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東大合格校に異変
公立トップへ横浜翠嵐の熱血教員団
神奈川県立横浜翠嵐高校の
佐藤到校長に聞く

東大合格校に異変公立トップへ横浜翠嵐の熱血教員団神奈川県立横浜翠嵐高校の佐藤到校長に聞く
神奈川県立横浜翠嵐高校

 横浜市の名門県立高、横浜翠嵐高校。東大合格者数は2000年には1人にまで落ち込んだが、17年は34人と躍進し、「東大合格校に異変」と話題になった。難関大学の受験で中高一貫校の優位が続くなか、都立日比谷高校に次いで「公立校の逆襲」の台風の目となっている翠嵐。どんな教育をしているのか。JR横浜駅に近い翠嵐を訪ねた。

進路は高1で7割が決まる

 「うちの子も東大に行けるのでは」。翠嵐は夏に中学3年生の保護者や生徒を対象にした学校説明会を開くが、そこに参加したある保護者は教師陣の力強いプレゼンを聞いて、そう感じたという。

 翠嵐の佐藤到校長は入学前に生徒や保護者に進路実現のための学習と生活習慣の心構えを示す。1枚の紙には、「横浜翠嵐高校1年生としての覚悟をもって入学してきてください」と明記している。翠嵐に合格できるレベルの生徒の学力なら、十分に東大を目指せる。ただし、家庭での学習は平日は学年+2時間、休日は学年+4時間をすすめている。授業の予習・復習を徹底するなら、塾に通わなくても、志望大学に合格はできる。ガイダンスグループのサブリーダーの中村悠人教諭は「進路は高1での学習と生活習慣で7割が決まる」と強調する。

 公立高校から東大に――。掛け声だけなら誰でも言えるが、翠嵐は明確な実績を出している。16年入試を見ると、東大現役合格者は18人。浪人を含めると20人なので、なんと9割が現役合格だ。公立高では現役合格率が6割を突破するのも難しいとされる。「このとき、あと一歩で不合格だった生徒もたくさんいました。その結果、17年の東大合格者は浪人13人、現役21人の計34人になり、過去最高になったわけです」と、佐藤校長は目を細める。

学習時間をチェック

横浜翠嵐高校の佐藤到校長

 翠嵐はどう学校改革を進めてきたのか。佐藤校長は「改革がスタートしたのは10年前です。当時の校長先生が校内での全国模試導入や土曜授業、学習オリエンテーションを実施して、進学実績を高めてきました」という。近年では家庭での学習時間調査や生徒が先の見通しを立てやすくするための進路についての集会、個々の生徒の学力・学習状況を教員が共有するための検討会なども実施している。

 佐藤校長は「どれも生徒をガチガチに管理しようとしているのではありません。これを基に現在の状況を共有し、生徒と教員の向く方向をそろえるためです」と話す。

 16年卒の担任でもあった中村教諭はいう。「実は16年卒の高1入学時の家庭学習時間は平均して1時間38分と目標の3時間を大きく下回っていました。教員側もこれではいけないと思い、もっと生徒の心に火をつけるような授業のやり方を考えました。ノートも細かく添削するなどして、先生たち全員でがんばったのです」

 中村教諭には回顧談がある。「学生時代にある予備校で、生徒をやる気にさせる、すごく面白い講義を聞いて考えさせられました。高校でこんな授業を受けたかったなと。そんな思いで教師になりました」

イクメン教師も奮闘

中村先生は31歳の熱血イクメン教師

 翠嵐の先生は忙しい。中村教諭の場合、子育て中の「イクメン」でもあるため、午後9時に子供と一緒に寝て、なんと午前1時半に起床する。それから授業の準備を始め、生徒が書いたものの添削、進路指導の仕込みなどに早朝まで時間を費やす。その後登校し、放課後は質問に来る生徒の相手をし、夕方には帰宅して子供を風呂に入れるという。「睡眠時間4時間半なんてよくないですよね。ただ、生徒も頑張っているので今を一生懸命全力でやりたいと思っています」と話す。31歳の熱血イクメン教師だ。

 授業の質を高め、有名大学の「赤本」を並べた自習室60席は平日だけでなく、土日も開放した。翠嵐はもともと部活動や文化祭、体育祭などの行事も盛んな学校だ。現在も9割の生徒が何らかの部活動・同好会に属している。「勉強だけでは、将来の人材は育たない」(佐藤校長)として、部活動は週5日制。午後3時半に授業は終わり、そして部活動。下校は午後7時まで。確かに教員も生徒も忙しい学校だ。

 「熱血教員団」が翠嵐躍進の原動力だ。東大合格者数の34人は、公立高校では45人の日比谷、37人の旭丘高校(愛知県)に次いで全国3位の実績だ。関東公立御三家と呼ばれる埼玉県立の浦和高校、千葉県立の千葉高校、そして地元の湘南高校を上回った。

私立王国で公立2番手が躍進した理由

 もともと翠嵐躍進のきっかけになったのは、神奈川県が東京都と同様に公立高の復権を掲げ、「進学重点校」制度を導入したからだ。07年に翠嵐は進学重点校10校のうちの1校に選ばれた。ただ、そもそも神奈川は「私立王国」。中高一貫の栄光学園と聖光学院、浅野学園が東大合格者を競い、人気の慶応義塾高校やフェリス女学院もある。

翠嵐の授業は教師と生徒の真剣勝負

 一方、公立のトップは常に湘南高校だった。石原慎太郎元都知事などを輩出した名門校だ。翠嵐は旧横浜第二中学で、公立で2番手の進学校。1970~80年代に東大合格者は20人を超えた年もあったが、ジワジワ下がり、2000年には1人にまで減った。

 しかし、翠嵐復活への地元の要望は強かった。JR横浜駅からバスで約10分の好立地にあるため、横浜市を核に県内のほぼ全域からの通学が可能だ。「横浜は比較的に所得面で余裕のある家庭が多かったが、1990年以降、景気が低迷してきたので、私立の中高一貫校に通わせるのはしんどくなってきた。公立の復権はありがたい。翠嵐の保護者は非常に教育熱心。学校説明もほぼ全員が出席、特に父親が目立つ」と2人の息子を翠嵐に通わせたある保護者は話す。

サントリー新浪氏も卒業生

 翠嵐の経済分野の卒業生には経営コンサルタントの大前研一氏やサントリーホールディングス(HD)社長の新浪剛史氏など情熱的なリーダーが少なくない。新浪氏は翠嵐時代にはバスケットボールの選手として活躍した。三菱商事に入社後、ハーバード大学のビジネススクールに留学。ローソン社長を経てサントリーHD社長となり、プロ経営者としての評価を高めている。実弟の新浪博氏も翠嵐出身で、著名な心臓外科医だ。「新浪兄弟のように明朗活発な卒業生が多い」(佐藤校長)という。

 翠嵐の1学年の定員は358人だ。17年の現役合格者数は、東大など国公立大学が146人。早稲田大学は119人、慶応義塾大学は98人。大手進学塾関係者は「翠嵐は今、最も気合いが入っている学校。公立進学校のトップに躍り出る可能性はある」という。佐藤校長の合言葉は先生と生徒が「すさまじい情熱」でがんばるだという。日比谷とともに公立高復活のシンボルとなった翠嵐。さらに飛躍しそうだ。
(代慶達也)[日経電子版2017年7月16日付]

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