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改憲、20年までにある?
国民投票は支持率次第

改憲、20年までにある?国民投票は支持率次第

 安倍晋三首相が2020年までに憲法を改正する方針を打ち出したわ。どんな改正案になるの。東京都議選で自民党は惨敗したけれど、安倍首相の言った目標通りに進むのかな。

 憲法改正の行方について坂東橋なおさん(45)と奥村彩香さん(35)が大石格編集委員に話を聞いた。

――改憲に関するニュースを目にすることが増えました。

 「安倍晋三首相は2017年5月の読売新聞のインタビューで、憲法に『自衛隊の存在』『高等教育の無償化』を書き加えたいと表明しました。20年までに実現する、と期限も切りました。国民投票後の周知期間などを考えると、遅くとも19年夏ごろまでには国民投票を終えないと間に合わないペースです。改憲派も護憲派も一気に臨戦態勢に入りました」

 「改憲は安倍首相のかねての悲願ですが、実現性を考慮して動き出す時期を見はからっていました。16年7月の参院選で改憲勢力が議席を増やし、衆参の双方で国民投票の発議に必要な3分の2の多数を確保できました。さらに自身の求心力を高めるため、17年3月の自民党大会で総裁3選を可能にする党則改正をしました。それを踏まえて5月に表明したのです。満を持しての改憲発言だったとみてよいでしょう」

――この先の流れはどうなっていくのでしょうか。

 「ふつうの法案と異なり、国民投票の発議は国会の会期をまたいで審議できません。発議から国民投票までは与野党の非公式の合意で半年の間を置くことになっています。他方、18年12月には衆院議員の任期が満了します。ここで改憲勢力が3分の2を割れば、発議はできなくなる。この方程式に合うスケジュールは図に示した2パターンしかありません」

 「ただ、パターン2の場合、発議後の衆院選で3分の2を失うと『発議は民意ではない』と批判される可能性があります。つまり、パターン1こそが安倍首相にとって理想のカレンダーです。自民党執行部に指示した(1)8月中に自民案とりまとめ(2)与党協議を経て、秋の臨時国会への改憲案の提示――という段取りは、18年1月召集の通常国会で審議に入り、発議に至ることを想定した日程でしょう」

 「この日程なら国民投票と衆院選の同時実施も可能です。18年の通常国会の会期末は6月ごろですから、そこで発議すれば国民投票は年末になります。衆院選と同日にすれば自民党に投票した有権者がその流れで改憲に賛成票を投じる。自民党はそう読んでいます」

――どんな改憲案になりそうですか。

自民党憲法改正推進本部で議論が進んでいる

 「安倍首相が提起した2つの課題のうち、自衛隊の存在の明記をどう表現するかが焦点です。自民党が12年にまとめた改憲草案は9条2項にある『戦力不保持』は削除し、自衛隊を軍にすると書いてありました。首相は今回、9条は変更しないと述べました。自衛隊が軍になるのかどうかが焦点になるでしょう」

 「軍人は戦闘中に敵の軍人を殺害しても国際法上、殺人罪には問われません。しかし自衛隊は軍でないので、海外での国連平和維持活動(PKO)に従事しているときに戦闘に巻き込まれた場合、武器を使用して応戦するかどうかは、正当防衛に該当するのかどうかを各隊員が判断しなくてはなりません。そのため、自衛隊には軍への昇格待望論があります」

――東京都議選で自民党が惨敗したことで、どんな影響が出そうですか。

 「安倍政権への有権者の批判には『政治手法が強引だ』という面がかなりあります。自民党内にもしばらく様子を見た方がよいという意見も出始めています」

 「とはいえ、改憲を断念したら、今度は安倍首相の支持基盤である保守勢力に見放され、かえって政権が弱体化するかもしれません。自民党では『小池百合子都知事は改憲論者なので都議選の結果は護憲論の高まりを意味しない』との見方が多数です。首相も秋の臨時国会に改憲案を出す方針に変わりはないことを強調しています。あとは今後の内閣支持率の動向次第です」

ちょっとウンチク

「改憲より経済」の声大きく

 NHKが今年実施した世論調査によると、自衛隊は「憲法で認められたもの」とする回答が62.0%を占め、「憲法で認められないもの」(11.2%)を大きく上回った。自衛隊合憲論は国民に定着したといってよい。

 でも、改憲待望論には結びついていない。同じ調査で「優先的に取り組んでもらいたいこと」を聞いたところ、(1)社会保障や福祉政策(61.5%)(2)景気・雇用対策(55.3%)――の順で、「憲法改正」は6.1%しかなかった。

 「改憲にかまけている暇があったら、まずは経済を何とかしてくれ」ということだろう。いろいろな課題を同時にこなせる政権はめったにない。安倍政権は政策の優先順位を間違えないでもらいたい。
(編集委員 大石格)[日本経済新聞夕刊2017年7月24日付、日経電子版から転載]

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