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相談役ってどんな仕事?
権限あいまい、透明性カギ

相談役ってどんな仕事?権限あいまい、透明性カギ

 上場企業で相談役の存在が注目されているわね。肩書として耳にしたことはあるけれど、実際、会社でどんな役割を果たしているのかな。なぜ今、問題になっているの。

 企業の相談役について、深沢郁子さん(44)と島田美奈さん(48)が小平龍四郎編集委員に話を聞いた。

――そもそも相談役ってどんな人なんですか。

 「日本の企業はオーナー企業を除き、どんなに優秀な経営トップでも8年とか10年といったぐあいに年数を区切って交代してしまう場合が多いのです。トップを退いた後も現経営陣に助言したり、忙しい現役社長にかわって財界や業界活動を担ったりしてもらうため、社長や会長の経験者を相談役や、時には顧問として処遇します」

 「相談役や顧問の実態は、これまでよく分かりませんでした。経済産業省が東京証券取引所の上場企業に対して、相談役や顧問の制度や就任の実態などについて調査し、2017年3月に結果を公表しました。それによると全体の62%の上場企業に相談役や顧問がいることがわかりました。制度はあるが現段階でゼロという企業などを含めると78%と約4分の3の企業に相談役や顧問を置く制度がありました」

――何が今、問題になっているのですか。

 「直接のきっかけは東芝の問題です。2年前に発覚した会計不祥事や子会社だった米ウエスチングハウスの巨額損失問題により、同社のコーポレートガバナンス(企業統治)に注目が集まりました。同社のガバナンスが機能しなかったのは、多くの相談役が経営への影響力を持ったことが原因だったのではないか、と批判されたのです」

 「相談役や顧問は、取締役のように株主総会で選任されるわけではありません。権限と責任が曖昧である場合が多いほか、報酬や待遇に関する情報開示も不足しています。ガバナンス改革のなかで日本企業の経営に透明性が求められるようになると、役割が曖昧な『疑似役員』ともいうべき存在に対する批判も強まったのです」

 「相談役や顧問の制度は会社が自由に決められるため、肥大化する可能性もあります。社長経験者を遇するうちに人数が増え続け、相談役や顧問のほかに名誉相談役、常任顧問、最高顧問といったぐあいにどんどん肩書が複雑になり、現役の社員や経営陣でも誰に何を相談してよいのか分からなくなるという悲喜劇もあるようです」

――見直しの動きは出ているのですか。

 「もちろん、現役の経営陣に有益な助言をしたり、営業活動で重要な役回りをしたりしている方々もおおぜいいます。相談役や顧問をひとくくりに論じるべきではありません。そうはいっても、経営の透明性を高める必要性も高まっているため、企業の間に新しい動きも出てきました。阪急阪神ホールディングスやJ・フロントリテイリングは、17年の株主総会で相談役制度の廃止を決めました。日清紡ホールディングスもやめることにしました」

 「こうした動きはさらに広がりそうです。上場企業は企業統治の考え方や具体的な取り組みなどを報告書にまとめ証券取引所に提出しなくてはいけません。今後は相談役・顧問制度についても同様の報告が求められるようになります。企業にとっては説明責任がいっそう重くなり、権限や役割のはっきりしない相談役や顧問への株主の目は厳しくなるでしょう。報告が義務付けられる前に先手を打って、相談役制度を開示するという企業が今後、現れるかもしれません」

――見直しは日本企業の競争力の強化につながりますか。

 「経営の透明性が高まれば、名実ともに現役の経営陣に権限が集中し、迅速な判断が可能になります。一方、社長、会長の経験者が他の会社や業界で社外取締役として活躍するといった例も、今後は増えるのではないでしょうか。経営で培った有益な知見を社会全体で生かしたほうが、日本経済の活性化にもつながります。求められているのは会社や業界の枠を超えて活躍できるプロ経営者です」

■ちょっとウンチク
企業の説明責任一段と
 機関投資家の行動規範を記した「スチュワードシップ・コード」の制定から4年目。この間の日本のガバナンス改革に一貫するのは、企業の説明責任を重視する考え方だ。例えば社外取締役なども一律に選任を強いるのではなく、選任しない場合の説明義務を企業に課した。
 OB・OGの知見を自社の経営や業界・財界活動に生かすうえで、相談役や顧問の制度には一定の合理性はある。企業が説明責任を果たせる処遇制度にまで批判を差しはさむ投資家はあまりいない。東京証券取引所が情報開示を求めることで、経営の「奥の院」の存在と見られることが多かった相談役・顧問の見える化が進めば、企業にとって説明責任は一段と増すことになる。。
(編集委員 小平龍四郎)

[日本経済新聞夕刊2017年7月10日付、日経電子版から転載]

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