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塾も驚く「貴重」な名門校 
筑波大付属高生の素顔 
筑波大付属高校の大川一郎校長に聞く

塾も驚く「貴重」な名門校 筑波大付属高生の素顔 筑波大付属高校の大川一郎校長に聞く

 全国屈指の名門高、筑波大学付属高校(東京・文京)。120年以上の歴史があり、卒業生には文豪の永井荷風、元首相の鳩山一郎、旧三菱財閥の岩崎家の子弟など現代史に名を残す人材を次々輩出している。高等師範学校の流れをくみ、筑波大付属小学校、同中学校、そして同高校と続く。日本の小中高教育をリードしてきた名門校だ。文京区大塚にある筑付を訪ねた。

高3生、男女で大縄飛び

筑波大付属高校(東京・文京)

 「もっと跳んで」。6月下旬、筑付の校庭で、40人前後の生徒が一緒になって大縄飛びをしていた。男子と女子が大騒ぎしながら楽しそうに跳ねている。那須和子副校長に「何年生ですか」と問うと、「高3ですよ。(10月の)スポーツ大会の練習でしょうね」と笑いながら話す。半年後には、東京大学など難関大学を受験する生徒たちばかりだが、いずれも余裕の表情で、あまりにも朗らかな笑顔に驚いた。

 ホームルーム中の教室をのぞくと、これまた不思議な光景に出くわした。男女の机がくっついているのだ。那須副校長は「入学時は各人の机をある程度離していますが、いつのまにかに接近してましてね」とニヤッと笑う。同高の1学年の定員は240人、男女比はほぼ半々だ。男女共学の高校は多いが、隣同士で机をくっつけている教室は見たことがない。

筑波大付属高校では、男女の生徒が仲良く下校する光景も

 学年の3分の1近くが「スーパー内部」と生徒たちが呼ぶ同付属小学校からの入学組だ。「12年も同じ学校という男女もいますから、仲がいい。幼なじみみたいな関係です」(那須副校長)。高校生ぐらいになると、男女の間には自然と距離ができるものだが、どのグループにも男子生徒と女子生徒が交じり、和気あいあい、自然に会話が弾んでいるようにみえる。

 制服はなく私服。ラフな格好で、長髪の生徒もいる。放課後だからか、文化祭の準備をしたり、3~4人でバスケットをしたり、自由な雰囲気に満ちている。他の有名進学校とは違う独特の空気感が漂う。

東大首席の女性法律家、彼氏もいた高校時代

 同校出身で東大法学部を首席で卒業、財務省、弁護士を経て東大大学院で家族法を専攻する山口真由さんは、「付属高はやはり育ちのいい子が多かったですね」という。

 山口さんは札幌生まれで高校からの入学組とあって、最初は違和感があったようだが、サッカー部のマネジャーをやりながら、雰囲気に徐々に溶け込んだ。高3の春には1つ上の先輩の彼氏もいた。「私の場合、相手はもう大学生になっていたので、夏には大学受験に追われてもう無理という感じになりましたが、つきあっている男女は結構いました」と打ち明ける。

筑波大学付属高校の大川一郎校長

 筑波大学教授を兼任する大川一郎校長は、「確かに自由でノビノビしている。先日、塾関係者に学校説明会をしたときに、塾の人から『この学校はいまどき貴重ですね』と驚いたようにいわれたけど......」と苦笑いする。

 今、全国の有名進学校の受験熱は一段と高まっている。都立日比谷高校など大都市圏の公立高が復活、開成高校など私立の中高一貫校と東大や国公立大学医学部医学科の合格を激しく競っているが、「うちは大学受験のためだけの教育はしませんね。昔からそうですよ」と那須副校長はいう。

マルチな才能育つ

 那須副校長もスーパー内部だ。筑付を出て音大でピアノを専攻。その後、都立の特別支援を経て、この付属高校で32年間にわたって音楽教師を務めている。筑付の生き字引だ。1つ下の後輩には旧大蔵省初の女性主計官になった参議院議員の片山さつき氏、1つ上の先輩には東大元副学長の野城智也教授、さらに先輩には女優の檀ふみさんがいた。「勉強だけでなく、スポーツも芸術もとか、今も昔もマルチな才能を持った生徒が多い」という。

筑付の那須和子副校長

 確かに文武両道のスーパー高校生がたくさんいる。2015年のインターハイに女子走り幅跳びで出場した内山咲良さんは東大理科3類に現役合格した。「内山さんは、部活動も委員会活動も、国際交流も、何にでも熱心な生徒でした」(那須副校長)

 お笑い芸人をしながら、東大法科大学院に通う大島育宙さんも卒業生だ。ボート部にも属し、ライバルの開成高校とレースで戦った。「僕はスーパー内部で中学時代にお笑いに目覚めたけど、ほかにも同級生が2人、先輩1人がお笑い芸人をやっています。今思うと多様性の学校ですね。全然勉強せず、授業中ズッと寝ている人もいれば、すごい秀才もいる」という。

 芸能・スポーツ分野にも卒業生を次々輩出する。狂言師の野村萬斎さんは、東京芸術大学に進学した後、幅広い芸能分野で活躍中だ。東大史上2人目のJリーガー、添田隆司さんや同じく東大からプロ野球に進んだ遠藤良平さんも筑付の出身だ。そもそも東大からサッカーや野球のプロ選手になったのは数人程度しかいない。「大学までは親など大人の要望にも添うけど、キャリアは自分の信じた道を進みたいと、本当に実行してしまうOBが少なくない」(那須副校長)。

付属小学校は超人気校

 自由で多様性にあふれる筑付高生。しかし、それまでの関門を突破するのは難しい。筑波大付属小学校は、慶応義塾幼稚舎とともに日本一人気の高い小学校とされ、受験倍率は30倍ともいわれる。小学校は、実験校とも呼ばれ、新たな教育の試みを次々実施する。自主的にドンドン発言することを求められる。ただ、付属中学に内部進学できるのは4分の3程度だ。

筑波大付属中学の校舎、高校と同じ敷地にある

 付属中学には制服もあり、規律もある程度厳しい。ここでは自律を教えられる。「付属高校に進めば、"自由"が待っている」と勉学に励むが、内部進学できるのはやはり4分の3程度だ。「小中高一貫教育だと思われていますが、実際はそれぞれ別の学校」(大川校長)という。

 ただ、育成方針はつながっている。筑付のモットーは自主・自律・自由。小学校で自主、中学で自律をそれぞれ学ぶ。自己を確立して自由を手に入れるという仕組みだ。

 高校の授業は昔から今はやりの「アクティブ・ラーニング」(能動的な学習)が主体だ。各教員は個性的で、「源氏物語」を詳しく語る教師もいれば、大学の基礎研究並みの「物理学」などを論理的に教える教師もいて、多士済々だ。自分で考え、発言し、議論する授業が中心で、基礎・基本をみっちり教える。受験対策を中心に据えた授業をする教師はいない。

東大合格、かつては筑駒以上の実績も

 17年の進学実績は東大39人、京大10人。医学部には24人、早稲田大学と慶応義塾大学にも計186人が合格している。1970年代は年に100人を超す東大合格者を輩出、80年代まではベストテンの常連だった。兄弟校ともいえる筑波大学付属駒場高校を上回る進学実績を上げたこともある。黄金期と比べると、進学実績で物足りなさはある。

 大川校長は「少し危機感はありますね。いま、すごく立派なOBが各分野で活躍していますが、10年後、20年後はどうなんだろうと。ただ、最近は国もアクティブ・ラーニングを重視していますが、本校は設立以来ずっと、この授業のやり方が中心です。(20年に大学入試改革がありますが)これから再び追い風が吹くのではないでしょうか。それに我々は大学進学のみならず、その先のキャリアを考えた人材の教育をやっています」と話す。日本の政界、経済界、文化界などにきら星のごとき卒業生を送り込んできた日本屈指の名門校。自由の空気あふれる校舎から、さらに多様な人材を送り出そうとしている。
(代慶達也)[日経電子版2017年7月14日付]

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