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教科書は街おこし(10)多摩大「SNS論」(下)
~多くの縁があって始まった授業

久米信行 authored by 久米信行久米繊維工業会長
教科書は街おこし(10) 多摩大「SNS論」(下)~多くの縁があって始まった授業
社会人基礎力育成グランプリ2016 全国決勝大会で準大賞を獲得した多摩大学チーム

 私にとって、多摩大学は特別な大学です。その大学で、私のライフワーク「教科書は街おこし」の要となる「SNS論」を始められる幸運に驚いています。振り返れば、この20年間に出会った多くの師匠との不思議なご縁に導かれて、この講義は生まれたのです。

ご縁1 わが師 日下公人先生が、東大ではなく多摩大で教鞭

 日本でいちはやくソフトの重要性と日本文化の先進性を提唱した日下公人先生は、安倍晋三現首相はじめ歴代首相のご意見番です。日下先生が設立した一般社団法人ソフト化経済センターで、私は20年前に客員研究員を務めていました。それ以来、今も日下スクール門下として月に1度の勉強会に、ほぼ毎回参加しています。

 私にとって憧れのヴィジョナリー(先見の明がある人)である師匠、日下先生は、多摩大学創立時の教授で、その後、大学院研究科長を歴任されました。日下スクールでお聞きした話では、母校である東京大学からも誘いがあったそうです。しかし「初代学長である野田一夫先生が創る新しい大学を見てみたい」と、自ら多摩大学を選ばれたのです。

 このたび多摩大学の客員教授を拝命した時、日下先生に真っ先にご報告したことは言うまでもありません。

ご縁2 社会人基礎力育成グランプリの強豪校

 イマドキの大学生には、社会人基礎力=前に踏み出す力×考え抜く力×チームで働く力が欠けていると言われます。私も10年間明治大学で講義を続けて、社会人基礎力不足の悲しい現実を実感しています。こうした現状を打破すべく、社会人基礎力を高めるゼミ活動を競い合い表彰する大会の審査員を、私は務めておりました。
(参考記事:教科書は街おこし(3) 社会人基礎力の磨きかた~「三重苦の若者」にならないために

多摩大学チームのプレゼン

 なぜか、そこには、東大や早慶といった高偏差値大学の参加はありません。しかし「大学教育の真髄は、ネームバリューよりも、ゼミと指導教官にあり」と毎回痛感させられることになりました。無名の大学のゼミの中に、ハッと驚かされる発表や、時に涙する活動が多かったからです。

 その中には、常勝に近いハイレベルな大学とゼミがありましたが、その代表が多摩大学でした。ある年、僅差で多摩大学が優勝を逃したことがありました。選考のあと、会場となった校舎の裏側で、多摩大学のゼミ生が円陣を組んで反省会をしているのを見かけました。その時、まるで甲子園で敗れたチームのように悔し涙を流している学生がいたのです。ここまで精魂こめてプレゼンに臨んだのかと、私は心を打たれ、多摩大の名前が心に刻まれたのです。

ご縁3 図解とネット発信の達人 久恒 啓一先生が副学長として大改革

 現在、多摩大学の副学長として改革を進める久恒啓一先生とは、不思議な出会いがありました。久恒先生は、日本航空で要職を歴任されながら、図解コミュニケーションの技術を創案されて著作活動をスタート(amazonで検索すると2017/9/9現在85冊)。その独創的な知見とアイデアを請われて、宮城大学、多摩大学で教鞭を取られてきました。多摩大学の公式サイトや久恒先生個人のwebサイトを見れば、これまで見たことの無い「図解」が目に飛び込んできます。簡単なことを難しく語る大学の先生が多い中、久恒先生、その真逆です。難しいことをわかりやすく伝えることに生涯を捧げているのです。

 久恒先生は知的生産の技術研究会の理事長として活躍されていました。ありがたいことに、数年前、同会が出版した著書「知の現場」「達人に学ぶ知的生産の技術」で、私の活動をご紹介くださったことがありました。その時のインタビューで、はじめて久恒先生と間近で面談したのですが、私の話を誰よりも真剣に聴いてくださったことは、今でも忘れられません。

 さらに私も参加した「自分史活用フェスティバル」で、久恒啓一先生の講演をお聴きして圧倒されました。久恒先生は、2004年から座右の銘をタイトルにした個人ブログ「今日も生涯の1日なり」を毎日発信することをライフワークにされているのです。そのブログを広めるべく「学びの軌跡」というメールマガジンも発行されて、通算1100号に迫る勢いです。

 即ち、久恒先生は、ICTを駆使して、リアルタイムで「私の履歴書」的な自分史を世界に発信し、自分と多摩大をセルフ・ブランディングしている先駆者なのです。ブログなどに蓄積されたネット著作のアーカイブを「デジタルお墓」にしたいという点でも意気投合いたしました。そこまでネットを使い倒し、可能性を体感している副学長なら、学生が発信主体となる新しい「SNS論」も支持していただけることでしょう。

ご縁4 デジタルメディア研究所所長 橘川幸夫先生が多摩大で熱弁

 パソコン通信時代から「参加型ネット社会」の師と仰ぐ、橘川幸夫さんが、久恒副学長に請われて、既に多摩大学で教鞭を取られています。橘川さんは、常に時代のトップランナーとして、行政、大企業からベンチャー、教育現場まで、年齢性別国籍問わず多くのキーパーソンの尊敬を集める方です。しかし、橘川さんのような、ラジカルでロックンロールな直観的ヴィジョナリーは、象牙の塔と称されるような閉鎖的で帰納的な大学業界?とは最もかけ離れた存在です。

 その橘川さんが、多摩大学で教え始めたことは、私にとって衝撃的な出来事でした。一度、講義にも参加させていただきましたが、多感な青春期に、橘川さんと大学の教室で出会えるなんて「ありえないこと」と学生達をうらやましく思いました。しかも橘川さんの斬新な提案の数々に、久恒副学長は耳を傾けて、新しいことを次々に始めようとされています。この自由闊達な改革ムードは、他の大学では得られないでしょう。

 私のように企業・行政・NPOのリーダー育成では実績があっても、大学業界ではアウトサイダー講師のような存在が力を発揮できるのは、多摩大学のようなベンチャー精神を持った大学しかないだろうと考えていました。そんな矢先に、橘川さんがSNS論の講師として私を推薦してくださったのです。

多摩大学と多摩信用金庫との連携

多摩信用金庫(たましん)地域連携支援部がバックアップ

 多摩大で「SNS論」に挑戦する時に、思いがけず強力なサポーターが現れました。それは、多摩地域に根ざした金融機関、多摩信用金庫地域連携支援部長の長島剛さんです。今年7月6日に関東経済産業局で開催されたコミュニティビジネス研究会で、私はパネリストを務め、そこで「多摩大SNS論」のアイデアについてご紹介いたしました。その時、参加していた長島さんが関心を持ってくださり、あっと驚く提携が進むことになったのです。

 私は当初、地元の観光協会と提携して、学生たちがSNSで発信した地域情報を活用していただこうと考えておりました。長島さんは、多摩信用金庫の地域連携支援部とコラボレーションもできますと提案してくださったのです。長島さんのご提案で、SNS論の締めくくりとして、インスタグラムで素晴らしい情報発信をしてくれたベストメンバーによる対外的な発表会を、多摩信用金庫で行う計画を立てました。

 大きな会場で、インスタグラムでご紹介したショップや観光スポットの皆様をご招待する他、地域の観光地域づくりのキーパーソンにも聴いていただこうと考えています。さらに、多くの人に役立つ情報だと長島さんに認められたら、多摩信用金庫の広報紙「たまちいき」や、季刊誌「たまら・び」にも掲載していただけるかもしれません。

 この講義では、講師に気に入られて、良い成績をもらうための講義にはしたくありません。多摩大生がSNSで紹介したことで、お客様が増えて商売繁盛につながるような「結果にコミットする」実践的な学びの場にしたいのです。そして、最終的には、目が肥えた多摩信用金庫地域支援部や、公報誌編集部のみなさんに認められて、リンクや掲載をしていただけるようなクオリティを目指したいと思います

 多摩大生のみなさん。ぜひこの新しい「SNS論」の第1期生として受講していただき、ご一緒にチャレンジをいたしましょう。そして「多摩を世界の中心に」する第一歩を踏み出しましょう。