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英EU離脱交渉に進展は?
英の政治的混乱で停滞

英EU離脱交渉に進展は?英の政治的混乱で停滞

 2016年、英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めたけど、双方の話し合いが進展したという話が聞こえてこないわ。交渉は今、どうなっているの。何が問題になっているのかな。

 英国の欧州連合(EU)離脱について、刀祢館久雄編集委員に話を聞いた。

――英国はなぜEU離脱を決めたのですか。

英国は2016年6月の国民投票で52%対48%という僅差でEU離脱を決めた(2016年6月、ロンドン)=写真 小林健

 「英国はもともと自国の独自性や主権を重視する傾向が強く、独仏などが主導した欧州統合にも半身の参加姿勢でした。2016年6月の国民投票では、自国のことは自分たちで決めて管理する権利を取り戻そうという主張が根強い支持を集め、52%対48%という僅差で離脱が決まりました」

 「この中で、特に大きな議論になったのが移民の問題です。EUは加盟28カ国がお互いに関税など貿易の障壁をなくし、域内で単一市場を構成しているのが強みです。その前提が人、モノ、サービス、お金の域内での自由な移動を認めることです」

 「04年から東欧諸国などが加盟すると、労働条件のいい国に労働者が流入しました。当時は英国も移民に寛容だったのですが、グローバル化でエリート層とそうでない層との格差が目立つようになったことなどに伴い、外国人に職が奪われるのではとの警戒感が広がりました」

――離脱に向けた交渉はどうなっていますか。

 「英国は国民投票の結果を受け、17年3月にEUに離脱を通知しました。原則2年後に離脱するルールですが、英国で政治的な混乱が続き交渉は停滞しています。17年6月の総選挙で与党の保守党は過半数を確保できず、メイ首相の政治指導力が大幅に低下したことが一因です」

 「移民規制のため単一市場から出るしかないという強硬派と、移民をある程度制限しつつも単一市場への参加など経済関係を重視する意見に英国内は割れています。EU側にすれば後者はいいとこ取りを許すことになりかねず、合意は容易ではありません」

 「『清算金』の問題もあります。EUの予算は加盟国が分担して負担しています。英国が分担金を出さないと計画に穴が空くためEUは未払い分などを請求しています。交渉はまず清算金の扱いなどを優先し、前進がみられてから離脱後の通商協定などについて話し合う2段階方式です」

 「交渉が難航すれば離脱予定の19年春に間に合わない可能性があります。決裂したまま強制離脱となれば混乱は必至で、そんな事態は何としても避けなければなりません」

――英国経済は離脱後、地盤沈下してしまうのですか。

 「EUと結ぶ新たな通商協定がどうなるかが大きなポイントです。これまではEUが域外の国々と交渉し、決まった通商協定が英国にも適用されていましたが、今後は個別に各国と交渉し直すことも必要になります。17年7月に日本とEUが経済連携協定(EPA)に大枠合意しましたが、英国は日本と個別に協定を協議しなくてはなりません」

 「金融機関は事業をするのに免許が必要です。EUの場合、加盟国で取得した免許は域内どこでも通用します。しかし、離脱後は英国で取得した免許がEUで通用しなくなる可能性があります。この機に乗じてドイツのフランクフルト、オランダのアムステルダム、アイルランドのダブリンなどの都市が、金融センターとしての機能をロンドンから奪おうと狙っています」

――日本企業に影響は出そうですか。

 「英国は欧州の大きな拠点で、日系企業は約1000社が進出しています。金融機関は英の離脱後に備え、欧州大陸側でも免許を取得し、英国と大陸の双方に拠点を確保するというスタンスです。一方、製造業の多くは慎重に様子をみています。自動車メーカーなどにとって、英国とEUの間の輸出入で高い関税がかかるようだと、生産拠点としての強みが損なわれます」

 「英国の離脱は欧州全体の経済に悪影響を及ぼす可能性があります。今は強気の姿勢が目立つEU側も、最後は現実的な落としどころを探る必要があるでしょう」

■ちょっとウンチク
世論、離脱実施の支持強く
 国民投票は僅差だったし、これほど苦労するのなら、いっそ離脱をやめてEUに残ってはどうか。英国でも「国民投票をやり直そう」と唱える人たちはいる。EUの離脱ルールには書かれていないが、少なくともほかの加盟国すべてが認めれば離脱の撤回は可能という見方が有力だ。
 ただ、英国ではいまのところ「決めたからには離脱すべきだ」と考える人が多い。英調査会社ユーガブの17年6月の世論調査では、離脱実施の支持が70%にのぼり、政府に国民投票の結果無視や再投票を求める声は21%にとどまった。
 投票結果を尊重する世論の強さが印象的だ。ただ、交渉が本格化するのはこれから。今後、苦境が鮮明になればこの数字は変わるかもしれない。

(編集委員 刀祢館久雄)[日本経済新聞夕刊2017年8月14日付、日経電子版から転載]

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