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隆盛「eスポーツ」に法の壁
賞金たった10万円

隆盛「eスポーツ」に法の壁賞金たった10万円

 コンピューターゲームを競技と位置づけ、動画やイベントを通じてファンが有名プレーヤーらの対戦を視聴する「eスポーツ」が日本でも隆盛の兆しだ。すでに巨大市場になっている欧米やアジアでは、数千万~数十億円規模の賞金がかかる大会も開かれる。だが日本で同じことをしようとすると法の壁が立ちはだかる。景品表示法を順守すれば、賞金の上限はわずか10万円だ。

世界市場は850億円

 「景表法に触れなければ、いくらでも高額賞金大会が開けるのだが......」

 カドカワが7月3日付で設立したゲーム子会社、Gzブレイン(東京・中央)の浜村弘一社長は嘆く。ゲーム情報誌「ファミ通」で長く編集長を務め、複数のeスポーツ関連団体の役員も務める浜村氏は「eスポーツはゲームの面白さそのものが大きく変わり、新たな収益機会を生み出せる」と期待する。一方で、日本市場は諸外国に比べると出遅れているという。理由として「eスポーツの主流であるパソコン上のゲームがそれほどなじみがなかったこともあるが、それ以上に大きかったのが景表法の壁だろう」と話す。

今年2月に開かれた「JAEPO×闘会議2017」は高額賞金のイベントはなかったが、約7万人が来場、400万人以上がネットで視聴した。(幕張メッセ)=ドワンゴ提供

 eスポーツとは、エレクトロニック・スポーツの略称だ。家庭用ゲームやゲームセンターで上手な人のプレーを見て盛り上がった経験がある人も多いはず。現在はネットでの動画配信を通じ、桁違いの数の人を引きつけられるようになった。

 2015年4月設立の日本eスポーツ協会(東京・渋谷)で事務局長を務める筧誠一郎氏は「1990年代後半から大規模なゲームイベントが開かれ、プロチームやリーグが生まれた結果、プロのトッププレーヤーは賞金や契約金で数千万円稼ぐようになった」と説明する。経済産業省が2月にまとめたオンラインゲーム調査事業報告書によると、企業やユーザーが大会、チーム、個人に支払った総額を世界市場の規模とすると、15年実績で7.5億ドル(約850億円)。年率13%の成長が見込まれ、19年予測では12億ドルを超えるという。

宣伝効果に着目、企業も動く

 格闘や車レース、サッカー、戦略ゲームなど多種多様なジャンルのeスポーツがあり、有名プレーヤーには各国の若年層を中心に多数のファンがついている。その宣伝効果に着目し、最近では米プロバスケットボールのNBAや欧州サッカーリーグのチーム、ポルシェやマクラーレン、消費財メーカーなど多数の企業がeスポーツチームを買収したり関連事業に出資したりする動きが相次ぐ。

 国際サッカー連盟(FIFA)はサッカーゲーム「FIFA」の優秀プレーヤーを、世界年間最優秀選手「FIFAバロンドール」と同じ表彰式に招待する。「ブラジルのプロサッカー選手がサッカーゲームのプロに転職し、年収数億円になったのは語り草」(筧氏)だという。22年のアジア大会には公式種目として採用される見通しもある。

 日本でも全国リーグ「日本eスポーツリーグ」が昨年11月に始まり、サッカーJ2の東京ヴェルディが運営するチームなど全国6チームが競っているほか、プロゲーマーを養成する専門学校の学科も活況。隆盛の兆しは多々見られる。

賞金大会「景品規制に抵触」

eスポーツのさらなる飛躍には高額賞金大会が必要との見方も(幕張メッセのJAEPO×闘会議2017)=ドワンゴ提供

 eスポーツがさらに飛躍するには、高額賞金大会が必要との見方が多い。実際に国内でも16年にはドワンゴのゲームイベント「ニコニコ闘会議」内で、ミクシィのスマホゲーム「モンスターストライク」で賞金総額2000万円が争われるなど、高額大会が開かれるようになってきていた。

 ところが昨年夏から、こうした動きが急速にトーンダウンしている。

 きっかけは、いわゆる「日本版ノーアクションレター制度」への消費者庁の回答だ。ノーアクションレター制度とは、民間企業などが事業活動に関係する具体的な行為が特定の法令の規定の適用対象になるかどうか、あらかじめ所管官庁に確認し、官庁側が回答・公表する手続き。ゲーム会社が主催者や共催者となり、賞金の出し手となる典型的なeスポーツの賞金大会が、「景品規制」に抵触すると明文で回答された。これ以降、「リスクがあるということで資金の出し手が及び腰になったのは事実」(浜村氏)という。

景表法適用なら賞金上限10万円

 景品とは、いわゆるおまけや懸賞、ポイントなどを指す。景表法で規制される景品類の定義とは、事業者が「顧客を誘引するための手段として、自己の供給する商品やサービスの取引に付随して、相手方に提供する経済上の利益」を指す(値引き、アフターサービス、付属物を除く)。景表法は不当に顧客を誘引することを防ぎ、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を確保するため、景品類の提供を制限したり禁止したりしている。

 景品類のうち、クジなどの偶然性や、特定行為の優劣によって景品を提供することを「懸賞」と呼び、懸賞に関わる取引の価額の20倍の金額(その額が10万円を超える場合は10万円)を超えてはならない、と規定されている。この規定を適用すると、多くのゲームで「景品」の金額は10万円を超えてはいけないことになる。

 では賞金は景品類に該当するのか。eスポーツの大会はゲームの開発会社が主催する例が多いが、たいていのゲームはその技術の向上のためにパッケージソフトを購入したり、ゲームセンターで練習したりして繰り返しプレーする必要があり、有償のユーザー以外が大会で優秀な成績を収めるのは難しい。このため消費者庁は「大会の賞金は、ゲームの購入や課金といった"取引に付随する"景品に相当することになる」と回答している。

「賭博」に当たる恐れも

 景表法での景品類の定義には「自己の供給する商品やサービスの取引に付随して」とあるため、スポンサーを集めて賞金の出し手と大会の主催者(ゲーム会社)を分けるという手段を取れば、景品には当たらないと考えることもできる。賞金総額が2000万円だった16年の「モンストグランプリ」はこの形を取っていた。ただ古川昌平弁護士は「提供の主体が誰なのかは総合的に判断されるので、お金の出し手を形式上分けても、実質的には同じ主体と見なされる可能性もある」と指摘する。

 では、ゲーム会社や特定のスポンサーがお金を出さずに、出場選手から集めた参加料を賞金として分配する場合はどうだろう。これは刑法上の「賭博」に当たってしまう恐れがある。賭博とは「偶然に左右される勝負に金品を賭けて争うこと」で、04年に都内の広告会社などが賞金150万円のマージャン全国大会を企画したところ、警察が主催者を調査。参加料の一部が賞金にあてられる仕組みだったために「賭博罪にあたる恐れがある」と指導し、中止となった事例がある。

プロ化も一つの手段

 国内でも無料・無課金でプレーできるため「取引に付随しない」と解釈できるゲームで高額大会が開かれている例はある。ただ多くのゲームにとっては、様々な類型で見ても高額大会は法の壁に囲まれているのが現状だ。この状況が変わる可能性はあるのだろうか。
考えられる方法の一つは、景表法を改正し、eスポーツを規制対象外とすることだ。ただ古川弁護士は「消費者保護を直接の目的としない改正は考えにくく、難しい」と話す。染谷隆明弁護士も「ゲームとは何かを法律で規定するのはかなり難しいこともあり、eスポーツだけ特別扱いできるとは考えにくい」とする。その上で「適法な大会を多数開催するなど、実績を積み重ねて立法を働きかけていくことも必要では」と指摘する。

 もう一つ考えられる方法としてはプロ化がありそうだ。景表法はかつて独占禁止法の特別法だった影響で、事業者向け懸賞が規制対象に含まれると考えられている。だが古川弁護士は「一般消費者を保護するための法律になった現在、プロスポーツ化した場合にまで規制が及ぶとすれば違和感がある。プロ向け懸賞は規制対象外とする解釈や運用が検討されるべきではないか」と話す。浜村氏も「(タイトル戦で高額賞金のある)日本将棋連盟を一つのモデルケースとして参考にしている。ボクシングなども同様で、プロゲーマーのライセンス制度の可能性は探りたい」という。

 Gzブレインの浜村氏は「(eスポーツが注目されている)チャンスに手をこまぬいてるわけにはいかず、興行として認められるように取り組まねばならない」と話す。関係省庁と議論を重ねていく余地もありそうだ。ただ関わる関係者や団体が多岐にわたるため、業界関係者の結束や戦略も欠かせない。

 ある関係者は「業界自体がいつもたたかれがちで、たかがゲームと見なされてしまう弱さがある」と打ち明ける。実際にスマホゲームでは参入障壁も低くなり、法令順守が危ういケースも散見される。消費者行政を束ねる内閣府の消費者委員会もゲームに対して厳しい目線を投げかけるだけに、ゲーム業界全体として法務への取り組みを充実させることも必要だ。
(児玉小百合)[日経電子版2017年7月19日付]

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