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[ skill up-自己成長 ]

リーダーは助けを求めよ
デンマーク流の指導者研修
レア共同代表 大本綾氏(下)

リーダーは助けを求めよデンマーク流の指導者研修 レア共同代表 大本綾氏(下)

 「教育デザインファーム」を掲げるレア(埼玉県越谷市)共同代表の大本綾氏が社会人になってから学びの場として選んだのは、デンマーク第2の都市、オーフスにあるビジネスデザインスクール「カオスパイロット」だった。企業人はもちろんのこと、芸術家やスポーツ選手、シェフ、看護師、ダンサーなど多種多様な人が学ぶスクールでは、いつ、誰が、どんなリーダーシップをとるかによって、学びの質も大きく変わる。大本氏はここでリーダーシップの本質を学んだという。(前編「「君が1番」には反発 デンマークで学んだ幸せのコツ」

 デンマークには世界有数の海運会社「マースクライン」をはじめ、レゴブロックで有名な「レゴ」、ビールメーカーの「カールスバーグ」、補聴器メーカーの「オーティコン」など、世界的に活躍している企業が多くあります。小さくても存在感のある企業が多いのは、国としてのリソースが限られるなかでどうサバイバルしていけばいいのかを真剣に考えた結果だと思います。

 むやみに規模を追わず、限られたリソースを使い、創造性で勝負する。そのため、デンマークでは小学校から起業家教育に力を入れています。デンマーク人にとってのクリエイティビティーは芸術や余暇のためというよりも、生き延びるために必要不可欠なものだと感じました。

冬の森で「リーダーシップ」を学ぶプログラム

レア(埼玉県越谷市)共同代表の大本綾氏はデンマークでリーダーシップの本質を知ったという

 私がデンマークの厳しさを実感したのは、リーダーシップを学ぶプログラムに参加した時でした。授業の場所に選ばれたのは、冬の森。プログラムのディレクターがたまたまノルウェーの軍隊出身で、その人の経験を導入してカオスパイロットなりのプログラムを作ろうということになりました。

 最初にリーダーシップに関する「SL理論」を頭にたたき込みました。これは正式名称を「Situational Leadership(シチュエーショナルリーダーシップ)理論」といい、唯一最適なリーダーシップのスタイルは存在せず、どのような行動をとるべきかは部下の成熟度など状況要因に応じて変わることを前提に、リーダーシップの型を分類したものです。リーダーシップの型には、具体的に指示し、事細かく観察する「教示型」、考えを説明し、疑問に応える「説得型」、人々の考えを総合して決められるように仕向ける「参加型」、責任を部下に委ねる「委任型」があり、それらを理解してから森へ入るのですが、理論そのものについて質問されたり、記憶を問われたりすることはありません。

 森に向かったのはたまたまひどい吹雪の日でした。地元の人たちは子どものころから森に入ることに慣れていて、持ち物のそろえ方や身のこなし方からして違います。私はと言えばスノーボードに行くような格好で参加してしまい、出だしから「しまった」と思いました。

 1学年全員でバスに乗って森の入り口まで行くと、約10人ずつのチームに分かれます。そこで持っていた食料を没収され、時間内に指定された場所に到着しなさいという指示を受けます。水をたくさん持って行った私は歩くのも大変で、かなりつらい気分を味わいました。

試される「自分流のリーダーシップ」

大本氏は「デンマークで、リーダーとしてのふるまいは人それぞれだと学んだ」と話す

 地図は渡されたものの、森の中ですから、あってもなきがごとしと言いますか、吹雪で先は見えないし、荷物は重いし、自分がどこを歩いているのかもわからなくなることがあり、不安でした。時間ごとに「次はあなたがリーダーをやってください」と指名されるのですが、「リーダーだからこうしなくてはならない」という指示は一切なく、何をすべきかは各自、自分で考えなくてはなりませんでした。

 指定された場所に到着してからも、次々とクリアしなくてはならない課題を与えられます。その課題がなかなかハードで、時間内にクリアできないと、食事をもらえないなどのペナルティーを受けます。ブルーシートとひもだけ渡され、「制限時間内にみんなで協力してテントを作りなさい」などと言われます。周りをよく観察し、その日の気候や気温に合わせて、その場で手に入る素材を使ってテントを作るのですが、これが大変でした。

正解がないなかで、集団をどうリードするか

 課題にこれという正解はなく、チームの構成メンバーによってもやり方が違います。個々人の持っているスキルがバラバラなため、それをどう組み合わせ、生かしながら一つのものを作り上げていくかを実践的に学んでいくわけです。

 時間内にクリアできないと、そのチームは食事を用意する係となって、自分たちは食べられません。スクールですから罰則を与えることが目的ではなく、学ぶことが重要。節目ごとに振り返る機会を必ず与えられます。その当時の心境や考えたことなどを正直に吐露し、空腹のチームを放っておくとどうなるか、本当にそのままでいいのかと質問され、全員で話し合います。

 このプログラムを通じて実感したのは、人に助けを求めるのもリーダーシップの一種なのだということです。力強くぐいぐい引っ張ることだけがリーダーシップではない。苦しかったり、わからなかったりしている状態で「助けてほしい」と声を上げることも、チームへの重要な貢献になるということでした。

 助けてと声を上げなければ作業がどんどん遅れて、チーム全体が困ってしまいます。「あの人たちは負けたのだから」と空腹のチームを放っておけば、全体がギスギスしてしまったり、争いが起こったりするかもしれません。したがって、適切なタイミングで助けを求めることも立派なリーダーシップだと感じました。

自分を過信しなければ、助けを求められる

 北欧の人たち、特にデンマーク人なら誰もが知っていることの1つに「Jante Law(ジャンテロウ)」があります。1933年にデンマークの作家が実話小説の中で記した10カ条から成るおきてで、その1番目に、「自らを特別であると思ってはいけない」という言葉があります。自分は人より多くを知っている、優れた人間であるという思い上がりを戒める言葉であり、日本人が礼儀正しくあろうと思うのと同じように、彼らはいつもこれを気にしています。

 ビジネスをするうえでは、自分自身に才能があるかどうかではなく、誰と一緒に組み、どういう関係性を育んでいくかが一番大事。デンマークで学んでから、自分に才能がないからどうしようと悩むことはなくなりました。今、レアが入居している東京オフィスは南青山にあり、私たちだけで借りようと思えば家賃を払うのが大変ですが、北欧最大級のブランディングエージェンシー「コントラプンクト」とスペースを折半し、事業も協力し合いながら進めています。

 一番変わったのは、リスクを恐れなくなったことかもしれません。才能がなくても、学び続ける力と情熱を語るスキルさえあればなんとかなりますし、他人と協力し合えばできることはたくさんあります。自分の能力を過信することもなくなりましたし、良くも悪くも楽観的になりました。

大本綾
 レア共同代表。1985年生まれ。2012年8月、デンマークのビジネスデザインスクール「カオスパイロット」に留学。帰国した15年、共同代表の坂本由紀恵氏とともに教育デザイン会社「レア」を設立。企業や行政、教育機関などに向けた研修事業を展開。

(ライター 曲沼美恵)[NIKKEI STYLE 2017年8月31日付]

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