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「スマホTV」地上波超えるか
DAZN・アベマ活況

「スマホTV」地上波超えるかDAZN・アベマ活況

 群雄割拠の動画配信。中でもスポーツ生放送の「DAZN(ダ・ゾーン)」と、約30チャンネルが無料の「Abema(アベマ)TV」がテレビ的なモデルで注目を集める。映像娯楽の王であるテレビは、見る場所、枠の数、企画の節度など制約がある。その縛りのない「スマートフォン(スマホ)テレビ」は地上波を超えられるか。利用者調査で探った。

DAZN、スポーツを生で年6000試合

DAZNはF1や自転車など幅広いスポーツを取り上げる

 「ダ・ゾーンとテレビのスポーツ番組、どちらが優れていますか」。今回実施した利用者アンケートでは、72%が「ダ・ゾーン」と答えた。わざわざお金を払うユーザーだから当然ともいえるが、満足度は高い。

 従来の動画配信サービスは、映画やドラマを視聴者ごとに再生するオンデマンド型が中心だ。対して、英パフォームグループが運営するダ・ゾーンはスポーツに特化。地上波テレビのような枠の限界はなく、ほぼ全て「生放送」で楽しめる。2100億円の巨費を投じて、Jリーグと今シーズンから10年間の放映権契約を結び話題を呼んだ。

 月額1750円(税別)、2月に提携したNTTドコモのユーザーなら980円。画面の小さいスマホ中心で、スポーツ好きがついてくるのか。業界に疑問の声は多かったが、ドコモ経由の契約者だけで4月下旬時点で45万人に達した。

 テレビより優れている点で最多回答は「視聴できるコンテンツが多い」(60.5%)だ。海外サッカーやプロ野球、格闘技からダーツまで年間130リーグの6000試合を放映する。よく見るジャンルでJリーグの78.5%は当然として、「モータースポーツ」が20.5%、「自転車競技」も10.5%に達した。「マイナーどころまで見られ、スポーツの可能性が広がる」と20代の男性。

 「見逃し配信でいつでも視聴できる」(57.5%)、「視聴するためのデバイスが自由」(32.0%)も支持が高い。

 ダ・ゾーンへの評価は、テレビのスポーツ番組への不満の裏返しだ。具体的には「視聴できるコンテンツが少ない」(36%)、「都合の良いタイミングで視聴できない」(30.5%)、「メジャーなスポーツやリーグばかり放送される」(28.5%)などがあがった。

 30代の男性は「テレビでは注目度の高い試合だけ。録画し忘れると見られないし、再生デバイスも制限される」と不満を列挙する。ダ・ゾーンはこうしたスポーツファンたちをすくい上げた。

 ダ・ゾーンの強さはコンテンツの量だけでなく質にもある。Jリーグの注目試合には16台ものカメラを置き、多様なアングルやスーパースローの映像を届ける。

1画面で3つの注目試合を見られる番組も

 1画面で3試合を同時に流したり、ピッチサイドの映像を交流サイト(SNS)で即座に配信したり。F1では運転席に設置したカメラの映像だけを流す番組もある。

 ダ・ゾーンはスポーツの視聴時間そのものを増やしている。利用前に比べて34.5%が「スポーツを見る時間が増えた」と回答。延びた時間は平均で週に約4時間だ。

 ダ・ゾーンの目指す先はまさにここにある。スマホで旅行や外出中でも見られる。見逃し配信ならタイミングも縛られない。信田真樹コンテンツマーケティング部長は「スポーツへのアクセスをより自由にし、週末の過ごし方を変えていきたい」と話す。

 Jリーグ開幕節ではトラブルで視聴できない事態も起きた。調査では「画質が良くない」と答えた人が37.5%。「テレビの大画面で視聴するには手間がかかる」(21%)という声も多い。ネットとの接続機器をセットする必要があるためだ。

 それでも、ダ・ゾーンがスポーツ産業に与えるインパクトは小さくない。マイナースポーツは視聴を通じて、競技人口や観戦者が増えることも期待できそうだ。

AbemaTV、「タブ-」に挑む企画力

 「第一試合はケンカ無敗の最強ホスト、神風永遠(とわ)との一戦!」。アベマTVは5月7日、ボクシング元世界王者、亀田興毅氏と一般人との対決を生放送した。亀田氏に勝てば賞金1000万円という企画にアクセスが殺到し、一時サーバーがダウン。延べ視聴数は1420万回に達し、アベマの名を決定的に広める「事件」となった。

アベマTVは最大30チャンネルを無料で「放送」する

 アベマは視聴無料で、最大30チャンネルを番組表に従って「放送」する。サイバーエージェントがテレビ朝日と組んで運営しており、まさにスマホ向けのテレビ局だ。

 利用者に「従来のテレビとどちらが優れているか」尋ねたところ、35.4%が「アベマ」と答えた。専門性で勝負するダ・ゾーンとは違い、ニュース、バラエティーなど地上波とほぼ同じ土俵に乗っていることを考えれば大健闘といえる。

 サイバーエージェントの藤田晋社長は「長年の競争で鍛えられたテレビにコンテンツ力で勝とうとすることはばかげた話だ」と語るが、ある大手民放キー局幹部は「とてもまねできない番組を作っている」と嫉妬する。

 視聴者も同じことを感じている。番組作りで一般のテレビよりも優れている点を尋ねると、75.1%が「企画」と回答した。「地上波では放送できない内容やキーワードが面白い」(30代男性)。その象徴が冒頭のボクシング対決だ。

 一般人と元世界王者を戦わせるというリスキーさに加え、全身入れ墨の元暴走族総長など地上波では流しにくい「タブー」な対戦相手が続々登場。歌舞伎町ホストから飛び出した「アゴ狙いパッカーン系で」など迷フレーズにも視聴者は沸いた。サイバーエージェントの谷口達彦執行役員は「『禁断のもの』や『予定不調和なもの』を重要視している」と話す。

亀田氏と元暴走族らのボクシング対戦は1420万視聴

 調査では一般のテレビの不満な点も聞いた。ともにほぼ4割に達したのは「似たような番組が多い」と「内容の自主規制が厳しい」。ある30代男性は「ネットなどでの批判に影響されて面白くなくなっている」と話す。

 そんな環境下で、作り手やタレントにとってもアベマは挑戦の場になっている。「(お笑いコンビの)極楽とんぼの山本圭壱さんなどキャスティングの意外度が大きい」(30代男性)。山本氏は不祥事で約10年間もほぼテレビ出演がなかった。アベマは昨年11月に吉本興業でのコンビ活動を再開した極楽とんぼに、どのテレビ局よりも早く冠番組を持たせた。

 「全てを『かける』」という意味をこめた「KAKERU TV」という番組名の通り、内容もあえて過激に。「限界突破」と銘打った人気セクシー女優が参戦する水泳大会や、山本氏が数百万円の貯金をはたいた競艇レースの一発勝負など、世間体を気にせずコンビの面白さを引き出した。

 インターネット配信ならではのコメント投稿機能なども強みだ。「自分もコメントをすることで参加意識が出て楽しい」(20代女性)とコミュニケーションツールにもなりつつある。

 一方で、不満としては「画質が悪い」「トラブルで視聴できない」が21%に達した。人気ゆえの障害は最初はネタとして許されても、繰り返されれば視聴者は離れる。

 最大の課題は収益性だ。アベマを視聴する理由の圧倒的1位は「無料だから」(84.3%)。地上波に似たスタイルだけに「お金を払ってまで見ない」(40代女性)という声は非常に多かった。

 広告収入で稼ぐビジネスモデルだが、単価が安いネット業界ではハードルが高い。アベマ事業は2017年9月期に200億円の赤字を見込む。挑戦的コンテンツを支える足腰は、本家テレビに比べまだあまりに細い。
(綱島雄太、毛芝雄己)[日経MJ2017年6月11日付、日経電子版から転載]

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