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[ liberal arts-大学生の常識 ]

渡辺直美が語る
熱き「ぽっちゃり」人生
そしてファッション

渡辺直美が語る熱き「ぽっちゃり」人生そしてファッション

 ファッション分野で、ぽっちゃりさんの逆襲が始まった。おしゃれを楽しむ人が急増し、「狭い市場だから」と放置してきたアパレル各社の目を覚まさせた。大きめサイズの通販モールが活況、実店舗の専門店も急増している。誰でも自分に似合うものが探せてこそのファッション。ぽっちゃり服人気の火付け役となったタレントの渡辺直美さんに人生、ファッションについて聞いた。

 渡辺さんといえば今やファッションアイコン、インスタグラムのフォロワー数は日本一だ。ブランド「プニュズ」までプロデュースしている。ぽっちゃりファッションへの偏見と闘ってきた渡辺さん。今の若い世代には「自分と違うこと」を尊重する気持ちが生まれているという。

実は...モテて大変なんです

 ――ぽっちゃりさんのおしゃれの流れは。

今の若い世代には「自分と違うこと」を尊重する気持ちが生まれていると語る

 「10年くらい前は『やっぱりファッションは細い方がいい』という考え方が多かった。太っている人がおしゃれしちゃいけない、服を選んじゃいけない、というのがすごくあった。(ぽっちゃりファッションを)理解できない人が8割くらい、理解しようという人が2割くらいだったと思う」

 「芸能界に入ってタンクトップを着ていたら、女性から『よく腕出せますね。相当自分に自信があるんですね』と言われた。分かります? 細い人なら何も言われないのに。『夏で暑いから』って答えましたけど、そういう考え方はさみしい」

 ――周りの考え方は変わってきていますか。

 「今は、太っている人がおしゃれするのが理解できないっていう人が4割くらい、『そういうのがあってもいいじゃん』という人が3割、残りが理解できる人です。以前は自分のキャパシティー以外のことは批判するっていう世界だったのが、今は自分の世界にないことをリスペクトする風に変わってきているかな」

 「男性の見方は、年上は(私を)キャラクターとしてかわいいと見てくれて、年下は、ちょっとセクシーっていう感じで見てくれてたりして。やっぱり年下からの方がモテるっていうか......(モテて)大変です! 人に対する受け入れ方が、私たちの同年代かそれより下の方が多様性がある」

「デブ体形が武器になる」

 ――ぽっちゃり体形自体はどう思いますか。

 「私は太っているのをおすすめしているわけではない。太っていていいことは何もないんですが、今を楽しんでほしいと思っています」

 「周りの人に『デブって言わないで』というのは無理だから、その人たちを変えるんじゃなくて自分の心を強くする。デブって言われたら『そうだよデブだよ。でも私にあって、あなたにないものはそれだよね』って。私の方が1個武器あるよね、っていうくらいの心の広さをアピールしたら、向こうが負けでしょ」

 ――ブランド「プニュズ」を手掛けた経緯は。

 「私は昔からファッションが好き。でも太っているからトレンドの服は着られなくて、メンズの服しか着られないことが多かった。でも『こういうの着たい』っていうのは10代の時からあった」

 「東京に出てきてお金も増えて『ファッション楽しめる』ってなったときに、サイズがなかった。かわいらしい洋服のブランドはあったんですけど、もっとパキッとしてパンクな服も欲しいと思っていたら、ちょうど(プニュズの)話がきた」

 ――どんな服作りを目指していますか。

 「太っている人がやせている人に『その服どこの? かわいい』って言うことはあっても、逆はないじゃないですか。それが『え? 何そのTシャツ、そのスカートかわいい』って女子同士の普通の会話になるような服を作りたいと」

 ――主人公がぽっちゃりな漫画が原作のTBS系ドラマ「カンナさーん!」(火曜夜10時)で主演。衣装選びもされた?

 「提案される衣装が『太っている人はこういう格好するだろう』というものでした。『それは10年前のデブですよ。今太っている人はレベル高いしファッションを楽しんでいるから、その組み合わせは絶対ないです』という話をしました」

 「ピンクのニコちゃんマークが付いた青いシャツに、私は絶対ピンクのタイトスカートがいいと言った。監督は白のパンツはどうですか、と。(太っている人は)スカートをはかないっていう固定観念をどかしたい。第2話くらいからは私の私服が色々登場してます」

 ――ぽっちゃり市場に大手アパレルも参入してきました。

 「やっと時代が追いついてきたっていう感じですかね」

◇        ◇

太め服、かつてはリスク いま商機

 東京・渋谷で出会ったぽっちゃりな女性(20)。彼女は最近、美容専門学校の友達が教えてくれた通販サイトで、1万5000円のワンピースを買った。「サイズがないことに悩むことが多いから、買い物がしやすくなりますよね」。このサイトは、カタログ通販大手ニッセンが4月に開いた通販モール「Alinoma(アリノマ)」だ。

 アリノマは女性のぽっちゃりサイズに特化。若者に人気の「アースミュージック&エコロジー」、百貨店向けの「23区」など有名どころも参加し、20ブランドで始める予定が倍の39になった。

 「ブランドさんの熱意は想像以上」とサイズ事業本部の担当者、大橋さと美さん。現在は58ブランド、約1900アイテムを扱う。3カ月間の売上高は計画の2.5倍、アクセス数は同13倍。3万円のワンピースなど高額品が売れている。「ぽっちゃり界のゾゾタウンを目指す」と大橋さんの鼻息も荒い。

 紳士服大手のAOKIは今春、大きめサイズ専門店「サイズマックス」を4年後に2.5倍の150店に増やす計画を打ち出した。2017年4~7月の既存店の売上高は1割増と好調。AOKIホールディングスの青木彰宏社長は「AOKI、オリヒカに次ぐ第3の柱に育てる」とまで言う。同業のはるやまホールディングスも専門店「フォーエル」を今期は10店出店。今月、大きいサイズ専用の通販サイトも開いた。

 にわかに盛り上がるぽっちゃり服市場。それはアパレル業界のこれまでの怠慢の裏返しでもある。ニッセンによると、20~60歳の女性で2Lサイズ以上の体格の人は11.5%。対して、このサイズの婦人服の市場規模は全体の3.5%どまり。「太めサイズの商品が十分に供給されてこなかった」(同社)ためだ。

 太めサイズをそろえ各店舗に薄く広く置くと、売れ残りや欠品リスクが高まる。「最大公約数のマス層に売れる商品を大量投入する方が効率が良かった」とは、大手アパレル社長の率直な弁だ。

スマイルランドではぽっちゃり体形の店員に固定客がつく(兵庫県尼崎市)

 しかしファッションとは、体形も好みも違う消費者が、自分にぴったりな服を見つけることに楽しさがある。ニッチを切り捨て、似た売れ筋を大量に作り、売れ残る。その繰り返しが今のアパレル不況を生んだ。

 紳士服専門店「サカゼン」の坂善商事(東京・中央)は、1986年から大きいサイズの取り扱いを始めた。最初の5年は赤字続き。「店が認知されない、太めな人を狙い澄ました広告が打てない、『大きいサイズ』も2Lから10Lまで様々で在庫が膨らむ」と村上隆司社長は当時の「三重苦」を振り返る。

 粘り強く電車内の広告などを打ち、固定客をつかんだ。ワイシャツを一度に10枚まとめ買いするなど、客単価は普通の2倍以上。「ニッチだがつかめば大きいマーケットだ」(村上社長)

おしゃれなぽっちゃり女性急増

マネキン製造販売の七彩は3月、ぽっちゃり型(手前)を発売した

 消費者の意識も大きく変わっている。タレントの渡辺直美さんなどの登場をきっかけに「おしゃれなぽっちゃり女性が急増した」とアパレル関係者は口をそろえる。ニッセンの大きいサイズの独自ブランド「スマイルランド」では、昔はおしりが完全に隠れる服や暗い色が売れていたが「ここ数年は短い丈やマスタード色など普通サイズと売れ筋が同じ」(同社)。

 13年にぶんか社(東京・千代田)が創刊したぽっちゃり女性向けファッション誌「ラ・ファーファ」は7万部を発行する。三越伊勢丹など百貨店とのタイアップも多く、同誌所属の20人のぽっちゃりモデルがトークイベントやショーを開催。「ユニクロやアマゾンからも引き合いがある」(同社)という。

 マネキン製造の七彩(大阪市)は3月、太め体形のマネキンを発売した。昨年12月の展示会で参考出展したところ大手ブランドなどの評価が高く、商品化に踏み切った。ぽっちゃりファッションは着実に市民権を手に入れようとしている。

 ニッチ市場は競合が増えれば掘り尽くすのも早い。しかし、アパレル業界が多様な消費者ニーズに応える一歩と考えれば、ぽっちゃりブームは大きな意味を持つ。
(川本和佳英、鈴木慶太) [日経MJ2017年8月11日付を再構成、日経電子版から転載]

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