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日本経済新聞「未来面」
学生からLIXILグループ社長への提案
「下水道使わない水洗トイレを」

日本経済新聞「未来面」 学生からLIXILグループ社長への提案 「下水道使わない水洗トイレを」

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回はLIXILグループ社長・瀬戸欣哉さんからの「世界の住環境を変えるために何が必要ですか」という課題について、学生の皆さんから多数のご投稿をいただきました。

 ここで紹介したのはほんの一部です。掲載できなかったアイデアを日経電子版の未来面サイトで紹介しています。

【課題編】「世界の住環境を変えるために何が必要ですか」

瀬戸欣哉・LIXILグループ社長

 日本では何不自由ないことが、一歩海外に出ると、とても大変な問題になっていることが多々あります。私たち、LIXILグループの事業領域ではトイレがその一つです。

瀬戸欣哉・LIXILグループ社長

 トイレがなかったり、トイレの衛生状態が悪くて疫病を蔓延(まんえん)させたりすることがあります。安全で衛生的なトイレを利用できない世界の人びとは全人口の3分の1にあたる24億人にもおよび、日常的に屋外で用を足しているのは9億5000万人です。下痢性疾患で命を落とす5歳未満の子供は1日に800人もいて、深刻な問題なのです。衛生的なトイレの不備による経済的な損失は約22兆円(2015年、図参照)にもなります。トイレがないばかりに学校に行くのをやめてしまう女性もいます。

 水洗トイレを設置すれば解決すると思われるかもしれませんが、下水道の整備には莫大な資金が必要です。LIXILグループは水回り分野のグローバルリーダーとして、世界のすべての人々に安全で衛生的なトイレを普及させることが喫緊の課題だと考えます。

 主な取り組みとして2013年から感染症や悪臭を防ぐ簡易式トイレ「SATO(Safe Toilet)」を開発し、現在バングラデシュやインド、ケニアなど10カ国以上で120万台が使われています。SATOはその地域のニーズや生活様式に適応するように設計され、現地のパートナー企業と製造、施工、保守などを担うことで持続可能なビジネスモデルとして定着しています。

 さて、日本にいては想像もつかない現実を知った上で、皆さんには「世界の住環境を変えるために何が必要ですか」を考えていただきたいのです。これは何も、私たちの生活水準を落としたり、全世界の生活水準を現在の技術のみで先進国並みに引き上げたりすることでもありません。それは時代、地域、価値観、経済力などの環境によって千差万別なはずです。今まで以上に素晴らしい住環境をつくることは可能だと確信しています。

 また、今よりももっと暮らしやすい家(窓、ドア、キッチンなど)にしたいと思っている読者は多いはずです。人工知能(AI)、太陽光などの自然エネルギーなどの活躍の余地は大きいでしょう。環境に負荷がかからない取り組みは重要かもしれませんね。新しい技術が改良されて新興国に普及することも考えられます。「素晴らしい住環境や家」をイメージしてもらうことで、「自分たちもそうなりたい」とモチベーションを高めることにもなるはずです。

 皆さんのアイデアを集めることで、より早く「より良き社会」が実現するはずです。
(日本経済新聞2017年9月4日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 下水道使わない水洗トイレ
尾宮 啓太(海陽学園海陽中等教育学校1年、13歳)

 世界では日本の住環境は素晴らしいと考えられている。特に日本のトイレは非常に清潔で、海外の旅行客からも評判がよいと聞く。しかし、それは日本の下水道設備が整っているからであり、発展途上国が簡単にまねできるものではない。そこで、下水道がなくても完結する水洗トイレを日本で作り、海外に輸出するというアイデアを提案したい。水洗トイレの中に、水を再利用できる超小型の下水処理装置を搭載するのだ。世界中のどのような水にも対応できるようにすれば、水不足に困る国でも設置することができるだろう。災害時などで使われる「ボットントイレ」は大型タンクが必要で、回収業者に来てもらわなければならない。水を再利用できるトイレがあれば、世界中の住環境が豊かになるのではないか。

アイデア002 組み替え自在、ブロックの家
日沖 健(慶応義塾大学大学院修士2年、35)

 幼い頃、ブロック玩具でよく家を作って遊んだ。家を構成する外壁や屋根、窓、ドア、植え込み等が何種類も用意され、自由に組み合わせて好きな家を作ったものだ。加えて、一度完成しても、好きなように組み替えることができ、豪邸にも、こぢんまりとしたかわいい家にもすることができた。これが実現できないだろうか。もし実現すれば、収入や住む場所、家族構成や必要な設備(介護等)に応じて適切な家に住むことができるし、場合によっては住み慣れた住まいをそのまま別の土地に移動させることも可能となる。不要となった部材は可能な限り融通し合うことで、その部分の生産に必要な資源やエネルギーが節約でき、地球環境への負荷の軽減にもつながるだろう。組み上がった後の強度が現時点では最も大きい課題だと思われるが、新素材や新工法の開発により解決できるのではないかと考える。

アイデア003 生ごみ発電の新常識を
宮崎 正太郎(早稲田大学政経学部3年、21歳)

 日本では「食べられるのに廃棄された食品」が年間約600万トン発生する。半分の約300万トンは家庭から排出されている。主な要因は「食べ残し」「可食部分の過剰な除去」「賞味期限切れ」だ。これらは生ゴミとして、今後も処分され続けるだろう。この住環境を変えるアイデアとして、家庭の生ゴミを活用したバイオマス発電で日常の電力を賄うエコ住区域やエコマンションの開発、というのはどうだろう。身近な住環境を変えることによって、持続可能な社会の実現を目指し、より良き社会の新たな常識を後世に残す。アイデア実現の課題としては、既存の住環境の中へ発電施設を導入する困難性や、メタンガスの管理や悪臭対策、電力会社との連携などがある。家の隣でバイオマス発電ができる住環境、というのは夢物語だろうか。「臭い物に蓋をする」という比喩表現が使われなくなるような、生ゴミに対する新たな常識を後世に残したい。

アイデア004 トイレを広げて住空間に
倉島 研(教職員、41歳)

 私たちは普段、トイレに入ると落ち着くという体験をすることがある。例えば高校生が学校のトイレでたむろするのにも理由があろう。大人でもトイレの個室で新聞を読んだり長居をしたりすることはないだろうか。それはトイレ空間がプライバシーを保つ機能を持ち、私たちを日常の雑多なことから解放する心理的機能を備えていることによるのではないか。言い換えれば「非日常空間」、極論すれば「瞑想(めいそう)空間」である。このような空間のメリットを、防音性を高め、空間を広げることで高めることができたら面白い。住居の中にトイレという一つの住空間を作り、諸行為の場所以上の価値を与えるのである。住宅の間取りでは「3LDK」といった表記はなじみがあるが、T=トイレをLDKと並列する価値あるものとして「3LDKT」と表記するような住居が欲しいのである。

【講評】瀬戸欣哉・LIXILグループ社長

 地球上の様々な生活環境、文化・風習があるなかで、投稿者の皆さんが「世界の住環境を変える」という難解な問いかけに真剣に向き合ってくださったことにお礼申し上げます。投稿いただいたすべてのアイデアに目を通しました。約8割が現在、LIXILグループが未来の暮らしを見すえ研究開発に取り組んでいるほか、着手を検討しなくてはならないと思っていた内容でした。「世界の住環境を変える」という私たちの志の方向性が間違っていなかったということでもあり、とても勇気づけられました。

 提案いただいた「下水道を使わない水洗トイレ」が開発途上国で実現できたら本当に素晴らしいことです。こうした地域で下水道を整備することは難しいので、その現状を把握したうえで小型の下水処理装置を搭載するというアイデアを13歳の学生さんが投稿してくれたことに脱帽します。

 一方、私たちが暮らす日本など先進国ではさらなる快適さがトイレに求められているようです。「トイレを広げて住空間に」でご提案いただいたように、トイレに必要なのは機能性だけではありません。より座り心地がよく、自分だけの空間で快適に過ごすことのできる商品をお目にかける日は近いことでしょう。

 「組み替え自在、ブロックの家」というアイデアは、住宅のリフォームの分野ではとても重要なことです。住宅を構成する部材は、それぞれ耐久性などが異なります。後から交換したい部材だけを取り換えられるように、どのように組み合わせ、安全で快適な住環境をつくるか。そこを意識した住宅や設備の設計がこれから重要になってきます。

 もちろん住環境の改善はLIXILだけではできません。オープンイノベーションも活用しながら、進化させていきます。
(日本経済新聞2017年9月25日付)

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