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[ liberal arts-大学生の常識 ]

簡潔にわかりやすく書くコツ(2)起承転結は不要、大事なことから書こう

沼田憲男 authored by 沼田憲男沼田事務所代表取締役
簡潔にわかりやすく書くコツ(2) 起承転結は不要、大事なことから書こう
撮影協力:清泉女子大学

 若い人の文章を読みながら「おいおいおい、大丈夫かよ」「まずいんじゃない」とはらはらすることがある。結論がはっきり伝わってこないのだ。その要因の1つは日本の伝統的な国語教育の影響ではないかと思っている。

読むのに疲れるエントリーシート

 「皆さんの書いたエントリーシートは読みたくありません」

 「読むのに疲れます」

 受講生五十人の学生の百の瞳が大きく見開き、一斉に私に集中した。事前に読んだ彼らの労作に対し、感じたことを率直に言った時だ。

 全身全霊をかたむけ、一心に集中して一生懸命書いたのだろう。その気迫は行間からひしひしと伝わってくる。しかし、問いかけに対する「答え」が、読み手にはストレートに伝わってこない。だから疲れる。もったいない。「あと一工夫できればいいのに」と感じてやまないのだ。

 そのことを話すと、皆、大きくうなずいている。本人たちも内心ではうすうす伝わりにくいことを感じているのだなと理解できた。

 上手く書けないのには、大きく分けて二つの問題がある。

 先ずその一。
起承転結は必要ない。捨てよ

 例えば「当社を希望した理由は何ですか」

 私だったら

 「○○○の仕事がしたい。貴社は技術力、収益力が強く、報酬が高い。いい仕事をすれば報いられ、やりがいがある」といった内容のことを率直にストレートに書くだろう。

 が、学生諸兄の書き方は、会社を知った経緯とか選んだきっかけとか、何しろ前置きが多いのだ。わかりにくい理由はここにある。同席した就職活動をサポートするベテラン教官たちも同じことを指摘していた。

 何故なのだろう。

 日本語の伝統である「起承転結」の影響ではないかと思っている。

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。・・・・・。川に流れてきた桃を家に持って帰り、開いてみると元気な男の子が出てきました。桃太郎と名付けました。......「起」

 やがて男の子はすくすく育ちました。......「承」

 ある日鬼退治に行くことになり吉備団子をお腰につけて出発しました。...... 「転」

 鬼ヶ島に行き鬼を退治しました。めでたし、めでたし。......「結」

 昔から日本の子供たちが絵本で読んでもらう代表的な童話である。幼稚園のお遊戯の定番演目でもある。

 そしてこの話の進め方が、書き方が上手な文章の手本ともされてきた。中学、高校に進むと試験も多い。国語の試験問題に起承転結で書いた文章がよく題材にされる。

 起承転結文化にすっかり馴染んだ学生諸兄がある日、就職活動にはいる。限られた小さな欄の空白を埋める瞬間、どう書くかはたと悩む。意識しようとしまいと、結論をはっきり先に書こうと思わせない心理作用が何かあるのだと思う。

大事なこと、結論から書き出そう

 「君たちの書いた文章を英語に翻訳してごらん。むずかしいと思うよ・・・」。皆、考え込み「そうだろうな」という表情を見せる。

 「最初から英語で書いてごらん。それを日本語に翻訳する。すっきりするよ」

 「おお・・・納得」という顔をする。

 日本語のような曖昧な表現は少なく、結論を先に表現していく言語と知っているからだ。

 前回、「結論を導くまで考え、メモにする」話をしたが、それができたら、それをそのまま書くことと同じである。簡潔でわかりやすい相手への回答、メッセージになるのである。

 断っておくが、起承転結を否定しているのではない。現に自分もこの構成で文章をまとめることもある。上手な語り方の形式と思っている。

 しかし、時間を大事にする仕事、ビジネスには向かないのだ。要は時と場合によって臨機応変に使い分けなければいけないということだ。

 今一つの問題。
本音を伝えることを憚(はばか)るなかれ

 その時見せてもらったエントリーシートの提出先は、たまたまではあろうが、ほとんどが有名な一流大企業だった。

 ちょっと意地悪かもしれないが

 「みんないい会社を希望しているよね。要するに業績が安定し、給料は世間並以上に高いから入社したいと思っているんでしょう」と言ってみた。

 「一流企業なら世間体もいいし、福利厚生も行き届いているし、ね、違う?」

 図星を言ったようで、素直にうなずく面々。

 「だけど、それだけを書いたら、最初から〝来なくていい〟と、門前払いをくっちゃうよね」

 一同、大笑いである。

 だから、本音を上手くぼかして書こうと思っているからみんな苦労してしまうのだ。上手く取り繕って書こうとするからむずかしいのだ。私だってアタマが混乱する。上手く書く自信などない。

 「寄らば、大樹の陰」という本心が透けて見えてもいいんだ。会社だって、心得たもので学生の心底くらい百も承知だ。「寄らば、大樹の陰」については人生観、生き方の良し悪しに議論はいろいろあろうが、それが普通の人情というものだ。

 それのどこが悪いのだろうか。

 良い会社で一生懸命働き、仕事を覚え、いい仕事がしたい、自分は会社に貢献できる、そんなメッセージを「考え」メモにして結論を導けばいいのだ。自分の言葉になる。

 次回は「言葉には魔力が潜む」話をしたい。

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