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お悩み解決!就活探偵団2018就活に有利なはずが
出遅れる留学組の悩み

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 就活に有利なはずが出遅れる留学組の悩み

 「せめて8月解禁だったらチャンスがあったのに」――。海外留学から帰国して就活に挑む学生が苦戦している。語学力や海外経験は就活で有利なはずなのに......。大きな要因の一つは経団連が時期を早めた6月解禁の選考スケジュールだ。帰国したときにはすでに就活シーズンが始まっていて、その出遅れを挽回できないでいる。

企業側「6月中に採用終えたい」

イラスト=篠原真紀

 7月中旬、早稲田大学と大阪大学に約300人の学生が集まった。やや「季節外れ」にも映るリクルートスーツに身を包んだ学生もいる。

 早稲田大学、国際教養大、一橋大など国公立・私立の7大学が連携した「キャリア・アライアンス・7大学(CA7)」。主に帰国留学生を対象とした合同企業説明会だ。鹿島建設、新日鉄住金、全日空などの大手日系企業や、グーグルといった外資系大手が参加し、その場で選考する企業もあった。

 「6月に面接を解禁する採用スケジュールは、帰国留学生には厳しいと言わざるを得ない」。CA7の発起人の1人である早稲田大学の佐々木ひとみキャリアセンター長は、学生の苦しい事情を代弁する。

 グローバルな人材輩出で定評のある秋田県の国際教養大や、早稲田大の国際教養学部は1年間以上の留学をしなければ原則卒業が認められないなど、制度上留学を義務付けている場合もある。留学を推奨する大学側にとって、就活で留学が不利になる状況は、留学希望者を募る上でも見過ごすことができないわけだ。

 だが、こうした事情は企業にはなかなか伝わらない。実は、今回のCA7の開催でも意見の相違があった。

 大学側は帰国した4年生の学生にも、均等に就活の機会を与えたいと、開催時期を7月の最終週まで引っ張りたいと考えていたが、多くの企業側は6月中に採用活動を終える予定なので、6月最終週がベストと主張。結局、折衷案で7月中旬になったのだ。大学側が企業に参加を募った2月時点では「ぜひ参加したい」と意向を示しながら、選考が進むにつれ「採用がもう充足しそうだから」と辞退を申し出た企業もあったという。

インターン未参加でぶっつけ本番

早大、国際教養大、一橋大など7大学が連携した「CA7」。主に帰国留学生を対象とした合同企業説明会が開かれた(早稲田大学キャリアセンター提供)

 高校卒業後フランスの大学に進み、6月に帰国した女子学生Bさんは、8月上旬に自動車部品メーカーの内定を獲得して就活を終えたが、大手にはことごとくはねられた。TOEICのスコアは900点超、フランス語も堪能。海外経験が長いことをアピールしたが、面接官は「ウチではあなたの英語力をすぐには生かせない」と突き返した。もう少し早く始めていれば、英語力を認めてくれる大手にアクセスできたかもしれない――。こんな悔いが滲む。

 交換留学で米国の大学に1年間留学した大東文化大学4年の男子学生Aさんは、今年5月に帰国。6月からの面接にぶっつけ本番で挑んだ。しかし国内の学生と比べて就活スタート時点での知識や経験には歴然とした差があった。もちろんインターンの参加経験もない。20社にエントリーし10社で面接に進んだが、大半は1次面接で落ちてしまった。その後は猛勉強して追い上げ、なんとか精密機械メーカーから内定を獲得できたが、内定承諾の返事をまだしていない。せっかく留学したのに、海外赴任のチャンスがないという。9月になった現在も専門商社やメーカーを中心に海外赴任できる会社を中心に探している。

 ある大手企業の採用担当者は、「帰国留学生のポテンシャルが高いのはわかっているが、大量に学生を確保する採用スケジュールにはずれた人たちをフォローする体制が整っていない」とこぼす。

「後ろ倒し」→「前倒し」で翻弄

 帰国留学生が翻弄されているのは、ここ数年就活スケジュールが二転三転して変わったことが背景にある。

 就活が学業に支障をきたしているとして、採用スケジュールが大幅に「後ろ倒し」されたのが2015年のこと。面接などの選考解禁はそれまでの4月1日から8月1日に大幅に変更された。喜んだのは帰国留学生だ。6月に帰国しても十分に就活の準備ができる。

 しかし、その年の暮れから「後ろ倒し」は各方面からの批判にさらされた。選考解禁がずれ込んだことで、結果的に就活期間が延び、学生を疲弊させているという声が高まったからだ。経団連は翌年の16年から、選考解禁を8月1日から6月1日に前倒しすることを決める。

7月に開かれた交換留学生向けの説明会には、内定獲得に焦る学生の姿が目立った(東京都江東区の東京ビッグサイト)

 「まるでオフサイドトラップにかけられたよう」。後ろ倒しにより安心して就活に挑めると海外に飛び立った留学生の「被害者」も多かった。

 準備不足の帰国留学生の就活は、いきおい秋採用に集中するようになる。だが、秋採用を実施している企業は少ない。

 「少ない枠を争って帰国留学生が殺到しています。まるで帰国生同士のつぶし合いのような状況」と話すのは法政大学4年生の男子学生Cさんだ。Cさんは、大学の交換留学プログラムで、1年間オーストリアの首都ウィーンで学んだ。20社にエントリーして中小の金融と自動車ディーラーの2社から内定を取ったが、まだ納得できずに今でも就活を続けている。

 Cさんが疑問視するのは「留学生=英語ができる」という企業の先入観だという。ウィーンに留学していたため、ドイツ語が堪能だが「面接では、どうも英語以外の言語には需要がないと感じた」と肩を落とす。

 採用市場に詳しい人材研究所(東京・港)の曽和利光社長は「企業側は日本人留学生を『英語が話せる人材』程度に考えているのが現状」と分析する。大企業の人事の中には、「英語が話せる人材の中でも、できるだけ日本の大学にいて英語を話せる人のほうがよい」と話す人もいるという。

 こうした留学帰国生に対する本音は、採用スケジュールの変化で表面化し、彼らへの冷遇につながっているのかもしれない。

それでも9割近く「留学したほうがいい」

 一方で、長期で海外留学する学生の数は増えている。日本学生支援機構によれば、2015年に6カ月以上海外へ留学した学生は1万45人で、3年前と比べても12%ほど増えた。

 文部科学省を中心に官民で留学を促進する「トビタテ!留学JAPAN」が行った調査では、企業の採用担当者の62.1%が「留学経験者を採用したい」とし、84.4%が「大学時代に留学したほうがいい」と答えている。

 こうした声は建前にすぎないのか。当事者である学生や大学からは、データが示すほど留学が就活にプラスに働いていない現実が浮かび上がる。企業にとっては全体の中では少数派である帰国留学生のために採用計画を変えるまではできないというのが現状だろう。

 憂いていても始まらない。「トビタテ!留学JAPAN」のウェブサイトでは、7月以降も採用活動を行う企業のリストが公開されている。今年は3月9日時点で101社が名を連ね、大手も多数含まれている。同事業の西川朋子PRチームリーダーは「例えば留学先でスカイプによる面接を認める企業もある。留学生ならではの行動力を、情報収集にいかして就活をうまく進めてほしい」と話す。

 三井物産では、帰国留学生用に特別枠は設けていないものの、帰国後でも間に合うよう今年は7~8月にも選考を実施。帰国生の応募も多かったという。人事総務部人材開発室長の古川智章氏は、「慣れ親しんだ日本を離れて海外に出るような学生には、課題に挑戦し続ける素養を期待している」と話す。

 ただし留学の肩書きがあれば何でもいいわけではなく、「留学先で取り組んだ挑戦や学びは何だったのかが重要」(古川氏)だ。

 言葉も文化も違う異国の地での経験は、表面的な語学力以上に得るものがあるはず。想定外の事態に対応する力や、多様な価値観を認める柔軟性は、社会人として大切な要素だ。そうした有能な学生を吸い上げる仕組みがあれば、企業にとってもより効果的な人材確保につながるのではないだろうか。
(夏目祐介、鈴木洋介、松本千恵)[日経電子版2017年9月7日付]

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