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[ career-働き方 ]

ワークスアプリ牧野CEOが語る自分に都合のいい環境
新卒ならベンチャー選べ

ワークスアプリ牧野CEOが語る 自分に都合のいい環境新卒ならベンチャー選べ

 米調査会社が2017年2月に発表した日本の「働きがいのある会社」で1位になり、特に20代の社員が成長できる会社と評価されるワークスアプリケーションズ。牧野正幸最高経営責任者(CEO)は、「最初のキャリアは、ベンチャー企業にするのがベストだ」という。それはなぜか。20代の頃、米シリコンバレーで働いた経験から成長を目指す若い世代に向けた「牧野流」の会社選びを聞いた。

「自分が成長できる」会社を選ぶ

ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO

 私が今、新卒で会社に入るとしたら、どんな会社を選ぶか。それは自分の成長に都合のいい条件がそろっている会社です。周りが優秀で、仕事内容も難しい場所で働きたいと思います。

 例をあげます。日本の自動車メーカーは、世界でも一流の大企業です。一方、「安全性も販売網も今は確立していないけれど、将来は1台10万円の電気自動車を生産する」という小さなベンチャー企業があったとします。給与が同じだったら、どちらに行きますか?

 私はベンチャーを選びます。一流企業は、一流であることを維持するために働かなくてはならないし、会社の伸び以上に自分が成長するのは難しいからです。一方、ベンチャー企業では、まだだれも解決していない難しい問題を任せてもらえるので、自分が成長するのに都合がいいのです。

キャリアの「成長期」に何をするか

 人間のキャリアにはステージがあります。特に20代の「成長期」をどう過ごすかが重要だと思います。この時期に一流企業で働いても、正直あまりいいことはないと思います。その会社の製品やサービス、ブランドが立派でも、入社したばかりの人の力で貢献できることは少ないです。末端の業務をこなせたとしても、会社にとって大きな利益を生み出すことはできません。それなら、自分の成長に都合がいい会社を選ぶべきだと思います。

 成果も出しながら自分も成長できるのが、30~40代の「成熟期」です。この時期も、私はまだ自分の成長を取るべきだと思います。この時点でもまだ、個人として出せる成果は大きくないからです。成長期、成熟期を経て能力を磨いた後なら、社風や事業内容などで会社を選んでもいいでしょう。

 難しい課題を解決する力を身につけた後で、イノベーションを求める一流企業に移るのは非常にやりがいのある、面白い働き方だと思います。一方、一流企業に入った新入社員が年功序列を経て同じ立場にたどりつこうとしても難しいのではないでしょうか。若いときに大きく成長できていないんですから。

牧野氏は「シリコンバレーの優秀な若者は一流企業を選ばない」と話す

 海外でよくあるパターンは「30代までは小さいベンチャーで働く」→「その会社が一流企業と提携したり、買収されたりする」→「それをきっかけに一流企業に移る」ことです。

 夢物語のように聞こえるかもしれませんが、シリコンバレーの小さなベンチャーで働いていたら、会社が米ゼネラル・エレクトリック(GE)に買収され、GEの社員になった、なんてことも実際にあります。日本では、こんなケースはまだ少ないでしょうけれど。

原点は、シリコンバレーでの経験

 私がこう考えるようになったのは、30年ほど前、まだ20代のときに米シリコンバレーの様子を目の当たりにしたからです。学校を出て大手建設会社に入社し、1年もたたずにソフトウエア関連のベンチャー企業に転職しました。その後すぐに契約社員として日本IBMに出向しました。そのときIBMが買収したシリコンバレーの会社に派遣されたのです。

 派遣された会社は優れた製品は出していたものの、社員50人ほどの小さな会社でした。私は、なぜIBMが自分で開発せず、そんな小さな会社に研究を委託するのか疑問に思いました。当時のIBMはミネソタ州ロチェスターに巨大な研究所を持つ世界最大のコンピューター会社でした。米マイクロソフトの基本ソフト(OS)、ウィンドウズも生まれていない時代のことです。

 働いてみて、理由はすぐわかりました。やらないのではなく、できなかったのです。当時、優秀な若手エンジニアは、一流企業を最初の就職先としては選ばないようになっていました。そのクオリティーやブランドを傷つけないよう働くしかないからです。

 今でも、シリコンバレーの優秀な若者で、アップルやグーグルでキャリアをスタートしようと思う人は少ないと思います。それと同じですよね。

 私がワークスアプリケーションズを起業した大きな理由の一つは、優秀な若い人たちが成長できる会社を日本につくりたいということでした。それには難度の高い仕事が必要です。当時、日本には汎用性の高い統合基幹業務システム(ERP)はありませんでした。日本独特の商習慣に対応する製品を開発するのは非常に難度が高いけれど、若い人が成長するには、ちょうどいいと思ったのです。

「天職」探しは無駄

 「自分に向いている仕事、天職は何か」と探す人がいます。無駄なことです。やってみなければわからないからです。私自身、自分が最も実力を発揮できる分野を知るのに20年以上かかりました。今振り返ると、何もないところからモノをつくり、世の中に広めることが得意でした。だからエンジニアに向いていたと思います。でもこれは、ほかにも様々な仕事を経験してやっとわかったのです。

 多くの自分の欠点も知りました。例えば学生時代には、たくさんの方程式を覚えられませんでした。そこで基本の型だけは覚え、ほかの方程式は試験中に考え出そうとしたので、いつも時間が足りず苦しみました。喫茶店のウエーターのような接客業でも、メニューを覚えられず、客の注文も記憶できないからお手上げです。

 若くて経験が浅いときは「向き不向き」も「自分の天職」もわからない。だから、自分の成長に都合のいい会社を選ぶのが一番いいのです。具体的には、難しい仕事がある、やる気のある優秀な人が働いている、カチッと固めた組織やルールで動く会社でない......つまりベンチャー企業がベストだと思います。
(松本千恵)[日経電子版2017年7月15日付]

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