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[ liberal arts-大学生の常識 ]

同僚は「見えざるロボット」
どう付き合う?

同僚は「見えざるロボット」どう付き合う?

 米IT(情報技術)大手のデル・テクノロジーズで人事部につとめるマシューさんは見えざる「ロボット」と共に働く従業員の一人だ。2年前、メールの確認や書類の発送など、朝の4時間を費やしていたパソコンでの仕事が自動化された。空いた時間はデータ分析や資料作成にあてる。「仕事の生産性が上がったね」とマシューさんは話す。

ホワイトカラー業務にもロボット

コビントンは証拠書類のAI処理の前段階作業で人を活用している

 いわゆるRPA(業務の自動化)と呼ばれるソフトウエアのロボット活用。製造業では当たり前の自動化だが、近年は人工知能(AI)の普及もありソフトウエアの処理能力が上がった。マシューさんのようなホワイトカラーの仕事でも急速に「ロボット活用」が進み始めている。

 「20年前、新人の仕事は分厚い裁判用の証拠書類一枚一枚に目を通し重要度の分類分けをすることだった。今、これをやる人間はいないよ」。ワシントンDCの大手法律事務所コビントン&バーリングのパートナー弁護士、エド・リッピーさんは自らの仕事を振り返る。難易度の高い弁護士業務も今やロボットが手掛ける。

 米マッキンゼーの調べでは人が関わる約2000の業務のうち3割がロボットでも代替できるという。製造業にとどまらずサービス業でも多くの業務が代替可能で、特に文書の読み込みや、データ入力など単純な繰り返し作業はほとんどがロボットでも十分にこなせる時代になった。

 企業は生産性を高めるために職場でのロボット活用を広げていく。コビントンでも紙の電子化で作業量を10%程度削減したうえにAI活用でさらに70%にまで減らした。この流れが変わらないとするならば、今後は人がそこにどう対応していくかが社会の大きな課題になる。ポイントはロボット化で新たな雇用を生み出せるかどうかだ。

 例えばコビントン。手作業で書類分類を手がける若手弁護士はいなくなったが、一方でAIのために不要な電子書類を省いたり、分類したデータを最終確認したりする新たな裏方弁護士の仕事が必要になった。こうした仕事は弁護士資格があればフリーランスでもできるため、引退した人や職場に縛られたくない人が担い手になっている。

ロボットの作業を監督する仕事、新たに

 AIを使った工場ではロボットの作業を監督する仕事が必要になるといわれている。製造業向けAI半導体を手がける米エヌビディアの幹部は「花粉が多く舞うと機械の作動が狂う。ただし通年で起こるトラブルでないので補正も短期仕様的で済ませないといけない」と話す。そうした判断には人が不可欠だ。

 ロンドン大学のレズリー・ウィルコックス教授はロボット化で失われる仕事が20あるとすると、13の仕事が新規に生まれると試算。ロボット化に直接関係していなくても、人のできることが広がることで生じる仕事もあるとしている。デルのマシューさんも「ルーティンはロボットに任せて、自分は付加価値の高い仕事をする」と話す。

ロボットとの協業はハードだけにとどまらない(人が触っても安全なファナックの産業用ロボット)

 今、米国でよく使われる例え話が1970年代に進んだ銀行によるATMの採用だ。当時は銀行の窓口業務を脅かすと非難の声も上がっていたが、業務コストが下がったことで銀行の店舗数が増えた。その結果、人の雇用も増えたという。足元のロボット化も、人は同様に乗り越えるという指摘は一理ある。

 問題は、ロボット化の進展速度に人が追いつけるかどうかだ。雇用を減らす勢いが強すぎれば、「ロボット悪者論」の声が増す。AI研究の権威として知られるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラット最高経営責任者(CEO)は「AIは人間が時間をかけて積む経験を短期で習得する。今起きていることはかつてないスピードの社会の自動化だ」と話す。

 企業はこうした変化をかぎとっている。例えば米国を代表する製造業のゼネラル・エレクトリック(GE)は社員の「デジタル適応」を急ピッチで進めている。手をこまぬいていれば人がロボット化に取り残されるという危機感があるからだ。

米国、「古豪」企業も動き出す

 GE子会社のGEデジタルで人事を担当するジェニファー・ワルドさんは「デジタル化で自分の仕事がどう脅かされるかをまず考えるべきだ」と指摘。その上で何をすべきかを考え、自ら行動することが生き残りの道と説く。通信大手のAT&Tなど「古豪」と言われた企業が動き出しているのが今の米国の特徴でもる。

 生産性向上に敏感な米国はハードからソフトまで、業務の自動化に積極的だ。一方で日本では人手不足を補う解として自動化への注目が今後ますます高まるだろう。もはや近未来小説の話ではなくなった職場のロボット活用。共存に向けた試行錯誤も今や米企業では現実の経営課題となっている。
[日経電子版2017年7月7日付]

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