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藤井四段の生中継
SNSで拡散しアベマTV活況

徳力基彦 authored by 徳力基彦アジャイルメディア・ネットワーク取締役
藤井四段の生中継SNSで拡散しアベマTV活況

 藤井聡太四段の歴代最多記録を更新する29連勝がおおいに話題になった。記録自体は7月2日に佐々木勇気五段による意地の勝利でストップしたが、この過程で生まれたもう1つの記録がある。この歴史的な対局をネットで生中継したAbema(アベマ)TVの視聴数だ。

 アベマTVが中継したチャンネルでの生中継は、29連勝を記録した対局の視聴数が793万回、連勝がストップした対局の視聴数は1242万回を突破。アベマTVの「将棋チャンネル」開設以来歴代1位、アベマTV全体での歴代視聴数でも2位だった。

 これらの数値はあくまで、番組への延べのアクセス数のようなので、793万人や1242万人が同時に視聴したわけではない点には注意が必要だ。ただ少なくとも数十万人以上がアベマTVで同時に見守っていた可能性が高いといえる。

藤井四段が先輩棋士に挑んだ「炎の七番勝負」は注目を集めた

 アベマTVの歴代視聴数記録のトップは5月7日に放送された「亀田興毅に勝ったら1000万円」という企画。この時は放送最中にアベマTVのサーバーがダウンしたことも話題を呼び、1420万回という記録を打ち立てた。

 亀田企画の際には、ユーチューブでも並行して生中継が実施され、ピーク時には70万人を超えるユーザーが同時に番組を視聴していたそうだ。同時に70万人というとテレビの地上波の視聴率で言えば1%前後の数値。それほど大きい数値に感じない人も多いかもしれないが、こうした記録がネット中継でも出てくるようになったというのは、とても大きな変化だろう。

 特に注目されるのは、コンテンツ側の生中継の選択肢が広がってきている点だ。

 インターネット以前の「生中継」といえば、テレビが主役。その対象になるのは野球やサッカー、そしてオリンピックの主要競技などで、いわゆる「マス」の視聴者が見込めるコンテンツが中心だった。

 それが現在では、アベマTVのようなネットテレビに加え、ユーチューブにニコニコ生放送やLINE LIVEなどのライブ配信サービスも増えたほか、最近ではフェイスブックやツイッターでもライブ中継ができる。もはや「マス」のコンテンツでなければ生中継など夢のまた夢、という時代ではない。誰でも自分のコンテンツの規模に応じて様々な生中継の手段を選択できる時代なのだ。

 テレビの生中継に対するネット生中継の1つの利点は、視聴者をソーシャルメディアから簡単に誘導できる点だろう。

 ほとんどのネット生中継のサービスは、スマートフォン(スマホ)やPCでネット中継を見ている最中に、そのまま番組自体にリンクを張った状態でSNSに投稿できる。投稿を見た友人は、SNSに投稿された番組のリンクをクリックするだけで、スマホでその番組をすぐに視聴できる。

 もちろんテレビ番組を見ながら感想をSNSに投稿する視聴者も多いが、テレビの場合は番組に直接リンクを張ることは現時点では難しい。友人の投稿を見てからテレビをつけて、その番組が放映されているチャンネルを探すという行為が間に入るため、投稿から番組に誘導されるまでのハードルが高い。

 アベマTVの記録も、SNSで藤井四段の対局の話題が盛り上がっているのをみて生中継に誘導された人が、また自分の感想をSNSに投稿するというサイクルが回ることで、次々に視聴者が生中継に誘導されていった結果から生まれたと想像されるのだ。

 そういう意味で、スマホやソーシャルメディアの普及が進むほど、ネット中継の存在感が増していくのは間違いない。藤井四段の29連勝という記録が他の棋士に抜かれることは当分ないかもしれないが、ネットテレビの視聴数の記録は次々に塗り替えられていくことになるだろう。

[日経MJ2017年7月7日付、日経電子版から転載]

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