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トヨタも一目、文化祭の国立高
一橋大にも一番近い
都立国立高校の岸田裕二校長に聞く

トヨタも一目、文化祭の国立高一橋大にも一番近い都立国立高校の岸田裕二校長に聞く

 全国有数の名門公立高校、都立国立高校(東京都国立市)。日本一とも呼ばれる文化祭や「第九演奏会」など行事の盛んな高校でありながら、一橋大学の合格者は全国トップに立つなど進学実績も高めている。日比谷高校、西高校と並ぶ都立高ビッグスリーの一角を担う。1980年には野球部が甲子園出場を果たし、文武両道の都立高としても話題になった。東京・国立の文教地区にある国立高校を訪ねた。

トヨタグループからメール

都立国立高校(東京都国立市)

 「トヨタ自動車グループの方もうちの文化祭に興味があるといってくださいました。文化祭の資料をホームページで探し出したようで、メールをいただきました。組織のつくり方とかの参考になるみたいです」。国高の岸田裕二校長はこう話す。9月9~10日に開催予定の文化祭には1万人以上が来場するが、トヨタグループなどの企業からも注目を集めているという。

 この文化祭の最大の目玉は3年生のクラス演劇。1学年は定員320人で8クラス編成だが、原則全員が参加する。仕切るのはすべて生徒、国高は3年間のクラス持ち上がり制であるため団結力が強い。今年は8つの演目のうち2つがオリジナルの原作だ。ほかの6演目も東野圭吾氏の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」、石田衣良氏の「アキハバラ@DEEP」などを原作にして、自らの脚本・演出で演じる。各教室に独自の舞台もつくる。

文化祭のクラス演劇=国立高校提供

 演劇経験のある生徒は、ほとんどいない素人集団だ。このため先輩から引き継がれた分厚いノウハウ本がある。演劇のポイント、カネのかからない舞台の作り方、20年余りの知恵が詰まっている。文化祭は一つのプロジェクトのように進む。10以上の委員会をつくり、合同委員会を適宜開いて、文化祭に備える。「トヨタさんとか、企業が注目したのは、素人集団が短期間に組織を整え、プロジェクトを成功に導くからでないでしょうか」(岸田校長)という。

 国高生は4月に演目を決め、7~8月に「声出し」「台本の読み合わせ」など稽古を繰り返し、9月に披露する。本格的な練習は2カ月程度だが、受験生にとって勝負の夏休みの日中には塾や予備校に行く暇がない。

9月まで勉強は手に付かない

 「確かに9月上旬まで勉強は全然手に付かないのですが、もともと文化祭に一目ぼれして入学してくる子が多いですから、覚悟の上です。限られた時間と予算で何とかしようとか、企画の立て方は身につきますね。まあ、勉強時間がなくて結局、クラスの5割ぐらいは浪人しましたが」。国高から一橋大学を卒業して大手企業に務める女性社員(31)はこう話す。

国高の第九演奏会=国立高校提供

 演目の時間は80分。受験生の情熱が訴えるのか、演劇の評価が高まり、毎年ファンが増えて都外からも訪れる。券を求めて午前4時半に校門前に並ぶ人まで現れたので、インターネットでの抽選にしたほどだ。文化祭には保護者や演劇ファン以外にも原作者が来ることもあるという。

この結果、校内外で「日本一の文化祭」と呼ばれるようになった。4月にはベートーベンの交響曲第9番をプロの演奏のもとで、ドイツ語で合唱する第九演奏会も開く。東京・多摩地区で進学実績トップの国高だが、生徒の志望動機の1位は「文化祭」で、6割を占めるという。「行事の国高」といわれるゆえんだ。

卒業生、電通に多く

国高は授業の質が高い

 文化祭は副産物も生んでいる。岸田校長は「国高の卒業生は、大学に進んでも学園祭に積極的に携わり、結果的にOBは電通やメディア大手などクリエーティブ系の企業に就職する人が多い」と話す。

 部活も盛んだ。「1年生の部活加入率は120%。文化系は兼部する生徒もいますから」(岸田校長)。国高といえば、1980年に都立高校として初めて甲子園出場を果たしたことで知られる。都立進学校の快挙といわれ、当時投手だった市川武史氏は1浪して東大に合格。現在はキヤノンの半導体部門のリーダーとして活躍している。今はサッカー部や女子バスケット部が多摩地区の強豪チームとして知られ、今夏は陸上部の短距離の選手がインターハイに出場する。

夏休み、校長も多忙

 行事や部活もいいが、肝心の学習はどうなっているのか。岸田校長は「補習を徹底的にやっています。2016年は夏休みと冬休み中心に168講座をやりました。実は私も教壇に立っています」という。

 校長の夏休みは、ないようなものだ。7月20~22日は朝7時30分から約1000人の生徒を対象に数学を教える。なぜこんな多くの生徒が早朝につめかけるのか。「生徒の要望です。ゼロ時間目から補習を受け、その後、部活や文化祭の準備をするためです」という。

都立国立高校の岸田裕二校長

 その後、校長は40人余りの1~2年生を連れて、京都大学ツアーを催す。京大の山極壽一総長はゴリラ研究の第一人者として知られるが、国高出身。後輩のために懇談会を開くなど、高大連携を進めている。 

 有能なベテラン教師もそろえている。専任教員は約50人。「どうしても教え方のうまい先生はベテランということになる。平均年齢は52歳とちょっと高い。日比谷や西高から来てもらっている。若い人もほしいが、都立高は40代はもともと少ない。数学の教師チームの実力は、都立ナンバーワンじゃないですか」という。生物・国語を手始めにアクティブラーニング(能動的な学習)にも力を入れている。

隣の一橋大に進学トップ

 17年の進学実績は東京大学に17人だが、一橋大学は26人で全国トップ。国高から一橋大のキャンパスまでは徒歩5分、国高・一橋大OBは「やはり親近感がある。一橋大のキャンパス内で遊んだり、文化祭の練習でも構内に潜り込んで、先輩の指導を受けたりもするから、自然と一橋大が好きになるんだと思う」という。大半の国高生は、アカデミックな一橋大学のキャンパスの前を通って毎日通学する。

 岸田校長は「一橋大は文系でトップクラスの大学だが、数学が難しいので、東大理系志望から転じる生徒もいる。うちの生徒は国立大志向だし、文系と理系の科目とも強い生徒を育てているので、トップになったのでは」と話す。これまで国高は、隣にある桐朋高校と一橋大や東大の合格実績を競ってきたが、今や一歩リードし「一橋大に一番近い学校」になった。

国立高校から徒歩5分のところにある一橋大学のキャンパス

 国公立大学の合格者は総計で200人前後と日比谷高校と都立トップを競う。ただ、浪人の比率が5割弱と比較的高い。9月中旬から本格的に受験態勢に入るため、国公立大も後期課程の入試で滑り込むタイプが多い。さすがに行事と部活、勉強の「文武三道」を実現するのは難しい。

 ただ、「わずか半年(の猛勉強)で現役合格する生徒も少なくない。文化祭と部活で人間力も高まるし、多摩地区では保護者にも生徒にも圧倒的な人気高になっている」(進学塾関係者)と評価は高い。あと、一カ月に迫った文化祭。猛暑の中での勉強に部活に文化祭。今年も国高生にゆっくりした夏休みはなさそうだ。
(代慶達也)[日経電子版2017年8月6日付]

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