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発信! 理系女子(18)本当はすごい!
「有機化学」の魅力

authored by 東北大学サイエンス・エンジェル
発信! 理系女子(18) 本当はすごい!  「有機化学」の魅力

 こんにちは、東北大学サイエンス・エンジェルの大澤沙優里です。みなさん、化学はお好きですか? 今回は、有機化学の研究室に所属する筆者が、化学(特に有機化学)の世界についてお話します。有機化学とは何か、普段私達がどんなことをして、どんなことが魅力なのかをお伝えしたいと思います!

有機化学って何をするの?

学会にて、ポスター発表

 「理系なんですね! 何の研究をしているんですか?」と問われることが多々あります。例えば生物学科であれば「鮭の研究をしてます」とか、物理学科であれば「宇宙の起源の研究を...」とか言えるのですが、我々有機化学をやっている人間は「有機化学やってます!」と言ってもなかなか何をしているのか理解してもらえません。お互いの間にある深い溝の存在に気づくのみです。「有機化学」の文字が人々の目に止まるのは、おそらくノーベル化学賞の時くらいではないでしょうか。

 しかし有機化学は、一般の人には低い知名度を持ちながら、薬・理・農・工学部にまたがる理系一大分野のひとつです。筆者が所属する薬学部だけでも6つの研究室が有機系です。なぜこんなにも多いのか?それは有機化学が、我々の生活にとって欠かせない学問だからです。

染料として使われている化合物等。色鮮やかですね!

 有機化学とは、文字通り「有機化合物」を対象とする学問です。炭素を中心とした化学であり、我々の体を構成するタンパク質もまた有機化合物と言えます。対して、「無機化合物」は主に金属等を指します。「有機物」というと生き物のイメージですが、実際の有機化合物は生き物とも限りません。

 と言われても、知らない人には何のことかわからないかもしれません。例えばある日の朝を例にとってみましょう。朝、起きて、朝ごはんをつくります。食材の野菜やお米を栽培するには農薬が使われていますね。卵が入っていたパックのプラスチック(PET : ポリエチレンテレフタラート)は、年間40万トン以上生産されているものです。デザートに食べた苺の香りは単一の成分からなるのではなく、100種近くの成分のブレンドです。

研究室の先生と仲間たち

 さて、身だしなみを整えます。化粧品に含まれる顔料という成分、これは色素のことで有機物から成るものもあります。服の素材も染料も、今挙げた化学物質やそれを合成するための反応は、人工物であれ天然物であれすべて「化学式」で書くことができます。これらの化学式は、炭素や水素、窒素といった周期表上の原子で構成されています。

私たちの生活は有機化学のおかげ!

 あまりにも多くのものが有機化学という分野の産物です(もちろんあらゆる科学の産物に我々の生活は支えられています) 。有機化学は、これらの化学物質を作り、解明し、安全に取り扱うための学問です。分子レベルのお料理と言えば、おおよそそれは「実験」に等しいです。

興味をもった人におすすめな本。世界史を動かした分子たちという視点が面白い

 実際、普段行っているのは物質を混ぜたり加熱したり...そんなことの繰り返しです。天然にあるものをどうやって人工的に作るか? 新しい反応を開発できないか? 新しい物質を作れるか? これが大学で私達が行っている実験の中身です。

 企業においては、これらに加えて、作られた料理をどうやってたくさんの人に提供するかを練ります。言い換えると、小さなスケールの実験を「産業に落とし込むこと」が有機化学の最大の目標です。産業へと落とし込むには、原料価格や反応の収率、作業する上での安全性や環境への配慮など、様々な項目をクリアしなくてはなりません。この目標のため、日夜有機化学者は心血を注いでいるのです。

 もしも自分の開発した手法が産業界で役に立ったら?それはこの上なく誇らしく、わくわくすることだと思います。

 たとえばノーベル賞を受賞した鈴木宮浦カップリング(優れた反応には開発者の名前がつくのです!)。筆者も拝むレベルでお世話になっていますが、これは液晶や医薬品など幅広い物質をつくるための画期的なルート(反応)として役立っているのです。

学部卒業式にて。全員有機系女子!(中央が筆者)

 ひとつの料理をつくるためにたくさんの工程が必要になるように、ひとつの製品(薬、プラスチック、色素etc)をつくるためにたくさんの反応が必要になります。鈴木宮浦カップリングはその一工程にすぎないかもしれませんが、この反応がなければなしえなかったことは数多くあります。地道な基礎研究があってこその応用研究なのです。

 マザーグースにこんな歌があります。

一本釘なく蹄鉄が作れず
蹄鉄なくて馬がない
馬がいなくて騎士乗れず
騎士がいなくて戦に負けて
戦に負けて国滅ぶ
すべては釘がないせいだ
(「For want of a nail」小林力訳『マザーグース』)

 我々の行っている有機化学の研究は、まさに釘や蹄鉄に等しいかもしれません。ですが、釘がなければ、我々は今のような豊かな生活を送ることなどできないのです。

 「有機化学」が生活に身近な学問であるということを知ってくださると、我々はとても嬉しいです。次回は、こんな化学系の筆者の就職活動について、お話ししたいと思います。

研究室旅行にて同期たちと

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