伝えるべき情報整理は急がば回れ
簡潔にわかりやすく書くコツ(4)
文章を書くことが苦手な人には共通点がある。何を、どのようなストーリーで書くかを決めず、いきなりパソコンや原稿用紙、答案用紙に向かい書き始めることだ。これでは、誰だってきちんとした文章は書けない。速く書きたかったら、いきなり書こうなどとは思わず、逆に回り道をするのだ。「急がば回れ」である。
まず、下準備をするのだ。
スポーツをするとき準備体操やストレッチをするだろう。料理をするときも、材料を考え、下ごしらえをする。鍋釜をそろえるだろう。文章を書くことも同じだ。下準備をするかしないかで、結果が大きく左右される。
メールとは違う書き方を
次に、きちんとした文章はメール文章とは違うと心得よう。何故か。「思い」「考え」を頭に浮かぶままキーを打っていくのが一般的なメールの仕方だろう。瞬時に頭に浮かんだ言葉、言いたいことを時間優先で、次々にキーを打っていく。主語がないこともある、逆に主語が2つ、3つあっても気にはしない。主語と、述語の間に別の文節が入っていようがお構いなしだ。その時アタマに閃いた文章を速く打っているのだ。
話し言葉あり、「だ」「である」の文語文もある。何でも有りの、言ってみれば粗雑な即興文といってもいいだろう。読みやすいように丁寧に直しやしない。書き手も読み手も承知の上で、やりとりをしている。お互いに用が足りればそれでよいという暗黙の合意のもとだ。理解できないことがあれば返信して問いただす。聞かれた方はそれに答える。それでなんとか上手くいくので、みんな便利に使っている。
しかし、前にも言ったように、これは緩やかな人間関係、家族とか先輩、後輩といった友達関係でのことだ。これから社会人、企業人になって新しい世界に身を置いたら、この技だけでは通用しない。報告書や小論文をパソコンで作成するときも、メールの流儀でいきなり書き始めたら、あとがたいへんだ。
試しに一度実験したらよい。とりあえず、何を書くのかを頭の中で考え、おおよそ決まったらパソコンに向かい、キーを叩き文章を書き始めるのだ。頭に浮かんだことを次々にキーで打つ。できたところで見直すのだ。
冷静になって読み直す。伝えたいことの焦点がはっきりしない、論理がおかしく、流れるように読めない。それぞれのセンテンスも長すぎて、主語が2つあったり、3つあったり理解しにくい。おそらくそんな文章になっているに違いない。
さあ、手直しが必要だ。コピー、貼り付け、校閲機能などパソコンの機動力を使って直しに入るが、十中八九、大混乱するはずだ。混乱した文章を直そうとするとアタマの方も混乱し始める。イライラし始め、やがてアタマが疲れ、混乱に拍車がかかる。一度書き上げた文章を直すのには相当のエネルギーが必要なのだ。
といって、それが上手くいくとは限らない。時間ばかりがたつ。非効率きわまりない。
これを未然に防ぐのが下準備なのだ。
ここで緊張して身構える必要などない。ライン文章の延長線上にきちんとした文章がある。要はいきなり文章をキーに打つのではなく、その前に何を伝えようかと考えることに時間を割くのである。上手く書けないのは、伝えたいこと、伝えるべきことがはっきりしないからだ。
さて、その時の、「お助けマン」がメモなのである。
メモが頼りになるのである。「言葉、文章の記憶力は信じない」これが大切なことだ。あなたたちはまだ記憶力が強い。物覚えのよい年頃である。
しかし、記憶は都合のいいものだけが残り、あとは、薄れるのも事実である。特に、言葉、文章については要注意だ。
伝言ゲームを思い起こしてほしい。最初に言った人の話を次々に人を介して伝えていく。途中で変わっていくのを他人が見て楽しむゲームだ。何故このゲームが面白いのか。伝言が正しく伝わらないからだ。
ジャーナリスト、作家は文章を書くことが生業だ。彼らにとってメモは命だ。これがなければ仕事にならない。
ノートとる習慣を武器に
あなたたちは小学校からこれまで、さんざんノートを取ってきたはずである。試験に合格するために必死になってノートしてきた。楽しくはなかったと思う。だから社会人になったら、もう要らない、おさらばしたいと思っているかもしれない。
しかし、それはいかにももったいない。むしろ、これまで培ってきたノートを取る習慣、能力がこれから生きていく上での「武器」であり「お宝」なのだ。
黒板を書き写す世界から、見聞したことをメモや箇条書きに取り置き、「情報力」を強くするのだ。伝えたいこと、伝えるべきことをこまめにメモし、メモを見ながら、補足メモを追加し、伝える順番を考えるのだ。それができあがったところで、文章が初めて書けるのである。「書くことは考えることである」というのはこのことだ。
次回はそれをどう取りまとめるかという書き方のコツを書こう。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。