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[ career-働き方 ]

「就職うつ」にご用心
SNS社会はいい子ほど危うい
精神科医の和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授に聞く

「就職うつ」にご用心SNS社会はいい子ほど危うい精神科医の和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授に聞く

 就職情報サイトのディスコ(東京・文京)によると、7月1日時点の2018年春に卒業予定の大学生・大学院生の内定率(速報値)は、83.2%と早くも8割台を突破した。「就職氷河期」には内定がとれず、うつ病に陥った学生もいたが、売り手市場のなか、明るい表情の学生も少なくない。ただ、就職後にうつになる若手の社員も増えているという。なぜ「就職うつ」になるのか。

土日のSNS 悩む声も多く

 「6月1日に第1志望の銀行の内定をいただきましたが、不安なんです。1つ上の先輩は入社してすぐにうつになって。それでもう辞めるというものですから。明るい先輩だったのに、自分は大丈夫だろうかと」。早稲田大学4年生の男子学生はこう明かす。東洋大学の4年生の女子学生も「友人の話ですが、就職後にうつと診断されて、治療を受けています」という。

 売り手市場のなか、「就活うつ」という言葉をあまり聞かなくなったと思ったら、入社後にうつになる新入社員が増えているという話題が大学のキャンパス内から漏れてくるようになった。

 東京大学法科大学院に在籍する大島育宙さん(24)は「土日のSNS(交流サイト)に可視化されていますね。多くの友人が社会人となっていますが、精神的に病んでいるな、というコメントを最近よく見ます。官僚やメディアにいった同級生は多忙でも覚悟もあるのか大丈夫そうですが、民間企業になんなとく入社した人は、予想以上にストレスが多くて、悩んでいる人もいます」と話す。

 4月に学生から社会人になるというのは、環境面での変化が大きく、「五月病」という言葉があるように一時的に精神面で落ち込む人は以前から少なくなかった。だが、徐々に職場環境になれると、ストレスが緩和される。しかし、ある大手企業の産業医は「新入社員のうつは年々増えている」という。

精神科医の和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授

 精神科医の和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授は、「さきほど、ある新入社員のうつのカウンセリングの依頼を受けたところですが、今の若い人のうつには3つの要因があると思います」という。和田氏は、灘高校を経て東大理科3類に入学して医師になったが、受験アドバイザーとしても知られ、若年層の行動パターンにも詳しい。

推薦入試、いい子でいないと

 1つ目はストレス耐性の問題だ。「現在の20代は激しい競争にさらされて育っていない。小学校の運動会で徒競走の順位をつけなくなったとか、中学高校では成績の順番を公表しないようにしているとか。子供をきずつけないという教育の結果、以前よりストレスに弱くなっている、それがまず前提にあります」と和田氏は話す。

 次に「いい子ちゃん症候群」がまん延しているのではないかと和田氏は指摘する。常に社会からいい子で見られたいと思う若者が増えているというのだ。その傾向を促した一因は新たな入試の形態にある。「かつてはすべての入試がペーパーテストの一発勝負だった。高1や高2の頃は授業をさぼって、遊んでいても入試で結果を出せばいいという生徒もたくさんいた。しかし、推薦入試とか、AO入試が増えてきた。そうなると高校3年間ずっと優等生でいないといけなくなる。相手にどう思われるか、『いい子』に見られないという心理が働きがちになります」という。

 SNS社会も「いい子ちゃん症候群」を助長しているという。LINEやフェイスブックなどが普及し、「つながっている友達はたくさんいる。だが、本音で話せる真の友人は何人いるのでしょうか。本当の友人というのは、自分の汚いところを見せられる相手です。本音で話せる、つきあえる相手がいれば、うつになる可能性はすごく下がります」と和田氏は話す。

 最後に「日本人は結果以上にプロセスを重視するまじめな人が多い。これもうつになる要因の一つといえるでしょう。例えば一流高校から東大を卒業して官僚を経て政治家になるとか。エリート街道をひた走ることにばかりこだわる人が少なくない。そんな人はそのプロセスのどこかで挫折するともう修正がきかない。はみ出すことが怖いという人が多いですね」と語る。

若者はカウセリング療法で

 うつの治療法にはどんな処方があるのだろうか。和田氏は「若い人は『新型うつ』と呼ばれるうつが多く、薬療法は副作用のリスクがかえって高まります。カウンセリング療法が主体です」という。

 新型うつというのは、職場では精神的に落ち込むが、仕事を離れると明るくなるという傾向があり、会社の上司から「本当にうつなのか」と思われがちだ。だが、悪化すれば、自殺することもあり、要注意な心の病だ。抗うつ剤を投与すると、異常にハイになったり、精神的に混乱するケースもあり、和田氏はリスクがあると指摘する。

 和田氏は「うつになる若い人は、まじめな優等生が多い。ただ、生きていることを楽しいと思っている人は意外と少ないかもしれない。相手と本音で向き合って、コミュニケーションして、失敗してもいい、やり方を少し変えればいいじゃないなどとアドバイスするケースが多い」という。

今年は就職活動は比較的楽といわれたが

 今、日本は政府や企業が働き方改革に本腰を入れ、長時間労働の是正に取り組んでいる。パワーハラスメントに対する目も厳しい。一方で「ちょっと注意しただけで、精神的に病んで、辞めたいという若い社員もいる。部下の管理に窮している」、「LINEで突然辞めますといわれて困っている」と嘆く管理職も少なくない。

 確かに今の若年層はストレスに弱い人が比較的多い。しかも受験などの教育のあり方が変わり、SNSが台頭するなか、世代間のギャップはより大きくなっている。

 「いい子」として育ってきた若年層ほど危ういといわれる「就職うつ」。40代~50代の世代が自分たちの物さしや経験で現在の20代を見たり、判断すると、誤った対処をする懸念もある。
(代慶達也)[日経電子版2017年7月12日付]

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