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恋ダンス、もう踊れない?
アップ動画に削除要請

恋ダンス、もう踊れない?アップ動画に削除要請
(C)AKS

 2016年に放映されたTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のエンディングで流れた星野源さんの楽曲「恋」。星野さんらのダンスが人気を呼び、自分も踊ってみたという姿を動画投稿サイト「ユーチューブ」などに投稿する個人が相次いだ。ところが17年9月以降、その動画を削除するよう、星野さんが所属するレコード会社が求めている。何があったのか。

 「"恋ダンス"動画につきまして、2017年8月末日をもちまして、弊社より著作権法に基づく動画削除の手続きを行わさせて頂きます」

ビクターエンタテインメントは自社サイトで「恋ダンス」動画の削除を要請した

 JVCケンウッド傘下のレコード会社、ビクターエンタテインメント(東京・渋谷)系のレーベル「スピードスターレコーズ」が8月29日にホームページでこんな文章を公表し、インターネット上で波紋を広げている。

 カラオケボックスなどで、星野さんの「恋」に合わせて「恋ダンス」を踊った人も多いだろう。自分で歌って踊って楽しむだけでなく、その様子を動画サイトに投稿する人も急増。ユーチューブで「恋ダンス踊ってみた」と検索すると、今も数万件もの動画がヒットする。キャロライン・ケネディ前駐日米大使なども「踊ってみた」動画を公開し、話題になった。

 だが現在、「踊ってみた」動画の中には、音が消された状態になっているものもある。その動画の下には「この動画では著作権で保護された音声トラックが使用されていました。著作権者からの申し立てにより、音声トラックはミュート状態となっています」との説明が付いていた。

 レコード会社側はそれまで、

(1)個人・非営利を目的として制作、公開していること

(2)「恋」の音源は、ユーザーがCDや配信で購入した音源であること

(3)動画で使う音源の長さがドラマエンディングと同様の90秒程度であること

――を条件に、動画サイトへに恋ダンスをアップすることを、8月末までの期間限定で容認してきた。

 言い換えれば、9月以降は容認しないということはかねて宣言していた通り。今回の削除要請は、それを実行に移したにすぎない。ただ、その宣言は必ずしも一般に広く浸透していたわけではなかったとみられ、ネットで波紋が広がる一因になったようだ。今回の方針の理由についてレーベルの担当者に問い合わせたところ「基本的には弊社ホームページで書いていることが全てであり、それ以上でも以下でもない」とのことだった。

 そもそも、動画投稿サイトにこうした動画をアップロードすることは、著作権法の観点から見てどうなのか。

 楽曲の権利には、作詞家・作曲家が持つ著作権と、レコード会社などが持つ著作隣接権の2つがある。楽曲の利用には、著作権と著作隣接権の双方で、許諾を取る必要がある。

 「恋」という楽曲については、詞や曲といった著作権は星野さん側が権利を持ち、日本音楽著作権協会(JASRAC)は「JASRACが管理窓口となっている」と説明。一方でユーチューブ上の著作権については「ユーチューブ側がJASRACとの権利処理の窓口となっている」という。ユーチューブ側とJASRACが包括契約を結ぶことで、個人に代わりユーチューブが使用料を支払っているということだ。

 つまり、詩や曲の使用そのものは問題ない。JASRACは利用許諾契約を結んでいるサービスサイトの一覧をホームページ上で公表しており、その中にはユーチューブのほか、カドカワ系の「ニコニコ動画」といった大手サービスも含まれる。

 では、何が引っかかったのか。それが、利用許諾を取る必要があるもう一つの権利である、著作隣接権だ。

 著作隣接権とは、著作物の伝達・媒介者に与えられる著作権法上の権利で、レコード会社や放送局などが持つ。レコード会社の場合は「原盤権」とも呼ばれ、複製する権利や、公衆に送信(アップロード)できるようにする権利などを指す。「恋」の原盤権はビクターエンタテインメントが持つ。同社のレーベルであるスピードスターレコーズが実際に求めているのは「同社のCDや配信音源を勝手に使わない」ことだ。

 個人が恋ダンスを踊る際、背景に同社のCD音源などを流してユーチューブに投稿する行為は「(同社の意向に反して行えば)法的には送信可能化権と複製権の侵害になる可能性が高い」(著作権法に詳しい福井健策弁護士)。恋ダンスを巡っては、この著作隣接権に基づき制限が付けられていた。同社は8月末までは個人が音源を使用して動画などをアップしても容認するスタンスだったが、9月以降は削除に動いた。ニコニコ動画では、サイト側があらかじめ許諾を得ている一部の音楽原盤については投稿などで利用できるようにしている。ただし、今回の恋ダンスについてはやはり「9月以降はユーザー自ら公開中止・削除を」としている。

 JASRACは、ホームページ内に「動画投稿(共有)サイトでの音楽利用」というコーナーを設け、アップロードが可能な例と控えるべき例について詳しく解説している。その中では、市販のCDなどを使う場合は、JASRACが管理する作詞者・作曲者の著作権とは別に、レコード制作者、実演家等の関係権利者の著作隣接権について許諾を得る必要がある旨を指摘している。

 レコード会社側が期間を区切っていた理由について音楽の著作権に詳しい奥田洋平弁護士は「これまであえて権利行使しなかったのはPR効果が大きいとみたのだろう。ただ既にDVDなども発売済みとなるなど効果は一巡した。一方でCD音源の動画が拡散し続けると、アプリなどを使って簡単にダウンロードもできるので、違法アップロードの不利益の方が大きくなると判断したのではないか」と分析する。

 ところで、恋ダンスのように「踊ってみた」という動画が一気に広がった例としては、人気アイドルグループ「AKB48」の「恋するフォーチュンクッキー」を思い出す人も多いだろう。あの例では同じような問題は生じなかったのだろうか。同アイドルグループを運営する「AKS」(東京・千代田)は「原則として削除要請はしていない」といい、こちらは黙認姿勢だ。それどころか、映像の質が高い100近くの動画を「公式」と認定してすらいる。同社の営業PR部は「多くの人に親しんでもらうのは歓迎すべきこと。地域に密着した人気につながると考えている」と説明する。

アイドルグループAKB48のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」は、ネット上に多くの関連動画がアップされている(C)AKS

 東洋大学の安藤和宏教授は利用者の立場に鑑みて、今回の恋ダンスの削除要請について「理由をもう少し丁寧に説明した方がよかったのでは」と指摘する。デジタル関連法務に詳しい水野祐弁護士は「今回の削除決定はもったいないし、ファン心理を害する恐れのある行為」とする一方で、「一度条件付きで許諾した以上、ずるずると条件を緩和しては今後の知財管理・取り締まりに悪影響がでかねない。長期的な観点から苦渋の選択だったのではないか」とみる。

 もう一つ素朴な疑問がある。恋ダンスの踊りについては著作権は生じないのだろうか。

 著作権法は「舞踊または無言劇の著作物」の権利を保護している。福井弁護士は「詞・曲、音源だけでなく、振り付けも独創的なものであれば著作物に該当することがある。振り付けの著作権者が拒否すれば、その振り付けをまねた動画は配信できなくなる」と話す。ただ「保護一辺倒ではなく、ある程度自由に二次創作ができるよう、意図的に黙認しているケースも増えている」とも言う。恋ダンスの場合は、振付家側は「CD音源を使用せず、個人が楽しんで踊っているものに関して削除してほしいという意向はない」(同振り付けの権利を管理するイレブンプレイの白岩よう子取締役)という。

 海外の作品を巡っても、ディズニーアニメ「アナと雪の女王」の「Let It Go」、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」などを使った動画が国内外で投稿されている。米国では引用時間が短いなどの条件で利用できることがあるが、米国知財法に詳しい一色太郎外国法事務弁護士は「音が明瞭でリミックスもされておらず、恋ダンスのように比較的長時間使われている場合は、使い続けることは米国でも難しいだろう」と話す。

 さて結局、恋ダンスを踊った動画は今後、全く投稿できないのか。改めてJASRACに確認すると「恋ダンスについては今後、正規の音源を使わずに個人ユーザーが演奏した音源をバックに踊るのであれば、引き続きユーチューブへのアップはできる」という。

 国内2位の音楽著作権管理会社ネクストーン(東京・渋谷)も9月4日、楽曲の利用状況に応じて著作権料を受け取る形でユーチューブに包括的に許諾することを公表した。国内の楽曲はほとんど、曲そのものの著作権については自ら演奏する形でならユーチューブに投稿できるといえそうだ。

 結論としては、今後、恋ダンスを踊った動画をアップしたければ、その場合に使う音源は「自分らで演奏したものに限る」ということだ。
(編集委員 瀬川奈都子、伊藤正倫、植松正史、児玉小百合)[日経電子版2017年9月8日付]

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