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卓球復権 スクール満杯
部活ではサッカーを猛追

卓球復権 スクール満杯部活ではサッカーを猛追

 日本がかつてない卓球ブーム「ピンポノミクス」に沸いている。水谷隼さん、平野美宇さん、張本智和さんら日本人選手の活躍によるお茶の間の熱狂が消費の現場にも及んでいる。これまで隅っこにいたのが、街や部活動、スポーツ店、オフィスなどあらゆる場所で一等地に躍り出てきた。7月2日投開票の都議選では地域政党「都民ファーストの会」が注目されたが、消費では"卓球ファースト"に風が吹いている。

日本選手の活躍で脚光

「T4 TOKYO」は、卓球場付きのレストラン&バーと卓球グッズ専門店、教室が入る世界でも珍しいスポット(東京都渋谷区)

 6月8日、東京・渋谷の繁華街に卓球にまつわるモノやサービスが一堂に集まる「T4 TOKYO」がオープンした。330平方メートルに卓球場付きレストラン&バーとグッズ専門店、スクールが入る世界でも珍しいスポットだ。

 平日の午後8時に行くとレストランはほぼ満席で卓球場では20~30代の男女4人がラリーを楽しんでいた。「卓球は全くやったことがなかったけど、こんなに面白いとは思わなかった」と話すのは美容師の矢野力也さん(33)。手首をひねりあぶなっかしいながらもラリーが続くと、「もっと挑戦したくなる」。30代の女性は「テレビで日本人選手が活躍しているのを見て、やってみたくなって」訪れたという。

 バー&レストランと卓球場との間にしきりはなく、食事の合間に卓球を楽しむ。ピンポン球のかたちをしたパンケーキなどメニューまで卓球の色に染まる。オープン以来、既に4000人が訪れた。スクールは連日予約でいっぱいだ。

 運営するのはヘアケアメーカーのスヴェンソン(東京・港)。創業者が卓球の日本代表選手だったこともあり卓球事業に力を入れている。児玉義則社長は「どちらかといえば根暗なイメージだった卓球がこんなに注目されるようになるとは」と驚く。若者の街、渋谷で卓球のコミュニケーションの場を創出する。

 昨年のリオ五輪で活躍した水谷さんに続けとばかりに、平野さんや張本さん、伊藤美誠さんら10代のスーパースターの活躍が目白押しの卓球界。その勢いが消費の現場にも押し寄せている。

卓球教室で練習する小学生ら(東京都目黒区のタクティブ自由が丘店)

 卓球スクールのタクティブ(東京・港)には卓球を学びたい、子どもに学ばせたいという問い合わせが1.5倍に増えた。料金は90分で2000円など。直近の売り上げは年約1億円と、年3倍のペースで伸びている。

 自由が丘店(東京・目黒)に去年から通う富田凌生君(9)は「サッカーや野球、テニスをやったけど、卓球が一番かっこいいし好き」。「他のスポーツよりスケールは小さいかもしれないけど奥が深い。頭をフル回転させての相手との駆け引きが楽しい」(川瀬俊也君、12)という大人びた発言も飛び出した。

 同社は現在の7店舗を2021年3月末には20店舗まで広げる計画だ。

 スーパースポーツゼビオテラスモール湘南店(神奈川県藤沢市)では「肌感覚だが、卓球の売り上げは去年と比べて1.5倍以上」(伏見尚志店長)という。5月には店の片隅にあった卓球売り場を、テニスと同じ目立つ場所に移動させ、広さを2倍に広げた。

 1万円以上する選手モデルの高級ラケットも売れる。小学生の男児と訪れた40代の男性は1本5万円のラケットを手に、「選手の名前を覚えたり、毎日録画したプレーを研究したり、子供がこんなに打ち込んでいるのは初めて。買ってあげようかな」と話していた。

オフィスやキャンプ場でも

 卓球は意外なところにも広がっている。渋谷・ヒカリエ。メディア事業のmediba(東京・渋谷)で20代社員4人がテーブルに資料を広げ、新しく配信するアプリについて話し合っていた。「そろそろ休憩にしようよ」。倉田英行さん(26)がテーブル下から取り出したのは卓球のラケット。数分でオフィスが"卓球場"に変わった。

「ピンポンワークテーブル」は普段は普通のテーブルとして使える(東京都渋谷区のmediba)
「ピンポンワークテーブル」で卓球を楽しむmedibaの社員

 このテーブルはプラスの「ピンポンワークテーブル」(税別20万2778円)。2年前の発売だが、今年1~5月の販売台数は「卓球ブームと働き方改革で」前年同期比で2倍近く伸びている。

 medibaでは、今や社員同士や取引先とのコミュニケーションに欠かせない存在になっており、「普段あまり話さない人とでも、卓球をやると相手とうまく関係が築ける」と倉田さん。若手社員が社長とラリーをすることもある。

 キャンプ場でも活躍する。パール金属(新潟県三条市)のアウトドアブランド「キャプテンスタッグ」のポータブル卓球台(メーカー希望小売価格は3万円)は折り畳み式でネットを取り付けると卓球台に。「卓球ブームで引き合いが強まっている」(同社)。3月には球がより跳ねるように台の厚さを1.5倍にした新モデルを発売した。

 温泉旅館でも人気は健在だ。山形県天童市の「ほほえみの宿 滝の湯」は4月に、1月の全日本卓球2017で実際に使われた卓球台を入れ「プレミアムな温泉卓球」とアピールする。卓球だけの効果ではないかもしれないが、今年度上半期の栃木県全体の宿泊販売が前年同期比1%増だったのに対し、卓球ができる大型温泉宿では同50%増だった(日本旅行)とのデータもある。

 卓球があらゆるシーンに溶け込んでいるのは誰でもできて場所を選ばないからだが、それだけではなさそうだ。交流サイト(SNS)で不特定多数とつながり対面での会話が苦手と感じる人が多いなか、"言葉のラリー"を円滑にするお助け役になっている。

◇           ◇

来秋にはプロリーグ開幕

 日本卓球協会の加盟登録人数(同協会が主催する大会などに出場する資格がある人)は2016年度に33万3567人とこの10年間で4万人以上増えた。卓球市場は200億円弱(15年度、小売店の売上高、スヴェンソン調べ)で年3~5%のペースで伸びている。

 学校の部活動でも人気だ。日本中学校体育連盟の16年度の調査によると、卓球部が男子は部員数の多い運動部5位に、女子は4位。ある都内の私立中高一貫校では「10年前に5、6人だった母校の卓球部が100人とサッカー部員の3倍近くになっていた」(卒業生)。部活動の代名詞になる日も遠くなさそうだ。

 テレビ番組で水谷隼さんは、かつて「卓球は根暗」と発言したタレントのタモリさんが日本卓球協会に1000万円を寄付したことを明かしていたが、今や「根暗」なイメージはみじんもない。昨年のリオ五輪での日本代表選手の活躍が大きく変えた。相手の動きを読むゼロコンマ何秒の判断を迫られる世界に、人々はドラマを感じている。

 02年にも卓球ブームが起きた。福原愛さんが登場し「愛ちゃんフィーバー」が起こり、窪塚洋介さん主演の映画「ピンポン」が人気を博した。当時と違うのは「子どもの関心が高まったことと、試合を『見る』だけでなく『やる』大人が増えたこと」(タクティブの佐藤司社長)。

 来年秋には国内初の卓球プロリーグ「Tリーグ」が開幕する。世界のトッププレーヤーが参戦する見込みで、バスケットボールの「Bリーグ」のような盛り上がりをみせそうだ。米ニューヨークではDJクラブと卓球が融合した施設が話題となっているが、日本でもこれから新たな卓球消費が生まれるに違いない。
(千住貞保)[日経MJ2017年6月30日付に加筆、日経電子版から転載]

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