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パリ協定、米離脱の影響は? 
中国が主導権狙う

パリ協定、米離脱の影響は? 中国が主導権狙う

 地球の温暖化を抑えるための国際的な取り決めである「パリ協定」から米国が離脱するそうね。どうして離脱するの。米国が協定から抜けることで、今後の温暖化対策にはどんな影響が出るのかな。

 「パリ協定」からの米国の離脱について、安藤淳編集委員に話を聞いた。

――そもそも「パリ協定」って何ですか。

 「国連の気候変動枠組み条約の下に設けられた、2020年以降の温暖化ガス排出削減の国際的な取り決めのことです。15年にパリで開催した第21回の条約の締約国会議(COP21)で採択され、16年11月に発効しました。先進国だけでなく新興国や途上国を含む200近い国・地域が入る全員参加型の協定です」

 「21世紀末までの地球の気温上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑え、さらに1.5度以下にできるよう努力を続けると明記してあります。人間活動による温暖化ガスの排出を、21世紀後半に実質ゼロにする目標を掲げます。参加国は自主的に削減目標を決めますが、5年ごとに見直し、より野心的な目標にします」

――米国はなぜ協定から離脱するのですか。

 「トランプ米大統領は化石燃料の利用に伴う温暖化ガスの排出で気温が上がるとの考えに懐疑的です。支持基盤の石炭や鉄鋼など温暖化ガスが大量発生する産業を守りたい意向もあり、17年6月に協定からの離脱を表明しました」

 「しかし、米国内でもIT(情報技術)や食品産業、それに一部のエネルギー関連企業からさえ、協定に残るべきだとの声があります。省エネ技術やサービスで先行すれば、新市場の開拓や競争力の向上につながるからです」

――米国の離脱で世界にどんな影響が出そうですか。

 「協定には先進国による途上国への資金の支援が盛り込まれています。米国は約100億ドルの『緑の気候基金』の3分の1ほどを担う予定で、前の政権が約10億ドルを拠出済みですが、トランプ氏は残りを出しません。途上国が、支援なしに目標は守れないと言い出す可能性があります」

 「欧州では米国の離脱が世界の取り組みに水を差さないよう、これまで以上に温暖化ガス削減に力を入れています。ドイツは風力や太陽光などの再生可能エネルギーを増やし続けます。フランスや英国は40年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針です。大気汚染が深刻化する中国は環境対策に力を入れており、今年から二酸化炭素(CO2)の排出量取引を全土で実施する計画です」

 「EUや中国に比べ、日本の取り組みは消極的といわれています。原子力発電所の再稼働が進まず、将来的にどのエネルギー源をどれだけ使うか結論が出ないため、温暖化ガス削減の長期的な目標も定まりません。一方で、日本は米国を孤立させない立場をとっています。協定から米国が実際に離脱できるのは早くても20年です。その頃に政権が代わることも想定し、温暖化ガスの削減技術などで協力する方針です」

――米国が協定に戻る可能性はありますか。

 「現時点では非常に低いでしょう。7月の20カ国・地域(G20)首脳会議でドイツのメルケル首相がトランプ氏の説得を試みましたが、足並みはそろいませんでした。その後、トランプ氏はフランスのマクロン大統領との会談で協定の再交渉に含みを持たせる発言をしたものの、溝は埋まっていません」

 「17年11月にCOP23がドイツのボンで開催されます。そこで温暖化ガス排出量の測定や評価の手法など具体的なルールづくりを進め、18年のCOP24で完成させる予定です。ただ17年5月の準備会合では各国の意見が対立しました。とりまとめ役を果たすことも多かった米国の存在感が低下し、議論が進みにくくなるとの指摘もあります」

 「代わって主導権を狙うのが中国です。国際的な影響力を強めたいのに加え、自国に有利なルールを決めたい思惑もあるようです。ただ、温暖化ガスが本当に減っているか曖昧になってしまうと協定の意義が薄れかねません」

■ちょっとウンチク
いずれにせよ減る米の排出量
 米国の二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体の約15%を占め、中国に次いで多い。その米国がパリ協定から抜けたら排出量は一気に増えるだろうか。答えは「ノー」だ。
 たとえば、火力発電所からの排出削減を義務付ける法律は、訴訟などのため前政権でも施行されていない。むしろカリフォルニアやニューヨークなど州政府の削減策が効果をあげており、それはこれからも変わらないだろう。
 また、米国ではCO2排出量が少ないシェールガスの生産・利用が増え、石炭からの切り替えが進んでいる。「国内産業を守るためにパリ協定を抜けても、米国はきちんと排出量を減らしている」――。数年後、トランプ大統領はこう胸を張りたいのかもしれない。
(編集委員 安藤淳)

[日本経済新聞夕刊2017年7月31日付、日経電子版から転載]

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