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[ career-働き方 ]

理想のワイシャツ、20代の技で

理想のワイシャツ、20代の技で

 良質の服を作り出すのは、必ずしも大手企業や経験豊富な職人とは限らない。創業からわずか3年の南シャツ(千葉県流山市)の品質には、全国の百貨店なども注目する。一人ひとりの顧客にじっくりとカウンセリングし、体にあったワイシャツを型紙から作る。作り手を育てたいという若い職人の思いがこもった1枚だ。

「シャープだけど艶っぽいシャツが理想」と話す南祐太さん

 東武野田線沿いの閑静な住宅街に南シャツはある。南祐太さん(33)が2014年に開いた店舗兼工房は広さ約80平方メートル。南さんも合わせて5人の職人が1人1日1枚のペースでワイシャツをつくる。価格は税別1万8千円からだ。インスタグラムなどネットを通じて知名度が高まり、最近では大手百貨店でも受注会を開くようになった。

 店舗スペースのすぐ裏の工房には顧客の型紙や受注書がびっしり。生地を7つのパーツに切り分け、ミシンで縫い合わせる。黙々と作業をする4人はすべて20代だ。知り合いの紹介や交流サイト(SNS)を通じて南シャツの門をたたいた。

 古橋祥子さん(29)は、かつてはスーツの縫製工場で働いていた。しかし、自分がよく分からないまま流れ作業で商品になっていくことに疑問を抱いていた。いまは「商品になるまで責任を持ってものづくりができるようになった」とやりがいを感じている。

20代の職人が1日に1枚のワイシャツをつくる

 顧客に対しては、まず店舗でじっくりとカウンセリングする。採寸だけでなく、求める着心地やどんなスーツに合わせるのかなどを詳細に聞き取り、その人にぴったりの1枚を仕上げる。基本的には店舗に足を運んでもらうが、長崎県の客がどうしても店に来られないため、お気に入りシャツと体の写真を送ってもらって作ったこともあるという。

 着心地や動きやすさにこだわり、わきの下の位置を高めたり、背中にダーツ(絞り)を入れたり。南さんは「よくアイロンがかけづらいと言われるが、畳んだ時のきれいさよりも着心地を優先している」という。

 流山で生まれ育った南さん。服飾専門学校では店舗運営などファッションビジネスを学んだ。ものづくりとはほぼ無縁だったが、卒業後の04年に実家近くのシャツの縫製工場でアルバイトをした。ここで仕立ての技術を学び、シャツ作りに没頭。07年に独立し、老舗シャツメーカーなどからの注文を受けていた。

 襟の質感などはすべて独学だ。帰宅後に夜中まで型紙を研究した。試行錯誤の中で感じたのは、日本のアパレル業界の仕組みが職人を大切にしていないことだ。シャツメーカーは自前で作らず下請けに出すため、職人の工賃は低くなる。大量生産であればなおさらだ。「職人が育ち、技術を残す環境にしたい」という思いが、南シャツを立ち上げた根幹にある。

 「シャープだけど艶っぽい」。こんなシャツが理想だ。英国風のかっちりした襟か、イタリア風の柔らかい襟か。いずれも芯地の硬さではなく、型紙の違いで表現する。「1ミリ、2ミリの違いで見た目が変わる」と南さん。4人の若い職人たちには細かくは指導しない。自ら考え、理想のシャツ作りにたどり着いてほしいからだ。

 アパレル不況の中でも、ネット経由で着実に客数が増えている。地元の工場に発注した既製品(1万2千円~)も近く販売する。南さんの目線の先にはアジアなど海外市場も映っている。消費者がシャツにひき付けられるのは品質だけではない。一枚一枚に職人の思いが詰まっているからこそだろう。
(企業報道部 佐竹実)[日経産業新聞2017年6月21日付、日経電子版から転載]

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