自分が生まれた村から出ることは一生ないと思っていた。保険販売の仕事を始めて、人生が変わった」と話したという。2017年2月には女性の社会進出の事例としてインドで紹介され、現地のほかの生保会社も生保レディーによる営業をまねし始めた。現在、リライアンスではインド全域110拠点で約2600人の生保レディーが働いている。日生は今後、タイでも生保レディーによる営業を本格化し、販売チャネルの拡大につなげようとしている。

 「第一生命とともに永久に歩もう♪」。ベトナムで社歌を鳴り響かせているのは第一生命ホールディングスだ。

 現地企業を買収して07年に開業した第一生命ベトナム。「当初は社員の士気も低く、商品も不十分で苦しい時代だった」。第一生命ベトナムの田中昭彦前副社長は振り返る。脆弱なシステムの改善などのインフラ整備を進める一方で、社員の定着や士気向上に向け日本流を採り入れてきた。その一つが12年に制定した社歌だ。朝礼や研修、支社長会などのたびに歌っている。社歌だけではない。年1回、国内のリゾートへの社員旅行も実施するなどして社員の仲間意識を育ててきた。

 販売面では16年に国営のベトナム郵便と提携した。ベトナムの郵便局長はかつての日本と同様、地元の名士が務めていることが多い。地縁や人脈を重視するベトナム人の心をつかみ、保険販売に結びつけるねらいがある。田中氏は「提携効果は大きい」と期待する。

 「必ずミャンマーでも生命保険が必要になります」。T&Dホールディングス(8795)傘下の太陽生命保険の嶌田剛ヤンゴン駐在員事務所長は巻きスカートに似た民俗衣装ロンジーをまとい、ミャンマー人に保険の必要性を説いて回っている。

太陽生命保険の嶌田剛ヤンゴン駐在員事務所長はミャンマーの民俗衣装のロンジーを身にまとい、保険の必要性を説いて回っている

 ミャンマーは11年に民主政権に移行し、海外企業への市場開放が進んだ。年内にも外資系生保の市場参入を承認する見通しだ。日本勢でいち早く目を付けたのが太陽生命。11年から進出の検討を始め、12年に外資系生保で初めて事務所を開設した。

足を使って関係づくり

 ミャンマーは生保未開の地だ。農村部などで普及している保険といえばヘビにかまれて死ぬと保険金が下りる「へび保険」くらい。国営の生保会社の商品は保障内容も不十分で、加入率も低い。

 まず太陽生命が取り組んだのは、生保を売るための土台づくりだ。保険公社の職員が使うパソコンを寄贈、使い方も指導した。商品設計の要となるアクチュアリーの育成にも協力し、現地政府や企業の信頼を得て、16年には保険公社との業務協力の覚書を締結するところまでこぎ着けた。

 「大手のように成熟市場で生保会社を買うことはできない。飛び込み営業が得意な太陽生命らしく、足を使って関係性をつくってきた」。事務所の立ち上げから現在まで一貫して携わってきた嶌田所長はこう話す。市場開放を目前に控え、保険公社と医療保険などの開発や販売促進に向けた戦略を立てている。

 国内生保がこぞってアジアに進出するのは、日本の生保市場が頭打ちになるなかで、次の事業の柱を育てるためだ。米国やオーストラリアといった成熟市場では、現地生保を買収すれば足がかりをつくれるが、保険が十分普及していない地域では自ら市場を開拓する必要がある。日本の生保市場の成長期を支えた生保レディーや、日本流の経営ノウハウが生きる余地がありそうだ。
(佐藤初姫)[日経電子版2017年7月10日付]

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