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気がつけばFinTech
日常に浸透、スマホ世代が支持

気がつけばFinTech日常に浸透、スマホ世代が支持

 金融とIT(情報技術)を融合した「フィンテック」が日常生活にも入ってきた。スマートフォン(スマホ)でQRコードを読み取ると、代金を支払えるサービスが相次いで登場している。スマホをかざすだけで注文と決済を同時にできるなど、ITベンチャーがユニークな仕組みを開発している。スマホに慣れ親しんだ若い世代の支持を集める。

「ペイモ」は商品ごとにQRコードを発行し、注文や会計の作業量を減らす

 金曜日の夜8時。駅前にある居酒屋は仕事終わりの会社員らであふれかえっている。ありふれた光景に見えるが、店内にレジはない。また、顧客は何度もスマートフォン(スマホ)をメニューにかざしている。店員は注文をとっていないにもかかわらず、しばらくするとビールや料理を運んできた。食べ終えると、会社員らは店員に話しかけることなく帰宅した。

 8月にエニーペイ(東京・港)が始めた決済サービス「paymo(ペイモ)QR支払い」が普及すると、こんな光景が当たり前になるかもしれない。ペイモQR支払いはQRコードを読み取ることで、注文と決済が同時にできる。

商品別にコード

 事業者はエニーペイの決済サービスの管理画面で商品名や価格などの情報を入力し、商品ごとのQRコードを発行。商品カタログやメニューにQRコードを載せる。顧客はアプリを起動して購入する商品のQRコードを読み取れば、登録しておいたクレジットカードなどで料金を支払える。

 顧客は店員に注文内容を告げなくてもよく、会計の順番を待つことなくレジを素通りできる。事業者にとっても店員の注文や会計の作業量を減らせる。現在よりも少ない人数で運営できる可能性がある。

 すべての商品ではなくても、ビールなど頻繁に購入される商品のQRコードをレジ横やメニューに貼り付けるだけでもメリットはある。導入する予定のカフェ運営のワット(東京・目黒)の庄司真帆プロジェクト・マネジャーは「最も注文の多い『本日のコーヒー』のQRコードを発行してオペレーションの簡略化につなげたい」と語る。

 庄司氏は「急いでいる顧客は多い。会計時間が短くなれば利便性の向上につながる」と、店舗と顧客の双方にメリットがあると指摘する。会計にかかる作業量が減れば、商品をより早く提供できる。座席の回転率の上昇や、混雑を嫌って来店しなかった消費者の獲得にもつながりそうだ。

 「Origami Pay(オリガミペイ)で」。カナダ出身で東京都港区に住む会社員、ザン・ジムさん(26)は半年前から、タクシー料金を支払うときにこう伝えている。ザンさんが使っているのは、オリガミ(東京・港)が提供するQRコードを使った決済サービスだ。

 助手席の背面にあるタブレットに金額とQRコードが表示される。金額が料金メーターとあっているか確認し、QRコードをスマホで読み取ると支払いが完了する。かかった時間は4~5秒だ。ザンさんを見て、同世代の友人らもオリガミペイを使うようになった。オリガミペイの利用者は、ザンさんのような20~30歳代が約5割を占める。

アリペイと連携

 オリガミは康井義貴社長が2012年に立ちあげた。前職のベンチャーキャピタル勤務時代、米国や中国でフィンテック分野のサービスが続々と生まれる様子に衝撃を受けた。「資金移動のビジネスモデルは根本から変わる」。起業を決め、16年5月にオリガミペイのサービスを始めた。

 利用者はオリガミペイのアプリにクレジットカードを登録しておく。QRコードを読み取って決済すると、カードの口座に代金が請求される。カードを事業者に手渡さないため、カード番号の漏洩リスクを抑えられる。前払い方式の電子マネーと違い、チャージ不足と分かってレジ前で慌てることもない。

 事業者が用意するのはタブレットと通信環境だけでいい。専用の読み取り機器は不要。初期費用や毎月の利用料金もかからず、3.25%の決済手数料をオリガミに支払うだけだ。中国アントフィナンシャルサービスグループのモバイル決済サービス「アリペイ」とも連携できる。

 カジュアル衣料専門店のジーンズメイトは49店に導入した。アリペイのユーザーである訪日中国人を呼びこみ、「客単価が通常の1.5倍になった。18万円分を購入した顧客もいる」(ジーンズメイトの三好秀樹執行役員)。ほかにロフトやAOKIなど約1500社が2万店で導入している。康井社長は2年後をメドに20万店まで増やす狙いだ。

 フィンテックは既存の決済手段であるクレジットカードの利用の裾野も広げている。「クレジットカード決済できるかどうかでホステルの予約率は変わる。『コイニー』があって良かった」。訪日外国人が安価に泊まれるホステルを運営するワイズアウル(東京・港)の中島明日香マネージャーはほっとした表情を見せる。同社は1年前、コイニー(東京・渋谷)のシステムを導入した。

 コイニーは専用回線を引かなくても、小型の読み取り機器とタブレットでカード決済できる中小企業向けシステムを提供する。利用審査などを電子化し、導入までにかかる期間を最短3日と従来方式の1~2カ月から大幅に短縮。入金は最大で月6回と、従来方式の1回より多い。中小企業の資金繰りの悪化を防ぐ。

 日本は銀行のほか、コンビニエンスストアなどにATMが設置され、現金の引き出しに苦労しない。依然として現金が決済の主流であることに加え、「Suica(スイカ)」に代表される電子マネーの発達もあり、QRコードなどを使った新しいモバイル決済の普及は道半ばだ。

 一方、米調査会社のフロスト&サリバンは、日本を含むアジア太平洋10カ国の21年のモバイル決済市場が、16年比3.8倍の2700億ドル(約30兆円)まで成長すると予測する。訪日外国人は増加傾向にあり、東京五輪の開催も控える。外国人の消費をより多く呼びこむには、安全性や利便性の高い決済インフラが欠かせない。フィンテック分野のベンチャーの役割は大きくなりそうだ。

フィンテック、日常にじわり

 フィンテックは決済だけでなく、貯金や送金の分野にも広がっている。貯金アプリは買い物のおつりを自動で口座に入金するなど、お金をためやすくする機能を充実させている。送金アプリは外食店での割り勘のほか、夫婦間のお金のやりとりにも使われている。

レシート家計簿

 コツコツためられる方法として定着している100円玉貯金や500円玉貯金。難点は貯金箱が重くなってしまうことだった。ネストエッグ(東京・千代田)が2016年12月から配信している自動貯金アプリ「finbee(フィンビー)」なら、スマホが貯金箱代わりになる。

 利用者は海外旅行を目指す「海外貯金」や、洋服・バッグの購入を狙う「オシャレ貯金」など、用意された13のカテゴリーから目的を選ぶ。次に目標金額と達成期日を入力すると、自分の銀行口座からフィンビー用の銀行口座に自動でお金を移動させる。

 「おつり貯金」を選ぶと、買い物で受けとる端数がフィンビー用の銀行口座に入る。フィンビーに登録したデビットカードで890円の買い物をしたとする。デビットカードからは1000円が引き出され、差額の110円が貯金に回る。スマホの歩数計アプリと連携して「1日1万歩を歩かなかったら500円」のような、罰則型の貯金方法も利用できる。

 日常生活に浸透しているフィンテックの代表例は家計簿アプリだ。2012年設立のマネーフォワード(東京・港)がよく知られるが、Zaim(東京・渋谷)の「Zaim(ザイム)」など多くのアプリが利用者を獲得している。

 「学生時代は家計簿をつけても、三日坊主で終わっていた。ザイムはレシートを撮影するだけでいいため、もう2年間も続いている」。兵庫県に住む会社員の中東太一さん(28)は、15年に社会人になったのをきっかけにザイムを使い始めた。

 ザイムは購入した品目と金額を自動的にアプリの家計簿に記録する。利用者がスマホでレシートを撮影すると、レシートに印刷されている店舗や品目、金額を読み取る。コンビニエンスストアで購入した弁当は食費、タクシー料金は交通費などと、自動で90以上のカテゴリーに振りわける。細かい分類を除けば、わざわざ手作業で入力する必要はない。

 また、「クレジットカードによる支払いを、カードごとに見られるのも助かる」(中東さん)。銀行口座やカードを登録しておくと、口座引き落としやカード利用の履歴も自動で反映される。基本サービスは無料。収入や支出の推移を見たり、医療費控除の計算などのサービスを使ったりするには有料会員になる必要がある。

親子で居酒屋で

 「母さん、美容院に行くから4000円貸して。スマホに返しておくから」。東京都世田谷区の会社員、進祐二郎さん(25)は現金を持ち歩かない。美容院やラーメン店などで、どうしても現金が必要なときは母親から借りている。

 進さん親子が使っているのはLINE子会社、LINE Pay(ラインペイ)が運営するスマホ向けサービス。無料対話アプリ「LINE」に登録している「友だち」へ指定した金額を送ることができる。銀行口座などからラインペイの口座に入金して使う。

 ラインペイのようにお金の貸し借りや割り勘、イベントの集金などに使える送金サービスも増えている。ヤフーは16年5月から電子マネー「Yahoo!マネー」を送金できるようにした。Kyash(キャッシュ、東京・港)が今年4月に提供を始めたアプリ「キャッシュ」もその1つだ。

 例えば、3人が居酒屋で1万1550円を使ったとする。均等に割れば1人3850円。送金アプリなら小銭をやりとりしなくても、幹事に送金できる。活用方法は幅広いだけに、ベンチャーだけでなく、LINEやヤフーのような大手インターネット企業も参入する激戦地になっている。

 フィンテックに詳しいトーマツベンチャーサポート(東京・千代田)の大平貴久氏は「ベンチャーがフィンテックサービスの拡大をけん引している」と指摘する。銀行法の改正で金融機関が事業会社と提携しやすくなったこともあり、新しいサービスの開発が加速している。

 スマホ保有率の上昇にあわせ、モバイル決済のニーズは高まっている。「クレジットカードを店員に渡すことに抵抗を感じたり、財布を持ち歩かずスマホ1つで買い物したいと思ったりしている人は増えている」(大平氏)。ベンチャーはそんな生活者の志向の変化をとらえ、ユニークなサービスを投入している。

 小売・外食業界などの事業者もモバイル決済を導入すれば、会計の作業量削減につながる。依然として人手不足は解消されておらず、フィンテックは省力化に役立つと期待される。ただ、決済手段が多様化すればするほどオペレーションが複雑になり、従業員が対応しきれない可能性もある。入れ替わりの激しいアルバイトやパートに効果的な教育を施せるかも重要になりそうだ。
(毛芝雄己、吉田楓)[日経産業新聞2017年7月31日付、日経電子版から転載]

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