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[ liberal arts-大学生の常識 ]

資格で考えるキャリアプラン(6)人気過熱の医師、求められる資質に変化も

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
資格で考えるキャリアプラン(6) 人気過熱の医師、求められる資質に変化も

 今回は日本の医師不足の問題を取り上げます。日本における医師の不足の問題を多角的に捉えてみると、日本の抱えるいろいろな課題が浮かびあがります。

 まずは地方における医師不足の問題です。地方には医師がなかなか行きたがりません。それは、特に向上心の高い若手の医師を中心として、絶えず最新の情報を入手し、新たな技術を習得する必要があるため、そうした目的を達成しやすい都会にある大学病院、あるいは大病院で働くことを希望するからです。その結果、情報環境の悪い地方で勤務しようとする医師の数が少なくなり、地方での需要と供給の関係から、地方の開業医が一番儲かるという結果になっているようです。

医師の数は西高東低

医療に対する需要は今後も増大する

 地方間でも格差があります。医療ガバナンス研究所の上昌広先生がデータに基づいて立証されているように、医師の数は冬の気圧配置と同様、「西高東低」の状況にあります。つまり、九州など、西に行くほど医師が多く、東北など、東に行くほど医師が不足しています。これはひとえにその地域における医学部を有する大学の数によるものです。

 これまでは医師の過剰供給、そして質の低下にならないよう、医学部の定員を増やさない方針がとられてきました。しかし、近年、医師不足の問題が深刻化し、社会的に大々的に取り上げられるようになったのを受け、この問題の解消に向け、ここに来て医学部の新設が一部認められるようになりました。2015年には、琉球大学医学部の新設以来35年ぶりに東北薬科大学が医学部を新設することが認められ、東北医科薬科大と名称に変更し、2016年度に100名の新入生を迎えました。また、千葉県成田市でも、国際医療福祉大学が医学部の新設を認められ、今年4月に140名の新入生を迎えました。ただ、こちらは認可をめぐってそのあり方が問題視されています。いずれにせよ、こうした政策も、現状からすれば焼け石に水のような感があります。

医療ツーリズムに需要

日本の高度医療に対する外国人富裕層の関心は高い

 医師の需要は別の面からも増大しています。日本は近年、国の成長戦略の一環として「医療ツーリズム」を推進しようとしています。「医療ツーリズム」とは、高度な医療行為や人間ドックなどを、海外の、主に富裕層に提供し、日本国内で多くの消費を行ってもらおうとするものです。このような目的での旅行は医療行為を行う国での滞在期間が長くなり、滞在中に様々な娯楽を行うことで消費額も大きくなりますし、さらに家族を帯同することが一般的ですので、その分消費額も大きくなり、経済効果は高いものとなります。

 こうした需要を確実に取り組んでいくためには、語学能力の高い、またホスピタリティ精神の旺盛な医師が多く市場に供給されることが必要です。この点からもベンチャー精神のある医師を多数育成していくことが国家戦略としても求められています。

専門の人気に格差

 同じ医師の中でも需要と供給のアンバランスがあります。厳しい労働環境を強いられる分野では、当然とも言えますが、なかなか成り手がいないのが現状です。1分1秒を争う過酷な環境に置かれ、いつ呼び出されるかわからない様な救急医療などは、QOL(生活の質)を大切にし、これから専門を選ぼうとするインターンには人気がありません。同様に、いつ呼び出されるかわからず、自分の生活を楽しもうとする人には人気のないものとしては、産婦人科や小児科、そして外科があります。一世を風靡した医療漫画「ブラック・ジャック」が憧れの存在とされた時期はもはや過ぎ去ったと言わざるを得ません。特に小児科は、何か問題が生じたときの訴訟リスクが大きいという事情もあります。

 その反面、日本では今後高齢化社会を迎え、眼科では需要の大幅な増大が見込まれ、その道を志望する医学生は多いと聞きますが、日本の医学会の中では、眼科医の地位はあまり高くないようです。それに対して、深作秀春「視力を失わない生き方」(光文社新書)によると、アメリカなどでは眼科医は医者の中でも最も尊敬されるものであるとされています。いずれにしても、どれも重要な分野であり、どの分野も均等な発展を遂げていくことを願うばかりです。

門戸広げる施策必要

 結論としては、これまで医師が余るという前提にたった政策を根本的に転換し、医師になる道をもっと多様化し、競争原理を働かせることによって、よりやる気があって、実績を伴った医師が高く評価され、生き残ることができるような環境を醸成していくことが必要だと考えます。そのためには、近年進められているような、大学を卒業し、すでに働いている人を対象とした学士編入を漸増的に進めるだけでは全く不十分ではないでしょうか。

 もっと大胆に、医師になりたいと思う人にはできるだけ門戸を開放し、国家試験でのみその適否を判断すれば、より求められる理想的な医師像に近い人物を掘り起こしていくことができるのではないかと思います。その後は、施術の実績に基づいて、医療行為を必要とする人々に、広く医者を選択する制度も構築していくべきではないかと考えます。もちろん、その際には、実態に伴わない、不当な「宣伝行為」をしっかりと排除していくことも必須となります。

 こうすることで、現在の医学部に対して高校生などが持たされている「異常な」過剰評価をなくすことにもつながっていくことが期待されます。大学受験における医学部に対する過剰に高い評価は、本来医師に向いていない「頭のいい」受験生が医学部に合格してしまい、本人にとっても、また当然ながら、将来その施術を受ける患者にとっても不幸なことになってしまいます。この問題について、是非、その経済力の高さから政治力の高い医者の方々の一部の既得権域を守ろうとする動きに流されることなく、国の将来性を真剣に見据えた上での対応を求めます。

「資格で考えるキャリアプラン」は今回で終了します。

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