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「複業」人材積極採用 
週2日勤務で正社員も

「複業」人材積極採用 週2日勤務で正社員も

 政府が「働き方改革」の一環として本業以外に仕事をする兼業・副業の推進を打ち出している。民間では、本業と副業の「正副」の考えだけでなく複数の仕事を持つ"複業"という概念も登場。「パラレルキャリア」とも呼ばれ、異業種などから新たな発想を取り込む新しい働き方として注目される。IT(情報技術)業界では社員に副業を認めるのはもちろん、さらに一歩進んで「複業人材」を積極的に採用する動きも出始めた。

新潟のNPO法人と東京企業で「2つの顔」

ライフスタイルの加藤さんは3社で“複業”中だ(東京・港のライフスタイル本社)

 長野県との県境に位置し、スキー場や温泉で知られる新潟県妙高市。自然に囲まれた中山間地で働く竹内義晴さん(46)は「新潟のNPO法人代表」と「東京の企業の正社員」の2つの顔を持つ。週3日はNPO法人の仕事をし、週2日はソフトウエア開発のサイボウズの仕事をリモートワーク。新潟を本拠地としながら、必要に応じ東京に来て会議などに参加する。

 竹内さんはサイボウズが今年始めた「複業採用」に応募。企業の職場環境改善を支援するNPOでの経験を生かし、サイボウズでは職場のチームワークを高める研修や企業のブランディングに関する仕事に取り組んでいる。竹内さんは「新しい価値観に触れ、人脈も広がった」と満足している。仕事上のコミュニケーションは「ネット上で情報共有できているので問題ない」という。

 サイボウズは今年1月に新たに「複業採用」を開始。これまでに竹内さんを含め2人を採用した。同社は2012年から社員が兼業・副業するのを認めているが、採用時から兼業・副業を前提とするのが「複業採用」の特徴。雇用形態は正社員のほか契約社員、業務委託契約などを想定し、個別に決める。「通常の中途採用では出会えなかった人を採用できている。社内にない知見を持っている意欲の高い優秀な人が応募してくれている」(人事部採用担当の武部美紀氏)という。

 サイバーエージェント子会社のサイバー・バズ(東京・渋谷)も今年1月に「助っ人採用」と称して、同社で副業する人材の募集を始めた。他社で働く人を業務委託契約などの形で受け入れる。「経験値の高い方に週1回数時間でも入ってもらうことで社内を活性化したい」(サイバー・バズ)という。これまで人事や経営企画などの分野で5人採用した。

採用担当も"複業"中

 スタートアップの世界にも広がっている。仮想現実(VR)コンテンツ制作などを手掛けるライフスタイル(東京・港)も7月に兼業・副業人材を募集する「シンクロキャリア採用」を開始した。採用を担当する人事課の加藤マキさん(39)は自身も3社で複業中。ライフスタイルで正社員として働きながら、他2社でも業務委託契約で働く。加藤さんは「副収入としてではなく本業を複数持つイメージの複業人材を採用したい」といい、「優秀な人材を複数の会社がシェアする時代になっていく」と予想する。

 スタートアップでこうした採用が出始めた背景には、企業の人手不足感が強まり人材獲得競争が激しい中、正社員としての採用が難しくても複業採用なら優秀な人材を採用できるという思惑もある。

 政府は副業・兼業を推進しようと旗を振るが、認めている企業はまだ少ない。日本経済新聞と日経リサーチが昨年12月に上場企業301社を対象に実施した調査では副業・兼業を認める企業の割合は19%にとどまった。リクルートキャリア(東京・千代田)が今年1月に実施した調査(中小・中堅・大企業からランダム抽出した1147社が対象)でも、容認または推進している企業の割合は23%だった。

 課題は勤怠管理だ。同調査で禁止理由として最も多かったのが「社員の長時間労働・過重労働を助長する」の56%だった。決めた勤務日・時間以外にもついメールや資料作りなどをしてしまうことがあり、働き手の側からも「最も難しいのは時間管理」(竹内さん)との声が聞かれる。

 経営学者のピーター・ドラッカーは著書「明日を支配するもの」の中で、本業に加えて社会的活動などに取り組む新しい生き方として「パラレルキャリア」を提唱した。「働き方」に詳しいリクルートキャリアの藤井薫リクナビNEXT編集長は「事業のコモディティー化が進む環境下で、社内の人材の能力開発を加速する一つの方法として兼業・副業を積極的に利活用する動きが今後広がってくる」とみる。1つの組織に依存する生き方からの脱却は日本で今後広がるだろうか。柔軟な働き方の実験がスタートアップから始まっている。
(佐藤史佳)[日経電子版2017年8月25日付]

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