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缶チューハイ伸び盛り
「おうちの居酒屋化」で人気に

缶チューハイ伸び盛り「おうちの居酒屋化」で人気に

 缶チューハイの勢いが止まらない。販売量は2017年まで10年連続で成長し、過去最高を更新する見通しだ。お酒離れが進んでいるなかで、なぜここまで伸びているのか。これまではビールが苦手な若者を取り込んできたが、理由はそれだけではない。ライフスタイルが急速に変化し、「おうちの居酒屋化」が進んでいることが背景にある。

「食中酒」として食卓に食い込む戦略

サントリーは缶チューハイを盛り上げるイベントを開催(7月14日、東京都港区の赤坂サカス)

 「ギョーザとよく合うねえ」。真夏日の7月中旬、赤坂サカス(東京・港)で開かれたイベントを訪れた30歳代男性は上機嫌だった。テーブルに用意されたギョーザをほお張りながら右手に持っていたのはビールではなく、氷入りでキンキンに冷えたチューハイだ。

 ここはサントリースピリッツのイベント会場。チューハイ「マイナス196℃ストロングゼロ」と、食事との相性のよさをアピールするための催しだ。缶チューハイはビール系飲料の中で税率の低い「第三のビール」とほぼ同じ価格帯。安さの魅力だけでなく、食事のお供になる「食中酒」として食卓に食い込もうという戦略だ。

 缶チューハイは、缶を開けたらすぐに焼酎ハイボールやカクテルなどを楽しめる「RTD(レディー・トゥ・ドリンク)」と呼ばれるカテゴリーの代表格だ。サントリースピリッツによると、RTDの2016年の販売量は1億7000万ケース(1ケースは6リットル)で、10年前に比べて7割も増えた。ビール系飲料の同時期の販売(課税済み出荷)が4億1500万ケース(同、12.66リットル)と2割近く減ったのとは対照的だ。

 ビール離れの需要の受け皿となる形で伸びてきた缶チューハイだが、さらに追い風が吹いている。サントリースピリッツの佐藤晃世RTD部長は「食事を含めたライフスタイルが変わってきたことが背景にある」と解説する。

 都内のある家庭の食卓をのぞいてみた。「夫はビールと揚げ物だけど、私は缶チューハイと低カロリーなおつまみ。夕飯はそれぞれ好きな料理を楽しんでます」。30代の主婦はこう説明してくれた。

 一昔前の夕飯の風景と言えば、家族そろって同じ料理を食べたものだ。しかし、昨今では夫婦の共働きが増え、スーパーなどで買ってきた総菜で済ます家も少なくない。そうなると、家族それぞれが小分けの好きな総菜を選び、お酒も例外ではなくなる。「みんなが好きなものを選ぶ。あたかも家が居酒屋になっている」(佐藤氏)。これが缶チューハイ人気の背景だという。

家族がそれぞれ好きなお酒や料理を楽しむ「おうちの居酒屋化」が進んでいる

 缶チューハイは風味やアルコール度数などバラエティーが豊富。気分によって毎日、違うものを選べる。これが"居酒屋化"する家庭にピッタリはまった。ビールは麦芽比率67%以上など法律で決まりがあるが、RTDは自由。工夫次第で様々な商品を生み出せる。サントリーはアルコール度数が7~9%と比較的高めの「ストロング系」に力を入れるが、3月には食事に合うように甘くない「ビター」シリーズの本格展開も始めた。

 数少ない成長市場を狙うのはサントリーだけではない。アサヒビールも6月、ジンを使った「ウィルキンソン・ハード無糖ドライ」を発売した。果実の甘みは残さず、かんきつの香りのみ抽出した蒸留酒を加えたもので、アルコール度数は9%。昨年売り出した「もぎたて」に続く「第2の柱に育てる」(米沢透マーケティング第二部長)考えだ。

コンビニや食品メーカーも追随

ファミリーマートは焼き鳥などの販売で「家庭の居酒屋」需要を取り込む

 「おうちの居酒屋化」を狙う動きは、飲料業界の外にも広がる。

 「わずか1週間たらずで1000万本を超える売り上げを記録しました」。ファミリーマートの担当者はほくほく顔だ。レジカウンターに置く総菜の棚を「ファミ横商店街」と銘打って刷新。6月から焼き鳥の販売を始めると、飛ぶように売れ始めたのだ。刷新に合わせた新商品の顧客は約6割を女性が占め、夕方の客が多いという。夕食の総菜需要を取り込んでいる格好で、このほどてんぷらの販売も始めた。

 食品メーカーもチルド(冷蔵)食品や冷凍食品で追随する。「お肉屋さんの惣菜 厚切りハムカツ」(伊藤ハム)、「お膳や とろーり月見ソース入 直火焼つくね~てりやき~」(プリマハム)――。食欲をそそるネーミングの「おつまみ」が続々と登場。いずれも電子レンジで温めるだけで居酒屋風の料理が出来上がる。伊藤ハムの製品の販売は前年比5割増しだ。

 都内在住のある独身男性は「家で楽しむ"独り居酒屋"はコスパ(費用対効果)もよくて手軽に楽しめる」と話す。仕事とプライベートをしっかり区切る今どきの会社員にとって、家飲みは大事なリフレッシュの場だ。

 2001年に「氷結」を発売し、缶チューハイ市場をけん引してきたのはキリンビールだった。「居酒屋でチューハイの人気が出始めているのをみて、これを家でも飲んでもらえないかと考えた」(RTDのブランドマネージャー、井本亜香氏)のが開発のきっかけだったという。缶チューハイが広く普及し、当初の目的は達したかのように見える。

 お酒は「時代のトレンドを映す鏡」とも言われる。働き方改革で残業が減り、居酒屋の宴会も減るなかで、まだまだ家でお酒を楽しむ流れは続きそうだ。しかし、トレンドの移り変わりは激しい。

 最近、注目されるキーワードは、モノからコトへの消費の変化。単純にものを買うのではなく、体験を重視する「コト消費」のトレンドだ。例えば、キリンビールは3月から、「旅する氷結」という新商品を順次発売している。「カリビアンモヒート」(カリブ海諸島)や「ロコロコパイン」(ハワイ)など、世界各地で飲まれているお酒をアレンジし、その土地の雰囲気を感じながら旅の楽しさを少し味わえるよう工夫したという。

 将来のライフスタイルの変化をどう占うか。それが、ヒット商品を生み出し続けられるかの勝敗を分ける。
(企業報道部 新沼大)[日経電子版2017年7月21日付]

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