社会学部の就活 ~批判精神と専門性で損をする?
ホンネの就活ツッコミ論(27)
今回のテーマは「社会学部の就活」です。20回目で文学部就活、24回で理学部就活、25回で工学部就活をご紹介しました。今回はこの学部シリーズ4回目ということで社会学部についてです。私個人が社会学部社会学科出身であり、しかも、当コラムが社会学部関係者からよく読まれているようです。身内を褒めるような、けなすような、そんな複雑な心境です。
さて、社会学部は文系学部に分類されており、基本は他の文系学部と同じです。つまり、大半の文系学部と同じく、売り手市場の恩恵を受けています。社会学部の就活で特徴となるのは、批判精神の功罪、マスコミ志望者の多さ、専門学科の功罪の3点です。
社会学の批判精神による損得勘定
社会学部は社会学が中心となります。この社会学、よく言われるのが「何でもできる社会学」。対象は都市でも政治でも農村でも教育でも何でもあり。芸能・サブカルチャーも対象となりますし、歴史でもOK。
私は「公営競技が地域社会に与える影響についての一考察」でB評価をいただいて卒業しました。ま、要するに、競馬とか競輪などの公営ギャンブルについて。つまり、ギャンブル社会学ですね。当時のゼミ同期は確か1人が交通社会学、もう1人が環境問題をテーマとしていた気がします。
このように、何でもテーマとなるのが社会学の広さであり、長所です。ただ、逆にこういう言い方も社会学関係者の間でよく言われます。
「何にもできない社会学」
誤解を恐れずに言いますと、批判精神がとりわけ強いのが社会学です。ひたすらケチをつける、とでも言いましょうか。教員自体も批判精神の塊のような方が多く、当然ながら学生もその影響を受けます。それはそれでいいのですが、他学部の教員・学生からすれば、特に代案を示すわけでもなく、批判するだけの社会学部生に違和感を持ちます。
この批判精神が就活だと面接やグループディスカッションでも発揮されると、トラブルを巻き起こすことになります。グループディスカッションでは他学部の学生が、「では、まず2分程度、与えられたテーマについて個人個人で考えてみましょうか」と口火を切っても、「何で勝手に決めるの? まず、どれくらいの時間を個人思考に充てるか、意見を出し合うべきじゃない?」などと言い出したり。面接では、社会人相手にその企業や属する業界の批判演説をしたり。こういう困ったトラブルを引き起こす学生は、心なしか、社会学部生に多い気がします。
もちろん、プラスに働く場合もあります。最終面接で社長がいる前でその企業の問題点を指摘。 賛否両論分かれる中、「いや、社長・役員のいる前であれだけ批判がましいことを言えるのは大した度胸だ」と、内定を勝ち得た学生もいます。ただ、全般的には、批判精神を発揮することで損をする学生が多い印象を私は持っています。すべて封印しろ、とまでは言いませんが、相手のことも考える、話を前向きに進める、という配慮も必要でしょう。
マスコミ志望で批判精神・大が最悪
この批判精神、フルスロットルで展開してしまいがちなのが、メディア系社会学科の学生、それもマスコミ志望者です。もともと、メディア系社会学科には、マスコミ志望者が他学科よりも多く集まっています。大学もそれを見越してマスコミ出身者を教員として起用しています。このマスコミ出身教員が曲者です。
社会学が批判精神の塊なら、マスコミも批判精神の塊です。親和性が高いのですが、実はメディア系社会学科はそれほどマスコミ就職が順調というわけではありません。阻害する要因の一つがマスコミ出身教員です。マスコミ出身教員は、大なり小なり、マスコミの現状に批判的です。その自説を学生に展開することも少なくありません。
ただし、マスコミ出身教員は単に批判するだけではなく、新たなメディア像を構築しようとしています。ところが学生は批判論だけ受け取るだけ。それが就活でも発揮されると、採用する側からすれば、「批判は分かった。で、あなたはうちに入って何をしたい?評論家はいらないのだけど」と、言われておしまいです。
メディア系社会学科の学生の問題点は、マスコミ志望の割に新聞を読まないことです。いや、これは他学部・学科の学生にも共通して言えます。が、せめて、マスコミ志望であれば新聞を複数購読して読み比べるなど、勉強してほしいところ。そこまで頑張れる学生が他学部・学科と同じように少数派です。対して勉強をしていないくせに批判だけ強くてもマスコミ就活が成功するはずもありません。
社会福祉学科など専門性が高くても就職先は広い
社会学部はメディア系社会学科、社会福祉学科など専門性の高い学科と、社会学科、現代社会学科など専門性の薄い学科に分かれます。特に専門性の高い学科が社会福祉学科。福祉業界への就職者が多数を占めます。ただ、福祉業界以外の就職者も大学によっては3~4割を占めます。
これは国公立・難関私大を中心に金融業界やメーカー各社が採用するためです。理由は大学ブランド、福祉知識の2点です。前者は国公立・難関大のブランドで文系学部ならどこでもいい、というものです。近年の売り手市場ではこの大学ブランドのハードルが、日東駒専・産近甲龍クラスか、その下まで下がっているとも言えます。
後者の福祉知識とは、金融業界だと銀行でも生命保険会社でも、高齢者が大きなターゲットとなってきます。その際、福祉の知識を持った学生が必要なのです。これは金融業界以外のメーカー、あるいは商社でも同じです。
採用の受け皿が広いところに、社会福祉学科の学生は勉強をしながら「福祉業界はちょっと無理そう」と敬遠する学生も多数います。両者がマッチングし、福祉業界以外への就職も結果としては順調なのです。大学の専門と関連性のない業界を志望する場合でも、学生が悩むほど採用側は気にしません。専門分野以外の就職は大丈夫か、と心配する学生も多いのですが、心配するには及ばないでしょう。
専門性の薄い社会学科なども受け皿は広い
では、社会福祉学科などと違い、専門性の薄い社会学科、現代社会学科などはどうでしょうか。専門性が特にない、と心配する学生もいるようですが、じつはこちらも問題なし。他の文系学部と同様、大学で何か一つ大きなテーマを勉強した以上は、知識も論理的思考能力も身に付いているだろう、という前提での採用です。そのため、専門性があるかどうかは文系学部→総合職というキャリアルートではほぼ無関係なのです。
批判精神をほどほどにしておけば、教養の広さが評価されて就職が決まりやすいはず。同じ社会学部のOBとしても応援したいところ。社会学部の後輩の皆さん、頑張ってください。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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