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[ career-働き方 ]

サステナブルな会社選び(6)窓の卸会社・マテックス
社員が褒め合いながら経営理念を浸透 

authored by 「オルタナ」編集部
サステナブルな会社選び(6) 窓の卸会社・マテックス社員が褒め合いながら経営理念を浸透 

 この連載では、ソーシャル・イノベーション・マガジン「オルタナ」編集部の記者が企業の規模や知名度を問わず、CSR(企業の社会的責任)で先進的な役割を果たし、社会的課題にも積極的に取り組む企業を紹介しています。企業のCSRやサステナビリティ担当部署で働く若手社会人や社会起業家へインタビューし、「社会的課題を解決する働き方」を様々な角度からお伝えします。

 いまでは多くの企業が経営理念を持っていますが、理念が従業員に息づいている組織はどの程度あるのでしょうか。2018年に創業90年を迎える窓の卸売会社、マテックス(東京・豊島)は経営理念をもとに、10個のコア・バリュー(大切にしたい価値観)を定義しました。特徴的なのは、社員が褒め合いながら理念を社内に浸透させていることです。

「ザッポス」から学んだ「会社の価値を掲げること」

――マテックスでは2012年からコア・バリュー経営を実践しているとのことですが、そのコア・バリュー経営についてまず教えてください。

高い断熱性・遮熱性を持つ「エコ窓」の普及を進めるマテックスの松本社長

 2009年に経営理念を定めてから、従業員と対話を通して理念を浸透させようとしました。浸透は対話の数と比例すると思い、全社向けには年に1回、部門別の対話集会は定期的にそれぞれ開いてきました。私一人が伝えることで浸透が進むと思いましたが、今の時代はSNSなどで社員一人ひとりが発信力を持つようになっています。個々の社員が発信するような組織にするためにはどうすればよいのか悩んでいたときに、一冊の本に出合いました。それが、「ザッポスの奇跡(改訂版)-アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略」(廣済堂出版)です。

 ザッポスは米国に本社を構え、靴の販売サイトを運営する企業です。その経営はトップダウンのヒエラルキー型ではなく、透明性が高く、社員一人ひとりの創造性を高める「ホラクラシー経営」を導入していました。この本の著者である石塚しのぶ氏に連絡を取ってお会いさせていただき、一緒にザッポスのオフィスを見学させてもらいました。

 ザッポスでは社員が厳格に管理されずに自由に働いていたのですが、なぜそうした仕組みで事業が上手くいくのか不思議でした。経営陣に聞くと、「自分たちの役割は旗を立てることだ」と言います。社員を管理するのではなく、会社のバリューを掲げることで、社員は方向性を見失うことなく、一人ひとり自由に働けているというのです。透明性が高い組織なので、仕事の成果が目に見えて、社員全員で目標に向かって進んでいると実感しながら働くこともできていました。これは規制やコンプライアンスで縛ることとは大きく違うと思いました。

――ザッポス流の経営をマテックスに導入されたのですね。

伝えるためには「相手を理解することが重要」と強調する

 これまでのマテックスの経営は、トップダウン型で管理し、社員の競争意識を誘発させる傾向が強かったのですが、そうではなく、仲間意識を育み、共に考え合うしなやかな組織をつくることが大切だと気付きました。そこで、2012年に社員と共に理念経営を加速させるための「指針」「大切にしたい価値観」の策定に着手したところ、社内より想いを込めた200以上の意見が寄せられました。

 その中から、カテゴライズして10個に集約してできたのが、いま私たちが大切にしているコア・バリューです。例えば、「お客様の真のよろこびを追及する 数字では表せない領域に『感動』はある」「『オープン』『フェア』かつ『温かみのある』人間関係 チームの和を育む最大の力は『仲間』」といったものです。こうした価値観を軸にしたことで、会社の価値観と社員の価値観がすり合わされ、仕事の意義や価値をより理解しながら働けるようになったと思っています。

コア・バリュー実践の社員は社内SNSで褒め合う

――コア・バリューを浸透させていく方法として、社内SNSで褒め合っているそうですが。

コア・パーパスをもと社員とともに定めた10個のコア・バリュー

 経営理念は額に入れたままでは意味がありません。浸透させ、企業文化をつくるために、対話を基礎に10年以上続けてきました。対話を通して気付いたのは、まず伝えるためには相手を認めることが大切だということです。こちらだけ一方的に話しても、相手には伝わりません。聞く耳を持ってもらえることで、信頼関係が生まれてきました。

 この気付きを生かし、10個のコア・バリューにそった働きをした社員に対し社内SNSを活用して社員同士で褒め合うようにしました。これまでは、感謝を伝えるにはポストイットやメール、もしくは直接言葉で伝えていました。社内SNS上でやりとりすれば第三者でも見ることができます。仕事の成果をより実感でき、部署や事業所を超えたコミュニケーションも活発になりました。

 この仕組みを始めた当初は「みんなが見ているなかで褒めることなんて恥ずかしくてできない」と言っていた社員も、今では「よく人を褒める社員」として評判です。社員は250人ほどいますが、毎月約3,000の称賛メッセージが飛び交っています。新入社員の3年離職率は経営理念やコア・バリュー経営を導入する前では30~50%でしたが、導入後の2010年からは平均で18%に改善しました。仲間意識が強くなり、より家庭的な組織に変わったと思います。今ではどの社員に聞いても、経営理念を自分の言葉で語れると思います。

――サステナブルな会社はどのようにして見つければいいでしょうか。

社員と経営理念やコア・バリューについて語り合う

 経営理念を形にするために、どこまで本気で取り組んでいるのかを見てほしいです。経営理念が額に納まったままではなく、しっかりとその理念をベースにした組織づくりが進められていることが、サステナブルな会社の条件だと思います。

 そのような会社には、時代が変わっても揺らがない価値観があります。マテックスも経営理念に「社会貢献」を掲げていますが、人は自問自答を繰り返すと、「誰かのため」に働きたいと思うようになるはずです。謙虚になって自分と対話することで、社会性が身につくことは自然のことだと思います。皆さんも自問自答を繰り返すことで気付いた、大切にしたい価値観とマッチした会社を見つけてください。
(聞き手は「オルタナS」編集長・池田 真隆)

◆「エコ窓」でCo2抑制とヒートショック防ぐ
 「窓」について理解している消費者は多くはいません。そこでマテックスでは社会貢献活動として、エコ窓普及促進会を設立し、窓の性能について啓発しています。実は、冬場の室内で暖められた空気の58%は窓から流失しています。夏も熱い日射熱を73%も窓から室内に伝えています。Co2の排出を抑制するためには、窓の高性能化が重要になってくるのです。
 さらに高性能の窓によって、ヒートショックを防ぐことにもつながります。ヒートショックは家の中で温度差がある室内を移動した際に起きるもので、突然死の要因とされています。2011年には全国で約1万7000人がヒートショックで亡くなりました。この数はその年の交通事故での死亡者数(4611人)の4倍に及びます。
松本 浩志(まつもと・ひろし)・マテックス社長
 米国のビジネススクール、サンダーバード国際経営大学院を卒業後、日本の大手電機メーカーでDVDの営業や商品企画を行う。その後、2002年に祖父が創立したマテックスに入社、09年から現職。

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