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日本人から見た、歴史的黒人大学の意味

アジア人は私だけ~米大学留学記(10)

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NIKKEI STYLE

前回は、マイノリティとして暮らす中で感じたことについて書きました。良いこと言ってる風にまとめましたが、正直に言えば寂しかったし、ホームシックにもなったし、誰とも話したくなくて部屋に籠ってばかりの時期もありました。でも、これは別に黒人大学でなくとも、留学、引っ越し、新しい環境に身を置く誰もが経験し得る感情だと思います。

そこで、最終回となる今回は「アメリカで」「黒人コミュニティで」あったからこそ経験した、マジョリティとマイノリティの関係性についてお伝えできればと思います。

これまで何度も書いてきたように、スペルマンはアメリカ社会において差別され、抑圧され、隅に追いやられてきた黒人たちに高等教育の場を与えるため作られた大学です。私もたしかにアメリカでは人種マイノリティだし、キャンパス外ではアジア人差別を受けたこともあります。アメリカで居場所を見つけ、快適に暮らし、職を得て成功しようとするなら、きっと想像を絶する苦労が待ち受けているのだと思います。

でも、そういった「外国人」としての苦労は、アメリカに生まれた黒人が背負う歴史、根深い因縁とはまた少し質の違うものです。

マジョリティの「罪悪感」

人種差別の文脈で白人を語るとき、頻繁に用いられる形容詞に、"privileged"というものがあります。「特権階級」「恵まれている人たち」というようなニュアンスの単語で、アメリカにおいて白人はまさに生まれながらに数多くの「特権」を手にしたprivilegedな存在といわれます。

アジア人である私自身も、アメリカでは人種的にprivilegedでない側の人間ですが、白人の持つ特権について学生が議論しているとき、正直、私はいつも居心地の悪さを感じていました。それは、日本社会にいた頃の自分はまさしく"privileged"な、目に見えない数多くの「特権」を手にした人間だったと気づいたからです。

日本人の両親のもとに生まれ、日本語を話し、人種が不利に働く場面もなく、自分で選んだ学校に通っている。そんな当たり前のことが当たり前でない人々が存在するのだと知った時、私が感じたのはいわば「罪悪感」でした。人生の大半をprivilegedな立場で過ごしてきた私が、この空間でいったい何を言えるのか。本当はこんなこと考えるべきではないのかもしれませんが、マジョリティとして快適に暮らしてきたことに後ろめたさというか、申し訳なさを感じる自分がいました。

そもそも、留学先に黒人大学を選んだのは、言ってしまえば「マイノリティになってみたい」という好奇心があったからです。でも、今となって思うのは、そんな残酷な好奇心を持てたのは、私がprivilegedなマジョリティだったからに他ならないということです。黒人にとってのある種の「救い」の場所である黒人大学で教育を受ける資格は私にはないのではないか、と考えてしまうことも一度や二度ではありませんでした。

私は、人種差別は決して許されないことだと思うし、初めてアメリカの奴隷制の歴史を学んだ時には強い憤りを感じました。日常の些細な差別もひどい、どうにかできないか、と思う人並みの正義感はあるし、今もアメリカでの暴動やデモのニュースを目にするたび悲しくなります。

それでも、どれだけ近くにいても、彼らの悔しさや悲しみに本当の意味で共感することはできないのです。「ブラックであること」を思考や行動のモチベーションにしている人々の中で、その最も根底にあるアイデンティティを共有していない、一緒に悲しみ、怒り、共に闘うことができないというのは、その時の自分にとってあまりにも大きな隔たりに感じられました。

一方で、私にとってはHBCUにいる黒人学生こそprivilegedに見えたのもまた事実です(というより、設立の目的からしてそうならなければ意味がないですが)。アメリカ国籍で、英語が母語で、何より人種というアイデンティティを共有する仲間がいる皆のことを、うらやましい、と思うことは何度もありました。

「文化や言語の壁を越えて友情を築く」などと言葉で言うのは簡単ですが、実際のところ、いくら一緒に楽しく遊んでも、真剣に語り合っても、その一方で、黒人大学という特殊な世界を理解すればするほど「自分は彼女たちと本当の意味で"仲間"にはなれない」という事実をいつも突きつけられているように感じていました。

結局のところ、差別・被差別、マジョリティ・マイノリティという構図も、決して絶対的なものではなく、立場や環境によっていくらでも変わり得るものなのだと思います。「人種」や「言語」のような要素は目に見える故に非常にわかりやすいですが、視点を変えてみればすべての人がすべての面で常に多数派、というのもありえないことです。

一人の人間として向き合う

一方で、私が留学をして強く感じたのは、ひとりの人間同士、1対1のコミュニケーションには多数派も少数派も、人種も何も関係ないということです。何もかもが自分と違うたくさんの学生と接する中で、苦労することはもちろんありましたが、人種や文化が違っていても同じ映画が好きだったり、性格が似ていたり、ちいさな共通点から関係が深まることが何度もありました。強烈なエピソードに事欠かない留学生活でしたが、なんだかんだで一番心に残っている思い出は、友達と一緒に料理をしたり、ソファに座って何時間も語り合った何気ない時間です。

改めて考えてみると、黒人コミュニティの中で楽しく生きるために必要なのは遠慮でも同情でもなく、相手の話をよく聞くとか笑顔で話しかけるとか、そういうごくごく当たり前の「敬意」だったと思います。

留学当初は、マジョリティがマイノリティにしてあげられる・すべきことは何なのか?などと考えることもありましたが、結局のところ、そんな小難しいことを考える必要はなくて、「ただの人間」としてただ普通に接する、ということが実は一番シンプルで一番答えに近いような気がしています。

「歴史的黒人大学」という場所は、決してポジティブな理由だけで設立されたわけではありません。むしろ究極的には、黒人大学など存在しなくてもよい社会こそ理想なのかもしれません。それでも、少なくとも今日のアメリカにおいては、黒人大学は未だ黒人コミュニティにとって単なる教育機関以上の存在感を保っています。歴史的黒人大学は歴史と文化を後世に伝え、ブラックコミュニティの連帯を維持していくハブであり、何より誰もが人種にとらわれることなく肩の力を抜いて「ただの自分」でいられる場所なのです。

そう考えると、黒人大学がこれからも末永く発展して欲しいと願うのも少し違う気がするし、かといって衰退してくれとも言いたくないので難しい・・・ということで、"Spelman sister"たちの益々の大活躍と、この連載を通して皆さんに「歴史的黒人大学とは何か?」が充分に伝わったことを祈りつつ、締めとさせていただきます。

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