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「コスパ最高」とも
中高一貫の小石川、未来人を育成
都立小石川中等教育学校の梅原章司校長に聞く

「コスパ最高」とも中高一貫の小石川、未来人を育成都立小石川中等教育学校の梅原章司校長に聞く
東京・文京の都立小石川中等教育学校

 東京都文京区にある公立の中高一貫校、都立小石川中等教育学校。2006年に名門都立高が中高一貫校に生まれ変わり、人気が爆発した。従来の進学校と一線を画し、「教養」をベースとした独自教育を実践し、海外研修に熱心で、国際科学オリンピックにも次々挑む。一方で、東大合格者も年々上昇し、今や10人に1人が進学する。世界を舞台に活躍する「将来のリーダーを育てる」とうたう小石川を訪ねた。

開成や桜蔭を蹴って入る生徒も

 「やはり小石川が都内でコストパフォーマンス(コスパ)が最高にいい中学じゃないかと。公立の中高一貫で学費が安いし、進学実績がいい、しかも将来のキャリア教育もやってくれる」。現在、小学校4年生の息子を持つ40代の父親はこう話す。息子を公立中学受験に強い進学塾に通わせ始めたという。

 閑静な住宅街にある小石川。近隣には開成中学・高校や桜蔭中学・高校があるが、小石川は、東大合格者数のベスト30位にも入っておらず、大学受験界でそれほど目立つ存在ではない。前身の小石川高校は政治家の小沢一郎氏や元首相の鳩山由紀夫氏などを輩出した都立の名門校として知られたが、小石川中等教育学校という名前は政界や経済界では、まだなじみがない。

都立小石川中等教育学校の梅原章司校長

 しかし、小石川の梅原章司校長は「開成中学や桜蔭中学などいわゆる男子や女子の『御三家』に合格しながら、本校に入学する生徒もいます」と話す。同校は中学入試のみの6年制で、1学年の定員は160人。定員が400人の開成高校の4割と小規模な学校だ。開校してまだ12年の新興校だが、「人気は非常に高い。中学入試の倍率は開校当初10倍を超え、現在は少し落ち着きましたが、それでも6倍程度あります」と土方賢作副校長は話す。

 開成中学など首都圏の有名進学校の倍率はいずれも3倍前後だ。大手進学塾は「公立の中高一貫は、どこも人気があるが、開成や桜蔭を蹴ってまで、親が子供に行かせたがるのは小石川ぐらいだ」という。

 すでに都立中高一貫校は都内に10校あるが、なぜ小石川はこれほど人気が高いのか。

難関大の現役合格率は日比谷並み

都立小石川中等教育学校の図書館

 一つは東大など難関大学への進学実績が年々上昇しているからだ。13年は東大合格者は5人だったが、17年は14人、現役合格者は11人で過去最高を更新した。さらに東大に京都大学、一橋大学、東京工業大学の難関4大学と国公立大学医学部医学科の現役合格者数を単純に合算すると、31人となる。同年の卒業生は154人のため、5人に1人の割合になる。対して東大合格者数で45人と全国の公立高でトップの日比谷高校。17年の東大など4大学と国公立医学部医学科の現役合格者の単純合算数は56人。卒業生は321人。難関大の現役合格率では小石川は日比谷に劣っていない。

 中学入試で人気が高い小石川。ただ、入試の傾向と対策は有名私立中学とは全く異なる。まず入試は学力検査とは呼ばず、「適性検査」という。国算理社という入試科目のスタイルではなく、適性検査1、2、3という分類法で300点満点で算定。小学校時代の成績なども勘案して合否を決める。

 適性検査1は国語に相当する問題だが、2や3は算数や理社の素養をベースにして、論理的な思考力や表現力を問う。知識など暗記ではなく、自身の意見を書かせる質問が多い。「日ごろから考える、書くという習慣がないとダメですね」(梅原校長)と話す。一方で「入学後に学力の差がつきます。都立高の進学重点校のように学力が一定以上の集団というわけではなく、多様な人材が集まっています」(土方副校長)という。

 梅原校長は「本校は難関大学の進学実績を上げるためだけの受験校ではない」と強調する。小石川の特徴は「教養」を核に「理数教育」と「国際理解教育」の3点を重視し、将来のリーダーを育成するとうたっていることだ。クラスを理系と文系に分けず、すべての生徒がすべての教科を学ぶ仕組みとなっている。さらに「小石川フィロソフィー」という教養の独自科目を6年間履修する。3、4年生の時には「古事記を読み解く」「自然科学・探求活動の基礎」など多様な講座を設定し、教師が独自にプログラムをつくり、生徒とともに探求して、意見交換しながら論文を作成する。

 同校の図書館。調べ物や自習で常に生徒がいる。「教員も生徒も小石川フィロソフィーに追われて、とにかく忙しい」(梅原校長)という。小石川の教員は約2万人の都内公立中高の教員の中から公募などで選ばれるため、「やる気があり、能力の高い教師が集まっている」という。

国際科学オリンピックに次々挑戦

お茶の水女子大学と小石川が連携した生物実験講座=同校提供

 理数教育にも熱心だ。かつて同校の隣には理化学研究所があり、小石川高校時代から理数に強い学校といわれた。現在は早稲田大学やお茶の水女子大学などと連携し、「大学の実験室を使わせてもらって、生徒たちは自分たちの仮説を実証したりしています。近くにいい大学が多いですから地の利があります」(土方副校長)という。東大教授のOB研究室訪問も実施。数学や物理、化学、生物、地学の国際科学オリンピックにも生徒たちは次々挑戦している。

 「各分野で全国大会に進んでいますが、今年は地学オリンピックやロボカップジュニアの世界大会に出場する生徒がいる」(梅原校長)という。灘高校や筑波大学付属駒場高校の「神童」も国際科学オリンピックに熱心な生徒はいるが、小石川は校舎に垂れ幕を掲げるなど、全校をあげて出場者を応援している。

 国際理解教育も本格的だ。2年生の時に2泊3日の国内語学研修、3年生時は2週間のオーストラリアでの海外語学研修、5年時はシンガポールで海外修学旅行を実施する。原則として全生徒が参加し、オーストラリアではホームステイもやる。公立中高一貫校でここまで海外研修をやる学校は珍しい。

21世紀型の人材教育 渋幕と並ぶ評価

 教養教育や国際科学オリンピック、海外研修――。そんなことより受験勉強に力を入れた方が、進学実績を伸ばせるという指摘もある。だが「今、21世紀型のグローバル人材教育をしっかりやっているのが、小石川と渋幕(渋谷教育学園幕張中学・高校)といわれる。20年から大学入試制度が一変し、ペーパーテスト一本から面接や小論文、英語もスピーキングが加わるとされるなか、両校はこれにマッチした教育をしているモデル校的な存在だ」(大手進学塾幹部)。

中学3年で実施する小石川の海外語学研修の様子(オーストラリア・アデレード)=同校提供

 梅原校長も「確かに20年の大学入試改革は有利になると思います。教養、理数、国際の3本柱の教育が奏功すると考えています。先日も保護者の方から、『子どもに学ばせたいと思っていることをすべてやってくれる学校』などと言われました」という。

 小石川の魅力は単純に公立中高一貫校として進学実績が全国トップクラスになったというだけではない。教養、理数、国際というグローバルリーダーの育成に不可欠な教育を実践していることだ。20年の大学入試改革を見据えて、未来の人材を育成する小石川。真価が問われるのはこれからだ。
(代慶達也)[日経電子版2017年7月9日付]

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