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トビタった!私たち(2)イタリアでロボット研究(下)
ストライキで夜の街をさまよう

authored by トビタテ!留学JAPAN
トビタった!私たち(2) イタリアでロボット研究(下)ストライキで夜の街をさまよう

 前回は私の研究内容と国際会議に参加した時の体験と研究者の道を志すきっかけ、留学を決意するまでについて説明しました。今回はイタリアに留学して経験した、価値観が揺さぶられた出来事について話します。

日本の常識、イタリアの常識

 留学先も決まり、トビタテ生にもなることができたということで、いよいよ留学が始まったのですが、留学先では想定外な出来事の連続でした。日本と近いところもあり真逆なところもある、イタリアの文化に翻弄されました。しかし、その想定外の体験からの想定外の学びこそが、留学の真価なのだと今では思います。

 まさか研究より生活することに苦労するとは到底予想できませんでした。一番困ったのがストライキです。イタリアではだいたい月1回ずつ、電車とバスのストライキがあります。その期間は誰が何を言おうとも電車とバスは動きません。私は留学を始めた最初の1カ月にそのストライキに2度会い、知らない街に放り出されるという体験をしました。

月1回止まります。旅行の時は気を付けてください

 元々小心者なので、日本語は当然ましてや英語も通じない見知らぬ土地に1人でいることはとても心細いものでした。特に2度目は真夜中だったため、座り込んでいるのも怖く、ただひたすら何時間も歩きながら解決策を練っていました。結局、まだ数回しか話したことがなかった研究室の隣の席の人が、近くのB&Bを紹介して下さり、無事屋根の下で寝ることができました。紹介してくださった人は今では1番の親友で、日本に帰ってからも連絡を取り続けています。

 行政も交通機関も全部気まぐれ、計画を立てて生活することが難しい国でした。しかし、そのイタリアに住んだことで、そもそも全てが計画通りに進む日本の文化が特殊であることに気が付かされました。全てが計画通りに進んで自分の思い通りになることが、幸せに直結するのかということを疑問に思うことのできた初めての機会でした。まさに、価値観が揺さぶられた瞬間でした。

人との繋がり

 慣れない土地での生活は、人との繋がりを意識する大切な機会となりました。滞在ビザを取るのにも、アパートを探すのにも、近くで安いスーパーを探すのにも何をするにも人に助けてもらいました。初めての一人暮らしだったのですが、生活するのがこんなに大変だとは想像していませんでした。普段身の回りのことを手伝ってくれる、家族の存在の大きさも改めて感じました。自分がたくさんの人に助けられて生きていることを再認識しました。

 徐々に生活にも慣れてきて、研究も軌道に乗り始めたころ、橋本先生がイタリアに来るという知らせが来ました。ヴァチカン市国で行われる、ビックデータに関するワークショップに招待されたということでした。ヴァチカンで最先端の科学に関するワークショップがあるということも驚きでしたが、イタリアで橋本先生とお会いできるまたとない機会と思い、Scuola Superiore Sant'Annaのあるピサからローマまで急行しました。

 橋本先生はお忙しい時間を縫って、私と会う時間を作って下さりました。留学先で行っている研究の議論、生活で困っていることなどを相談することができました。最後には、サンピエトロ大聖堂を一緒に観覧することができ、ヴァチカンが持つ歴史の重さを共有しました。

サンピエトロ大聖堂にて橋本先生と。一生の思い出です

 研究所の人達も良くしてくださいました。ゴーカートにいったり、人狼ゲームをしたり、日本酒パーティをしたりと、すべてが良い思い出です。博士課程以上の人が多かったので、パートナーがいる人も多く、最初は時間をもらうことは難しかったですが、そこをどう乗り越えるかという経験も学びとなりました。

まとめ

 結論から言うと、本当に留学をして良かったと思っています。初めは専門性を学ぶつもりでScuola Superiore Sant'Annaへの留学を決めました。しかし、異国の地で生活する中で、価値観を揺さぶられ、人との繋がりの大切さを学ぶことができました。

 専門的なのでこの記事では割愛しましたが、研究生活も充実していました。ほぼ0からのスタートだったので、数十本論文を読んで研究背景を理解し、実験をし、必死に食らいつきました。最近では成果として論文化できた研究テーマもあり、最初の目的であった、専門性の拡がりも達成できたのではないかと思っています。

 私にとって留学の一番の価値は、自分が、自分しか頼れない状況から、何かを達成した何かを学んだという自信を得ることができたところにあると思います。トビタテのサブタイトルである、"その経験が、未来の自信"というのもまさにその通りだなと実感しています。

帰国前のピザパーティの写真です。またみんなに会いたいです

 留学を志した時に、トビタテという制度があったことも運が良かったと思います。金銭的な余裕は、留学先での挑戦に繋がりました。事前・事後研修や同窓会などで、高い志を持った様々な分野の人と出会って話を聞くと、モチベーションが上がります。同時に、夢を追い求めて挑戦している姿を見ると応援したくなります。私は引っ込み思案なので前に出ることを躊躇しがちなのですが、トビタテに参加して応援したり応援されたりする経験によって、少しずつ胸を張れるようになってきました。

 以上のように、私は留学によって一人の人間として今後生きていくために大切な学びをすることができました。留学に関連してたくさんの人にお世話になりました、私一人では何もできなかったと思います。特に、留学を考えるきっかけを下さった橋本先生、支援して下さった支援企業のみなさま、トビタテ・大学の事務局のみなさまには大変感謝しています。

 今後は留学と研究の面白さを、後輩に伝えていきたいと考えています。留学・研究といった主体的な学びから、自分のために自分で考えて決断して行動する体験の醍醐味を味わうことのできる環境を整備したいです。具体的には、自分の研究を基礎とした研究室を立ち上げ、積極的に留学生を輩出し・受け入れられるようになりたいです。

また、トビタテでは8期募集から私のようなロボティクス分野での留学を含む最先端テクノロジー(AI、Iot、サイバーセキュリティなど6分野)を学ぶ留学をさらに推進するために「未来テクノロジー人材枠」を新設したそうです。ぜひチェックしてみてください。

プロフィール
重宗宏毅(しげむね・ひろき) 1991年生まれ、私立開成高校卒、2016年早稲田大学・先進理工・応用物理(橋本周司研究室)修了、2016年より早稲田大学・創造理工・総合機械(菅野重樹研究室)に所属。日本学術振興会特別研究員。ペーパーメカトロニクスの研究において、ロボット分野最高峰の国際会議の1つ(IROS)ではダブル受賞、また、経済産業省Innovative Technologies 2015に選出された。