日本経済新聞 関連サイト

OK
liberal arts-大学生の常識

20年後から見る職選び(1)飛行機もワンマン化へ
パイロットの将来は?

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
20年後から見る職選び(1) 飛行機もワンマン化へパイロットの将来は?

 今回から始める連載では、AI(人工知能)の実用化が進むなど社会構造が大きく変動しようとしている中、これから10年後、20年後から見て、就職先として魅力的な職業はどのようなものか、について考えていきます。最初の数回の連載では、現在、将来ともに日本の経済への貢献が最も期待されているインバウンドに関わる職業の有望性、将来の可能性について検討してみたいと思います。

 今年も、海外から日本を訪れるインバウンド旅行者の数の増加は好調で、過去最高の勢いで伸びています。9月15日には2000万人を超えました。これは昨年よりも45日早いペースです。このままで推移すれば、年間で3000万人に迫る結果となりそうです。

 政府の観光政策で掲げられている目標では、今から13年後の2030年には6000万人の外国人旅行者を日本に誘致するとしています。そうだとするならば、当然、観光に関連する産業に就職することは、将来有望で、様々なチャンスを手にできると考えたくなります。

観光関連の職業、AIが将来性左右

 しかし、実際には観光関連であればどれでもうまくいくということでもなさそうです。同じ観光に関係する職業でも、今後はAIの発展などによって、その将来性に大きな差が出てくるのではないかと考えられます。

 たとえば、今も昔も花形の職業である、飛行機のパイロットについて見てみましょう。インバウンドが増加することは、必然的に航空需要の増加につながります。日本は島嶼国家ですから、外国から日本を訪れるとするならば、飛行機か船によるしかないからです。その点はフランスなど、ヨーロッパの観光大国と呼ばれているところとの大きな違いです。

 近年、クルーズ船によって日本を訪れる観光客も、中国からの需要を中心として増えています。2016年は199.2万人となり、対前年比で78.5%も増加しました。政府は2020年までにクルーズ船による訪日旅客の数を500万人にするという目標を立てています。こうしてみると、クルーズ事業にも今後大きな可能性がありそうです。

 ただ、インバウンド需要全体に占めるクルーズの割合はまだ低く、受け入れ体制の整備も、港湾での入国管理などの施設整備や、受け入れのための法整備など、まだまだ進んでいません。したがって、将来の成長に対して不透明な部分が大きいのも確かです。だからこそ、この分野に思い切って飛び込んで、富裕層を相手にしっかりと収益を上げていく道を選択するのは大いにありだと思います。

需要拡大続く航空関連

 一方、航空の方は、時間価値がますます高まっていく中、今後もその需要が減退することはないでしょう。民間航空機メーカーの最大手であるアメリカのボーイング社は、今年、最新の市場予測を発表し、その中で、旅客数は毎年4.7%のペースで増加していくとし、それに伴い、今後20年間の新造機需要は4万1,030機にも上るとしています。この点から考えれば、航空機メーカーも、メーカー間での激しい競争はあるものの、今後も強い存在感を示し、その中で有力なメーカーに就職できれば将来はかなり有望です。ただし、過去の例を見れば、好不調の波に伴い、大規模なリストラも何度か行われてきていますので、絶対的に安定的な職場とも言えませんが。

 さて、パイロットに話を戻しましょう。飛ぶ飛行機の数が増えれば、現状を前提とすれば、当然それを操縦するパイロットに対する需要も増加します。事実、現時点において、特にLCC(低コスト航空会社)の急成長に伴って急増する航空需要にパイロットの養成が追い付かなくなっています。航空会社間でパイロットの引き抜き合戦が展開されており、下手をすればパイロット不足のために事業を縮小せざるを得ないところまで追い込まれている航空会社もあるくらいです。日本の政府もこの問題を重視し、大学でのパイロット養成を促進するなど、様々な施策を実施しようとしています。

 しかし、今後、本当にパイロットがずっと不足していくかどうかは改めてよく考えてみる必要があります。技術開発が進むことで、飛行機の自動操縦は離陸や着陸を含め、全フライト行程にまで及ぶものと予測できるからです。

 現在でも離陸・着陸以外はほとんど自動操縦になっていますし、着陸に関しては、濃霧が発生した場合などには自動操縦で着陸するという場合も出てきています。

航空輸送は自動化向き

 飛行機が出発してから目的地の空港に着陸し、ターミナルビルに向かうまでのルートは、ほぼ完全にコントロールできるものです。これに対して、自動車などの場合には、誰もが利用する一般道路を走行しますので、いつ、どこで、どのような不測の事態が起こるか予想できません。つまり、航空輸送は自動化がしやすい環境にあるのです。

 航空機よりもより全体の行程を制御しやすい鉄道では、自動化、あるいはワンマン運転化が進んでいます。東京の地下鉄「丸の内線」はすでにワンマン運転になっておりますし、「ゆりかもめ」や大阪の新交通システム「ニュートラム」はすでに無人運転化されています。

 飛行機の操縦も、すぐに無人化するということへの抵抗は極めて強いことは理解できますが、パイロットの需要の増大と供給不足を受け、少なくともワンマン化は進む可能性は高いと思います。

 振り返ってみれば、昔は5人の航空運航に関する専門職(機長、副操縦士、航空機関士、航空通信士、航空士)がコックピットに入って飛行機を飛ばしていました。それが機長、副操縦士、航空機関士の3人態勢になり、その後、操縦士側からの強い抵抗を受けながらも、結局は現在のような機長と副操縦士の2名乗務体制となりました。そして、現在の技術をもって、今や1名乗務が検討されるべき段階になっています。

 もちろん、パイロットという職業が完全になくなることはないと思いますが、定期便を運航する世界では、限られたエキスパートだけが自動操縦に向かない特殊な空港・ルートの運航、あるいは機械の不備への対応、さらなる技術向上に向けたサポートスタッフとしての役割を担うのではないかと思います。そのため、単にパイロットになるというだけではなく、その道を徹底的に極めるという覚悟が今以上に求められることになるでしょう。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>